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2008.5.13
 
 


落花生の話…


 「落花生讃」 白鳥省吾  [千葉県立八街高校図書館入り口の詩碑]

  いつ知らず
  葉は繁り
  花咲きて
  人知れず
  土に稔りぬ

 実にユニークな豆である。
 栽培上では生豆類(Pea)に近いが、硬いまま食べるという点では木の実(Nut)、というピーナッツの特徴の話ではなく、その生態の方。
 よく知られるように、この植物は、花が咲くと、“落花”というか、花の部分が柄と共に、いきなり方向を変えて、土にもぐりはじめる。そして豆をつけるのである。不思議な習性だ。

 土にもぐれない限り実をつけないと言われており、この生き方を頑固に変えない。
 普通なら、実が熟して、地上に落ち、その中に入っている種が発芽する。
 落花生は、その普通の仕組みを否定し、独自の生き方を追求しているのである。

 しかも、豆の周りには、発泡体の大きな殻。これは一体なんのためにあるのだろうか。
 まさか、ヒトに、殻剥きの楽しみを与えるための構造ではあるまい。どう見ても、クッションと水に浮く役割を担っているとしか思えない。
 恐ろしく変わった生活パターンだが、豆類としての伝統を捨てた訳ではない。夜は葉をたたんで眠るそうだ。

 つらつら思うに、大昔に棲んでいた環境がすごいところだったということだろう。
 普段は乾燥気候なので、実を土のなかに入れて水分が飛ばないようにする。ところが、ある日突然、雨が降り始め、洪水となる。殻は濁流に乗ってドンブラコという訳だ。
 ペルーの先土器時代、“tropical dry forest valley”(1)がそんなところだったようである。

 落花生君は、特殊な環境を愛する異端者なのだ。しかし、一番の知恵者でもある。

 そういえば、沖縄で、このジーマミーは味が違うから是非食べるように勧められたことがある。地元産の落花生の皮を、手で剥いたというのである。特別高額ではなかったから、地元産にかなりのこだわりがある印象を受けた。
 最近は、「ちょっちゅね」(2)(黒糖かけのお菓子)も定番化しているようだし、落花生大好きの土地柄なのでは。
 きっと、落花生君も沖縄の土が気に入っているに違いない。

 これに対して、東京の嗜好を対比して書きたいところだが、沖縄のようなこだわりはほとんどなさそうである。昔は、落花生といえば、薄皮がついた煎り“南京豆”と、“バターピーナッツ”だったが、今は、両者ともに人気が落ちてきた。煎りたての香ばしい豆を愛する習慣は消えつつあるのかも。煎り上げる職人もいなくなっていくに違いない。さみしい限り。
 そのうち、低温で揚げる「炸」の全盛が来るかも。
 現在の主流は、なんといっても“柿の種”。スーパーに山のように積まれているから凄い消費量だ。昔は“柿の種”といえばピーナッツ無しを指し、混ぜた方は“柿ピー”と呼ばれていたものだが、そんな言い方は消滅したようである。
 菓子コーナーは、ほとんどが、中国産ピーナッツだが、国産も復活してきたようだ。ただ、結構お高い。
 まだ定番とまではいかないようだが、千葉県産のゆで落花生も結構みかけるようになった。(3)
 昔は、秦野(神奈川県)辺りが主産地と聞かされていたが、住宅地化してしまったということか、滅多にみかけない。以前、鶴巻温泉に泊まったら、富士山の火山灰土で育てた地元の落花生は素晴らしいが、簡単に手に入らないとの話を聞かされたことがある。生産量が少なく、観光土産品化してしまったのだろう。(4)

 つい、お菓子の話になってしまったが、ピーナッツ料理も美味しいものである。といっても、豆の形が残るのは、台湾料理店でよく見かける、しらす(丁香魚)とピーナッツ(花生)の唐辛子炒め料理しか知らない。
 豆が余りに硬いから、ピーナッツ料理といえば、クリーム応用になってしまうのだと思う。
 ピーナッツは、やはり、豆と言うより、ナッツと考えた方がよさそうである。

 --- 参照 ---
(1) Tom D. Dillehay, et.al.: “Preceramic Adoption of Peanut, Squash, and Cotton in Northern Peru” Science 316 [2007.6.29]
  http://www.sciencemag.org/cgi/content/abst ract/316/5833/1890
(2) 「ちょっちゅね」製造者のウエブ  http://www.coralbio.co.jp/tkxcgi/shop/shop_index.cgi#start_movie
(3) ゆで落花生 「千葉のかほり」 http://www.8cci.ecweb.jp/tibanokaori.htm
(4) 秦野を代表する名産 http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/tosiseibi/machi/keikan/50sen_100sen/mirai100/files/isan060.html
(落花生讃の出典) 日本全国白鳥省吾関連文学碑 T- 12 白鳥省吾を研究する会
  http://ww5.et.tiki.ne.jp/~y-sato/hi12.htm
(落花生の絵) [Wikipedia] Koehler's Medicinal-Plants 1887 Koeh-163.jpg http://en.wikipedia.org/wiki/Image:Koeh-163.jpg


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