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2008.5.20
 
 


馬鈴薯の話…


  天空や 山の恵みと 芋を食む

 “ジャガイモ(学名 Solanum tuberosum)は、およそ8000年前、南米のアンデスを起源としています。したがって、2008年を国際イモ年(IYP, International Year of Potato)と宣言しようという最初の提案がペルー政府から発せられたのは至極妥当”(1)とか。

 1500年まで、ポテトはアンデスから外にはつたわらなかったようだ。随分閉鎖的な文化だった訳だ。だが、それは文字が無く、鉄製武器も持っていなかったからかも知れない。おそらく、欧州の侵略者にとっては、赤子の手をひねるような相手だったろう。社会のエリートたる技術口伝者を抹殺すれば、インカ帝国(Tawantin Suyu)(2)のインフラは即時崩壊に至るからだ。ただ、流石に、“Quecha”語の抹消には失敗したようだが。

 逆に、語り部からノウハウを聞き出し、文書化すれば、技術移転は簡単そのもの。農業技術そのものは高度に洗練されていたからである。お陰で、欧州の冷涼な地がジャガイモのお陰で豊かになった訳だ。

 そんなこともあるせいか、インカ文明は、主食がジャガイモとされているようだ。しかし、なんとなくしっくりこない説明である。この芋、ウイルスに矢鱈に弱いし、連作にむかないからだ。3,000mという高地の段々畑で、そんな植物の栽培をしていたら、突然の大不作に襲われかねまい。
 ジャガイモに頼っていれば、それこそ人のパンデミックではなく、芋のパンデミックで、文明が滅んでしまう筈。まあ、素人のいい加減な仮説だが。

 それにしても、ジャガイモ食の導入は驚異的だ。毒があるからだ。現代の視点では、どうせ芽だけだと、軽視する人が多いが、未熟な芋を食べたため食中毒が発生する位の威力ある毒なのである。(3)インカ時代は、おそらくもっと強烈な毒があった筈だろうが、それを無毒化する技術も開発していたのだ。まさに、技術の粋と言えよう。
 それだけではない。芋だが根ではなく、茎なのだ。そんなものを見つけて改良したのだから、余程の芋好きと言わざるを得まい。

 どういう訳か、このことを小学校で必ず教わるし、芋を切っての栽培実習まである。確か、澱粉製造の理科実験もあったような気がする。忘却のかなただが。
 根菜の栽培シーンさえ見たことがない都会の子供は、これらをどう理解するのだろうか。
 緑色のジャガイモを新鮮そうと語る大人がいたりする位だから、教え方を工夫する必要がありそうだが。(光が当たると、茎だから、葉緑素ができる。)
 それに、葛、片栗、緑豆(春雨用)の澱粉を代替してしまったことも教えた方がよかろう。紛い物商品が通用する市場なのである。

 まあ、そんなことより、ジャガイモはナス科で、トマトとの仲間ということの方が重要かも。人間が長時間かけて改良し続けてきた歴史を知ることで、インカの人々に感謝する気持ちが湧くのではないだろうか。
 ともかく、ジャガイモ開発については、脱帽ものである。

〜アンデスの芋[非ナス科]〜
Achira カンナ科
Ahipa マメ科
Arracacha セリ科
Maca アブラナ科
Mashua ノウゼンハレン科
Mauka オシロイバナ科
Oca カタバミ科
Olluco ツルムラサキ科
Yacon
(ヤーコン)
キク科
Yam Bean
(クズイモ)
マメ科
 インカの人々は、芋には、格別の思い入れがあったということでもある。なんでも芋にしてみたようである。
 冷涼で紫外線が強い高地での栽培に向く品種を徹底的に開発していたということ。畑も、現代の工場に匹敵する極めて洗練された設計であり、これほどの投資に見合うだけの生産性を実現したのだから、その技術力はたいしたものである。多品種栽培での高生産性を実現していた可能性さえありそうだ。まさに驚異的。
 と言っても、今になっては、その技術がどんなものだったかは、全くわからない訳だが。

 穀類大好き人間には窺い知れぬ、高度な芋食文化も形成していたに違いない。

 --- 参照 ---
(1) http://www.jaicaf.or.jp/fao/IYP/IYP_1.htm
(2) K. Namname & K. DeGruzman: “The Inca Empire” [ppt file]
  http://www.k12.hi.us/~jowalton/inca.ppt
(3) 「児童が栽培したジャガイモで食中毒」 東京都健康安全研究センター
  http://www.tokyo-eiken.go.jp/solanine/index.html
(アンデスの芋の文献)
  ・Lucien O. Chauvin: “Publications / The Potato, Treasure of the Andes From Agriculture to Culture”International Potato Center
   http://www.cipotato.org/publications/books/potato_treasure_andes_online/09_first_cousins.asp
  ・David L. Browman : “Pastoral Nomadism in the Andes”Current Anthropology 15(2) 1974
   http://links.jstor.org/sici?
   sici=0011-3204%28197406%2915%3A2%3C188%3APNITA%3E2.0.CO%3B2-M&size=LARGE&origin=JSTOR-enlargePage
  ・山本紀夫: 「ジャガイモとインカ帝国―文明を生んだ植物」東京大学出版会 山本紀夫 (2004年)
(ポテトの写真) [Wikipedia] Patates a l'eau.JPG http://en.wikipedia.org/wiki/Image:Patates_%C3%A0_l%27eau.JPG


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