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2008.6.17
 
 


肉桂の話…

 すペいんが 歌うたふ時 いたりやが 窓よりくれし 肉桂の水 
   与謝野晶子 「太陽と薔薇」 1921年
・・・正直なところ、私達は世界を摂取して世界に生きて居る日本人です。日本のどの時代の古典からも影響を受けて居ると共に、世界からも複雑な感化を受けて居るのが只今の日本人です。私達は日本語に由つて歌を作ると云ふ一面から云へば人麻呂や和泉式部の遺業を継いで居る者ですが、私達は奈良朝や平安朝の日本人で無いのですから、私達の芸術の尺度もまた世界的とならざるを得ません。日本人が作る以上、日本の地方色と民族色とを帯びるのは当然ですが、芸術の価値標準は、地方色と民族色とを容れながら而も其等以上のものであることを望みます。


- よく言われる製品の違い -
CINNAMON CASSIA
形状 薄巻皮状 木の皮状
厚み 薄い 厚い
色調 黄金褐色 泥色
表面 すべすべ ボコボコ
香り 繊細 豪快
 シナモン[CINNAMON]と言っても、米国で売られているものは、ほとんどの場合はカシア[CASSIA]だそうだ。両者は全く別物らしい。
 セイロンシナモンは高価だが、カシアは安価。ところが、ほぼ同じ香りで、カシアが強力ときていれば、好まれて当然という感じがする。そのすぐお隣のメキシコでは、煮出した甘いフレーバーコーヒー“Cafe de Olla”(1)を沢山飲むから、同じようにカシアかと思ったら、本場ものにこだわる人が多いらしい。ずいぶん対照的だ。
 旧約聖書でCASSIAが登場する位で、(2)長い歴史がある製品だが、新大陸で好みが分かれるのには驚かされる。

 メキシコの状況から想像するに、欧州の人達はシナモン党だろう。シナモンブラウンという色の名称がある位だから、その魅力は圧倒的なのだと思う。
 一方、中国では、「桂皮酒」にしたり、「五香粉(花椒、八角、小茴、桂皮、陳皮か丁香)」としてスパイスで使う。こちらは、カシア[広南桂皮]。
 それでは日本はどうなっているのか。
 自宅のシナモンスティックには表示がないのでよくわからないが、表面はつるつるである。日本向けとして表面を綺麗にしているだけで、多分カシアではないか。シナモンシュガー缶も、おそらく、おだやかな香りの産品を選りすぐったカシア粉に違いない。

 カシアという名称は、今になって初めて知った。和菓子の肉桂[ニッキ]とはシナモンだと聞いていたし、1種類だと思っていたのである。
 それに、それほど関心もなかった。 お土産の「八つ橋」は頂戴するが、肉桂味は好みではないからだ。
 飴も含め、どうも和風には違和感を覚えてしまう。その理由は、自分でもよくわからないが、お香の感じがしてしまうからかも。

 と言って、この香りが嫌いかというとそうでもない。アップルパイにうっすらとシナモンの香りがついているのはえらく嬉しいのだ。ミルクティーでも素敵。コーヒーはご遠慮頂きたいが。ともあれ、和の肉桂とは感じが違うのだ。
 同じカシアにもかかわらず、不可思議な感覚だ。

 もっとも、和菓子の肉桂に慣れないのは、東京で育ったからかもしれない。
 “子供達は肉桂の根を噛むことの刺戟に、中毒性を覚えてゐるかのやう・・・”(3)というのが、日本の原風景だったようだから。

 と言っても、そんなことが言えたのは、遠い昔のことかも。すでに寺田寅彦の時代、“子供の時分にそうした市の露店で買ってもらった品々の中には少なくも今のわれわれの子供らの全く知らないようなものがいろいろあった。肉桂の根を束ねて赤い紙のバンドで巻いたものがあった。それを買ってもらってしゃぶったものである。チューインガムよりは刺激のある辛くて甘い特別な香味をもったものである。それから肉桂酒と称するが実は酒でもなんでもない肉桂汁に紅で色をつけたのを小さなひょうたん形のガラスびんに入れたものも当時のわれわれのためには天成の甘露であった。”(4)とされているからだ。

 この肉桂だが、日本の 独自種“Cinnamomum sieboldii”(5)である。海外では、シナモンやカシアは樹皮製品だが、日本では根を使うのである。
 そんな製品に一度もお目にかかったことがないが、どこかで健在なのだろうか。

 --- 参照 ---
(1) "Cafe De Olla" Mexican Drinks Recipes http://www.mex-recipes.com/mexican-drinks-recipes.html
(2) Ezek27:19 http://www.chabad.org/library/article_cdo/aid/16125/jewish/Chapter-27.htm
(3) 牧野信一: 「肉桂樹」1934年 http://smakino.sakura.ne.jp/nikkei.html
(4) 寺田寅彦: 「 自由画稿」 1935年 http://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/2504_9355.html
(5) 牧野標本館シーボルト標本 http://wwwmakino.shizen.metro-u.ac.j p/siebolddb/sbweb/Prep/014/MAKS1450.html
(スパイスの歴史の参考) History & Special Collections --- UCLA Louise M. Darling Biomedical Library
   http://unitproj.library.ucla.edu/biomed/spice/index.cfm?displayID=5
(与謝野晶子「太陽と薔薇」) http://www.j-texts.com/taisho/taiyoto.html
(シナモンの写真) [Wikipedia] photo by Luc Viatour, Canelle Cinnamomum verum Luc Viatour.jpg
   http://en.wikipedia.org/wiki/Image:Canelle_Cinnamomum_verum_Luc_Viatour.jpg


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