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2008.7.15
 
 


くわゐの話…


 くわゐ煮て くるるというに 煮てくれず

     小澤實 「砧」

     くわゐと書いてある作品は本物だと思う。


 不思議な野菜といえば、クワイである。
 滅多に食べないのにもかかわらず、誰でもが名前を知っている。しかも、「慈姑」という、いかにも難しそうな漢字を喜んで使う人が多いからだ。
 と言っても、なんのことやらわかるまい。うまく説明できるかわからないが、小生の「不思議感」をできる限り伝わるように書いてみよう。

 先ず第一点目。これは、たいした話ではない。
 クワイには微妙なエグミがある。決して美味しいものではなかろう。実際、今まで、味を褒めた人に出会ったことはない。
 しかも、食べると特段の効用があるという話も聞いたことがない。(古典文献に掲載された効用をそのまま信じる人を除外している。)
 にもかかわらず、市場にしっかりと生き残っているのだ。(一番食べやすい味わいとされている吹田のクワイは栽培がどうやら続いているところまで落ち込んだのに。)
 もっとも、葛飾北斎は毎日食べていたという、本当かわからぬ話を北斎展で耳にしたから、大好物な人もいる可能性は否定できないが。

 続いて、第二点目。これも、どうでもよいこと。
 美味しいというほどでなくても縁起物だから続いていると語る人がほとんど。その通りだと思う。だが、その理由は、“芽が出るから”というもの。
 確かに、芽を切らずに膳に出したりすることがあるから、そんな話がでてもおかしくはないが、この話、どうも腑に落ちないのである。
 常識的には、芋が縁起物とされるのは、子芋を沢山つくるから。子孫繁栄を願って食べるのが普通である。もともとはそんな意味だった筈だが、何故か、それを消し去ったのである。

 第三点目。ここからが本題。
 冒頭に述べた、漢字「慈姑」だが、これは中国名である。昔からこの名前を使っていたならわかるが、そんな話はどこを見ても見つからない。最近の書籍ではすべて「慈姑」だが、すこし古い本にはそんな文字は登場しない。すべて「くわゐ」である。
 それも、中国からの輸入モノが全盛になる前に、この表記が増えている。一体、どうしてそんな漢字表記が必要になったのか。「ゐ」がこまるというのなら、昔の当て字でよいと思うが。

 第四点目。
 和のクワイの主流は青色の芋。(小生はそれ以外は見たことがない。)藍の裏作で作ったので、その色が移ったかと思うような微妙な色だ。それはともかく、この植物、水辺で良く見るオモダカ科だそうである。
 そのためだと思うが、クワイとは鍬芋のこととの主張ばかり見かける。確かに、葉が、二枚刃の鍬型で説得性がある。
 しかし、黒色のクワイもあるのだ。こちらは、カヤツリグサ科なのである。ひょろっとした葉ということ。素人でも違いがわかる。
 多分、もともとは、クロの方に馴染みがあった筈である。田圃の雑草として、大いなる嫌われ者でもあるからだ。
 つまり、クワイの語源が鍬芋でない可能性が高いということ。そうなると、クワイとは一体なんなのだろうか、大いに気になるではないか。

 第五点目。
 以上にかかわるのだが、中国のクワイと和のクワイを分けようとしない姿勢。どう見ても、故意にごちゃ混ぜにしている。
 中華料理に入ってくるクワイは日本で正月に食べるものとは全く違うからだ。食べればすぐにわかる。
 和モノはホクホクだが、中華モノはシャキシャキとした食感で、味も相当違う。まあ好き好きだろうが、相当昔、冷凍一袋を購入して、もてあました覚えがある位だ。中華料理以外にはなかなか合わない代物。
 おわかりだと思うが、中国品はカヤツリグサ科の芋なのだ。
 いくつか種類はあるようだが、その主流は、“烏芋”。日本の“クログワイ”だ。

 第六点目。
 こんなことを気にする人がほとんどいないこと。余計なことを考える輩は嫌われるのかも。
 嫌われても、得るところは何も無いから、この程度にしておこうか。

 尚、小生はクワイが消え去らないのは、クワイ情報のお蔭ではなく、高年齢層がクワイ味を一年に一度位は味わいたいと考えているからではないかと睨んでいる。
 特に重要なのは、微妙なエグミ味だと思う。多分、これが、母親の食事を思いおこさせるのではないか。母の慈愛と、芽を出せとせっせと励ましてくれた頃を懐かしみながら、食べるということ。
 この路線に合うのが、「慈姑」であり「芽」の縁起と見たのだが。

 まあ、以上は素人のとんでもない仮説にすぎないから、ご注意のほど。

 それはそうと、日本と中国しか食べないと記載されていることが多いが、気になるので見てみると、北米のネイティブが食べていたそうだ。(1)
 ただ、調理すれば、苦味は残るとはいえ、Idaho potatoesのようなものとの評価。インディアンの女性が、カヌーに乗って採取していたそうだから、(2)そうまで労力をかけて食べたい人も少なかろう。結局のところ、ヒトではなく、duckが食べるポテトの位置付けにならざるを得なかった訳だ。
 もっとも、北米の湿地帯には、様々な種類を見つけることができるようだから、食べやすいように改良する努力がされなかったということでもあろう。(3)

 --- 参照 ---
(1) John Kallas: “Wapato: Indeian Potato” Wilderness Way Magazine 9(1) http://www.wwmag.net/wapato.htm
(2) “Wapato” Plant Guide-USDA http://plants.usda.gov/plantguide/doc/cs_sacu.doc
(3) “Wapato” REWILD Info http://www.rewild.info/fieldguide/index.php?title=Wapato
(俳句の出典) 現代俳句協会 データベース  http://www.haiku-data.jp/work_detail.php?cd=4056
(クワイの写真) [Wikipedia] photo by Tomomarusan http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Sagittaria_trifolia.JPG


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