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2009.3.17
 
 


嫁菜の話…


  秋草の いづれはあれど 露霜に 痩せし野菊の 花をあはれむ
     伊藤左千夫(1)
     矢切の渡は「野菊の墓」の別れの場ではなく、寅さんの散歩道になってしまった。

 ヨメナとは野菊のこと。関西、中国、四国の里山で普通に見られる菊の一種だそうだ。
 春に、若芽を摘んで食べるとか。と言っても、わざわざ栽培するようなものではなく、生えているから食べるか、という程度のもの。積極的に探してまで食べる習慣がある訳ではないようだ。
 癖が少なく、柔らかく、春らしい香りが楽しめるということだろう。

 野菊を食べる習慣があったとは知らなかったが、ヨメナ飯というのがあるというから、結構、一般的な食材だったようである。菜飯は色々あるが、春の香りを楽しむということを考えると、この辺りが一番初めだったのかも。
 もっとも、春の草摘みをする話は滅多に聞かないから、今は廃れていそうだが。

 ところで、野菊の墓の話を思い出すと、嫁菜という名前は哀れを誘う。伊藤左千夫はそこまで知っていたのだろうか。
 と言っても、“嫁菜の如き君なりき”というのでは、清楚なイメージが出ないか。
 「私なんでも野菊の生れ返りよ。野菊の花を見ると身振いの出るほど好もしいの。」(2)が引き立つのはやはり「野」にあるようだ。

 尚、「深山嫁菜」という植物もある。こちらは普通“都忘”と呼ばれている可憐な花だ。嫁菜は、情緒を感じさせる言葉で、現代の嫁イメージとは違うのかも。
 ところで、婿菜もあるそうだ。こちらも若芽を食べることができるそうだが、“大味でうまくはない”(3)という。まあ、そんな感じがする。それにしても、この名前はどんなものか。

 --- 参照 ---
(1) 伊藤左千夫短歌抄 http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan/guest/charm/itosachio.html
(2) 伊藤左千夫: 「野菊の墓」1906年
   [青空文庫] http://www.aozora.gr.jp/cards/000058/files/647_20406.html
(3) 「白山菊」 跡見群芳譜
  http://www2.mmc.atomi.ac.jp/web01/
  Flower%20Information%20by%20Vps/Flower%20Albumn/ch5-wild%20flowers/shirayamaghiku.htm
(伊藤左千夫の写真) [Wikipedia] http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Ito_Sachio.jpg


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