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「新風土論」
2015年9月3日

中華風土形成の核

中華帝国の範囲は広大だが、初源的な地域はどこだったか見ておきたい。
  「天下名山八、而三在蠻夷、五在中國。
   中國華山
(【西】@陝西省渭南)
   首山
@(河南省襄城)
   太室
(【中】嵩山@河南省鄭州)
   泰山
(【東】玉皇頂@山東省泰安)
   東莱
(@山東省黄)
  此五山黄帝之所常遊,與神會。
」 [史記卷十二 孝武本紀]
地域的には、黄河の中流の洛陽がある盆地から、東は山東半島の付け根辺り迄で、西は渭水の上流辺り迄ということになり、南北の広がりは余り無いと考えてよそそう。西域に繋がる河西回廊へと繋がる西端が「華山」であり、これが中華帝国の象徴なのだろうから、民族的元祖はその辺りということなのだろう。一方、帝国を支える信仰という点では、天子の封禅が行われるのが「泰山」であるから、そこらが「中國」を見通せる地と考えられていたのだろう。

一方、道教では衡山(【南】寿岳@湖南省衡陽)と恒山(【北】@山西省大同)の2山と上記の【東・中・西】3山で5岳になる。南北に領域が拡大されている訳だ。中華帝国の天子の宗教が儒教で、民衆を含む大陸土着の宗教が道教とすれば、【南】と【北】は蠻夷3山に該当する山と考えるのが自然では。さすれば、以下のようになるということだろうか。
  西戎・・・峡西〜甘粛省のどれかの名山か?
  東夷・・・海の向こうか?
  南蛮・・・衡山/寿岳(@湖南省)
  北狄・・・恒山(@山西省大同)

強引な見方であるが、中華の視点で眺めると、要するに全く異なる文化の地域ということであり、こんな具合と解釈することもできよう。
  西戎・・・半砂漠〜乾燥草原地帯
  東夷・・・淮河や黄河の河口デルタ湿地帯
  南蛮・・・モンスーン気候の丘陵地帯(湖沼河川付随)
  北狄・・・針葉樹林の森林裾野的ステップ

ただ、注意を要するのは、これは地理的に極めて狭い場所での東西南北である点。

森林 (狩猟民族)
西域砂漠
(突厥族)
蒙古高原
(蒙古族)



 
 
 
 
中・低地
超高度地
(青蔵族)
 
 
黄土高原
(漢族)
四川盆地
高原
現代的な地形観で大きく見た地域分割は右図のようになるが、ここまでの視野が生まれたのは夏王朝以降と言うこと。[→「四夷」2010.11.25]
灌漑・治水技術が投入された夏王朝より古い時代は、黄河中流域で支流が流れ込む盆地状地形の洪水が避けられる高台での集落造りが主たる活動だったろう。黄土高原を活動領域と考える発想などない訳で、「中原」発想は夏王朝からついうことになろう。北方も、ステップ化が進んでおらず森林はもっと広かったろう。

さらに、そこで生活する民を描けばこうなろう。
  中華・・・灌漑型畑作民
  西戎・・・遊牧民
  東夷・・・漁撈半焼畑民
  南蛮・・・採取焼畑農民→排水型水田耕作民
  北狄・・・狩猟半定住民
言うまでもなく超古代での話。中華の範囲はほんの一部だったのである。
四川の「蜀」、福建の「」、長江河口域の「呉」と「越」等々が、漢民族から見た異民族というのは、ずっと新しい話である。
おそらく、古代はまだ森林縁辺ステップが多かったから、北方はモンゴル系ではなく、ツングース系。森が消失し、ツングース系はさらなる北方と、東への移動を余儀なくされたと見る。乾燥草原が拡がり、遊牧勢力の支配地になるとともに、ツングース系も遊牧文化に近づいた筈。そんな進出遊牧勢力の代表が匈奴ということ。
西戎の典型は、文字から見て、元祖美族。遊牧文化を維持した勢力は、チュルク化(スキタイ系)やモンゴル化が進んだ筈だし、遊牧は交易無しには成り立たないから、中華支配に乗り出すこともあるが、そうなると必然的に漢族化してしまう。
@長安の始皇帝王朝にしても、西戎勢力の頭目が差配する国家だろう。つまり、部族文化濃厚で、武力に優る遊牧民勢力が、灌漑統治官僚制システムが行き届いた漢民族地域を支配したということ。帝国化されると、両民族は一体化し、新たな「漢民族」が形成されることになる。これが中華思想の核心的部分。
そのメルクマールは、中華帝国の天子が天帝に報告する儀式である。泰山における代表的な"封"祭祀は以下の通り。
  秦 始皇帝 B.C.219年
  西漢 武帝 B.C.110年
  東漢 光武帝 A.D.56年
  隋 文帝 595年
  唐 高宗 666年
  唐 玄宗 725年
  宋 真宗 1008年
  清 聖祖 1684年
  清 高宗 1748年

清はツングース系王朝ではあるが、「満漢蒙」一体化を図った訳で、だからこその封禅。当然ながら、その方針に反旗を翻した苗族は殲滅されることになる。今の苗族は辛うじて生き残った人達ということ。
言うまでもないが、中華民国も中華人民共和国も、そのような中華思想の国家であることを高らかに宣言している訳で、封禅の伝統堅持を誓ったと言って間違いない。民族自決は許されざる動きであり、チベット、ウイグル、内モンゴルは漢化以外の道はない。
そして、ココが肝心な点だが、中華圏の範囲を決めるのは天子である。天子直属の武装集団と、帝国の隅々まで統治の網を張っている官僚集団が、その命を受けて動くことになる。天子の方針を諌めたりすれば、処刑は免れない。

これは、アメリカ合衆国の「人種の坩堝」ならぬ、「民族の坩堝」が実現されているということになる。その肝は天子による帝国化。帝国化を避ければ、天子はこけることになる。両者の体質は似ている訳である。
従って、米中ボス交で、朝鮮半島の中華圏化を図ったとしても驚くような話ではない。そもそも、日本が、独伊と違って「戦犯」擁護論がまかり通るのは、冷戦ではその方が好都合との、米国政府の方針である。帝国の姿勢とはそういうもの。
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