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2000.5.14
 
 


鉄鋼技術の強さ…

 日本の鉄鋼業のライバル、韓国浦項製鉄が生産量で新日鉄を超えたのが98年。
 生産量では凌駕されたが、技術では負けないと誇る人が多い。特に、海外企業に比べ、原料石炭使用量の圧倒的少なさを指摘する人が多い。さらに、プロセスコントロール、省エネルギーや公害防止技術でも世界のリーダーだと主張する。

 ところが技術が優れていても、人件費コストが負担になって競争力が発揮できないという意見を耳にする。

 素材産業は労働集約型の組み立て型の産業ではない。原料やエネルギー源での優位性が同等なら、新技術と設備投資による生産性向上で競争できる産業だ。本当に強いなら、製造プロセス技術で勝負できる筈である。原料効率や省エネルギーで優位、かつ、設備償却負担が少ないなら、コスト競争力があると見るのが普通だ。

 にもかかわらず、何故競争力が弱いのか。

 1つは高炉を中心とする古い製造システムである。勿論、改修やコンピュータ化の投資は続いてきたので、旧式設備のままではない。しかし、設備産業である限り、老朽化する。「老朽」といっても個々の施設の問題ではない。設備の配置だ。いくら個々の施設でエネルギー効率が良くとも、施設間での連携が悪ければ効率どころではなかろう。浦項の設備は、この効率を重視した設計だ。直線のライン上にある装置を次々と材料が流れていく。一方、日本企業では、入り組み離れた場所にある装置に運搬していくのだ。このハンディを考えれば、差は歴然だ。

 もう1つは、建築や造船に用いる厚板事業分野にいまもって「人」が多数存在していること。かつては、コンピュータ制御で生産性の大幅向上を成し遂げてきた。その発展が止まっている。さらなる挑戦をやめている。これでは後追い企業にすぐに追いつかれよう。そうなれば、人件費勝負の世界だ。

 このままなら、技術で戦う事業でなくなる。かつて日本企業に敗退していった時代の、米国の鉄鋼業を彷彿させる。新技術に挑戦していかなければ、やがて追いぬかれる。現在の日本企業の姿勢は、後発企業が技術で追いつこうと格闘しているのを眺めるというもの。収益力で優る後発が、技術投資を続けるなら、日本企業は早晩追いつき、追いぬかれることになろう。

 ---というのが悲観シナリオである。
 汎用の厚板での勝負は難しいいが、今のところ、自動車用鋼板や珪素鋼といった分野では日本企業は圧倒的なシェアを誇る。しかし、高炉の生産量のメジャーな部分ではないから、ここに集中した鉄鋼業態は、今のビジネスモデルでは難しい。
 この分野は金属組成の設計力と材料解析技術が複雑にからむ。製造プロセス技術と材料組成の蓄積情報が鍵なのだ。すぐに真似はできまい。しかし、情報技術の進歩も急だ。従って、こうした技術ベースを活用して、情報技術をてこに飛躍を狙う研究開発を狙うべきだろう。この成否で、日本の鉄鋼業の将来が決まることになろう。


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