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2003.3.8
 
 


ナノテクノロジー研究の第一幕…

 ナノテクノロジーは世界中が注力している分野だ。優秀な研究者が様々な取り組みを始めれば、何処かでブレークスルー的な技術が生まれる可能性が高い。

 2003年3月3日付Physical Review誌掲載の「High-Resolution Near-Field Raman Microscopy of Single-Walled Carbon Nanotubes」論文はその1つになるのかも知れない。

 ロチェスター大学(Optics)、ポートランド州立大学(Physics)、ハーバード大学(Chemistry/Chem.Biology)の研究者の共同論文であり、かなり練られた企画と思われる。(http://ojps.aip.org/getabs/servlet/GetabsServlet?prog=normal&id=PRLTAO000090000009090801000001&idtype=cvips&gifs=Yes)

 この論文の骨子は、ラマン分光で今までで最高の解像度を実現したというものだ。ラマン分光は、分子振動を読み取る方法で、赤外分光と同じ位汎用性のある分析方法だが、ナノレベルで物体が見えるようになったことを意味する。
 これが簡単になれば、ナノテクノロジーは急速に進歩すると思われる。

 といっても、今回の論文が、突然現われた訳ではない。この分野は競争激甚なのだ。

 カーボンナノチューブはNEC主席研究員の飯島澄男博士が1991年に電子顕微鏡で発見して以来、世界から注目を浴び続けている物質だ。1993年には、単層のナノチューブが現われ、本格的な研究が始まった。直径が1ナノで長さは1ミクロンといった大きさである。
 研究者人口が増えたため、今では簡単に入手できる状況になっている。従って、バルクでの応用開発はどんどん進んでいる。

 一方、ナノテクノロジーの本命、新素子形成技術はバルク応用とは違い、簡単に進まないと思われてきた。
 というのは、単層のカーボンナノチューブを普通に合成すると、数十本の束になるからだ。これでは、バルクでは見れるが、1本だけを取り出して見るのは難しい。
 ところが、1996年に、ラマン分光を使えば1本を見れることがわかった。このため、日本でも企業から大学まで、様々な研究者が取り組んできた。(例:応用物理学会誌2001年10号の斎藤理一郎氏の論文(http://www.jsap.or.jp/ap/2001/ob7010/p701196.html)
 この競争の成果が、Physical Reviewの論文だ。予想に反して、短期間に技術進歩が実現したのである。

 これで、「ナノチューブが見れる」基本技術が完成したといえる。簡単に言えば、ナノテクノロジーの応用開発の第一幕が開いたのである。
 見れるのだから、第二幕は、チューブの位置調整技術になる。ここまで進めば、ナノレベルで構造を作れる。
 終幕は、もちろん全く新しい半導体技術の完成だ。超大型技術に育てることができれば、シリコン時代は終わる可能性さえある。

 新型半導体の夢が、俄然現実味を帯びてきた。これで、さらにヒト/モノ/カネが流れ込むから、進歩は加速する。どのような体制で素子開発すべきか、本格的な検討が必要な段階に入ったといえる。
 この段階で、戦略性を欠けば、次世代素子の開発競争から脱落することになる。
 結節点が訪れたのである。


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