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2003.3.24 |
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TV復権の誤解…インターネットの有料放送サービス(ストリーミング)の難しさが語られて久しい。挑戦は数多いが、音楽も映像も、今もって大きく収益を稼げる事業に育っていない。この理由を、インターネット特有の問題と見なす人が多いが、本当だろうか。 「利用側の状況」が変われば、有料サービスが急速に立ちあがる可能性が高いのではないだろうか。・・・今は、小さなパソコン画面や、音質が悪いスピーカーで、映像や音楽を見たり聴いたりする状態だ。これで、楽しいとは思えない。リビングルームでのんびり見たり聴いたりするなら、お金をかけるだろうが、狭いデスクで、一人で見たり聴いたりするだけでは、有料サービス加入者が限られるのは当然だろう。パソコンゲームとTVゲームの利用者に本質的な違いがあるのと同じだ。 このことは誰でもわかっていた筈だ。そのため、インターネットをどのようにリビングルームに入れようとして、様々な試行を繰り返してきたといえる。 しかし、リビングルームの定番は従来型のAV機器であり、これに、家庭によってはゲームマシーンが加わる程度である。パソコンやインターネット接続製品は、未だにほとんど入っていない。 しかし、ついに、新時代の幕開けともいえる製品が登場した。「DigitaLibrary DL-1000」(パイオニア)である。といっても、発売はこれから(2003年5月)であり、ヒットの確証がある訳ではない。(http://www.pioneerelectronics.com/Pioneer/CDA/CompanyOverview/PressDetails/0,1479,92520,00.html) 一言で、この製品を言えば、80Gのハードディスクを搭載した、ネットワーク型の録音/録画機器となる。基本仕様は以下の4つに絞られている。 ・CD1500枚分のジュークボックス ・写真アルバム(ジュークボックスと同時利用可能) ・DVD品質のビデオクリップ(自作ムービーとインターネットからのダウンロード) ・インターネットのコンテンツ表示(ストリーミングメディア) これを聞くと、大半の人は、他社も同様な製品を販売しているから、画期的と見なすのはおかしい、と感じるだろう。 ネットワーク型の録音/録画機器を、要素技術の単純集合体としての視点で考えると、この製品の「新しさ」は全くわからない。ОSや宅内通信規格は何か、PCとTVのどちらの仕様を重視しているか、という分析で新しさを判定するなら、この製品は後発となる。技術者にとっては、主流に乗らなければ、自らの地位も失いかねないから、どうしても、こうした見方になりがちだ。 ところが、一般の利用者にとっては、こうした問題は、どうでもよい。 利用者は、面白くて、使い易ければ、それで十分なのである。 これは、見たり聴いたりする対象の問題であり、機械の仕組みとは無縁だ。従って、いくら仕様を工夫したところで、エンタテインメント内容が未熟なら、誰もお金を払う気にはならないという原点から、機器の魅力度を判定すべきである。 この観点で、「DigitaLibrary DL-1000」を眺めると、画期的な点が見えてくる。 この機器はリビングルームのTVに接続するが、TV番組の取り扱いソフトや記録機能は何も無い。明確に「脱TV放送」コンセプトを打ち出した製品である。 つまり、「TV」を単なるディスプレー機器と見なし、エンタテインメントの根源もTV放送と考えていないのである。 このコンセプトこそ、新市場創造の鍵である。 繰り返すが、エンタテインメントは、利用者にとって、先ずは、内容ありきである。「脱TV放送」で新しい流れを作り、魅力的な新しい内容を生み出すがせるかが、勝負なのである。 TV放送の内容はすでに成熟しきっている。 唯一の希望であるデジタルTV放送も、既存放送業者以外にインフラを開放しない体制だから、メリットは美しい画面だけと考えた方がよい。これでは、間違いなく衰退する。そもそも、TVカメラ/編集機械の高額化は避けられないのだから、新参者が新しい内容を提供することは益々難しくなる。この問題が解決できない限り、デジタル放送化で新風、との期待は根本的に間違っている。 この点を無視するのが、旧型家電業界だ。美しい大型画面の時代が到来し、TVの復活が始まると語る。大画面TV市場の伸びが著しいからである。沈滞する家電市場のなかで、DVDプレーヤーと並んで、高成長を誇る数少ない分野だから、期待したい気持ちはわかるが、この流れを「TV復権」と見るべきでない。 浸透するのは大型の高精細度デジタルディスプレー機器であり、「美しい」TV放送用機器が普及する訳ではない。デジタルTV機器が売れるのは、デジタルTV放送を見たい訳ではなく、DVDの「美しさ」を十二分に生かしたいからにすぎない。すでに、デジタルTV放送は「おまけ」に成り下がっていると見た方がよい。 今、家庭で、一番ファッショナブルな映像とは、デジタルビデオカメラ画像を個人が編集して作成したムービーや、取りためたデジタルカメラ画像集の方だ。これをどのようにリビングルームで見るかが問われている。 そして、インターネット経由で提供される新企画に接する機会を広げ、新しいエンタテインメントを普及するのに適した機器を、リビングルームに入れる必要がある。 このようなニーズに応える「家電型」機器が求められているのは歴然としているにもかかわらず、家電業界はTV放送の視聴コントロール機能の複雑化ばかり考えてきた。機器のネットワーク化と呼ぶが、内実はTV放送用機器の付加機能にすぎない。 今までなかった新しいエンターテインメントが必要なのに、新技術を駆使して、成熟しきったTV放送の活性化に注力しているのだ。これでは、将来は暗い。 そこに、「脱TV放送」こそ家電業界飛躍の鍵である、と見なす日本企業が現われた。その象徴的製品が「DigitaLibrary DL-1000」である。 [注] 本稿は、麻倉怜士氏の「ホームネットワーク実践編――パイオニアのデジタル・ライブラリー・サーバーの実際」に触発され記載したものである。但し、視点は違う。(2003年3月21日付 http://it.nikkei.co.jp/it/sp/net_eh2.cfm?i=20030320wk000wk) 技術力検証の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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