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2003.4.14
 
 


Appleのコンテンツ産業への展開…

 2003年3月11日、突然、Apple ComputerがVivendi Universalと音楽事業買収を話し合っている、とのニュースが流れた。Universal Music Groupは世界最大のレコード会社であり、60億ドル程度の大型ディールになるらしい。(Los Angeles Times:"Apple Reportedly in Talks to Buy Universal Music")

 Appleにとってはヒット商品「iPod MP3」を用いて音楽配信事業へ参入できるし、メディアの巨人Vivendiは不振を極める音楽産業分野の事業をすぐにキャッシュ化できる。いかにもありそうな話である。今のところ当事者がコメントを拒否しているため、実情はわからないが、株価はポジティブに働いていない。 (http://www.nytimes.com/2003/04/12/business/media/12MUSI.html)

 株式市場では好感されていない動きだが、エレクトロニクス機器業界には、コンテンツビジネスと端末機器事業の統合で飛躍が実現できる、と考える人もいる。
 このような統合モデルは、一般に、イノベーション創出を阻害しかねない構造だが、この業界には、全く逆の見方をしている人が多い。
 驚くことに、統合でイノベーション創出が図り易くなる、と主張するのである。大抵は、ソニーの「成功」を例証と見なす。ソニーにはイノベーション・イメージがあり、エレクトロニクス機器メーカー兼、映画・音楽コンテンツ企業なので、納得しがちだが、本当だろうか。・・・ソニー型事業構造には誤解が多すぎるようだ。

 例えば、「プレイステーション」のようなゲーム事業では、機器自体がコンテンツ創出のキーパーツになっている。機器の機能と、コンテンツとは不可分である。このような場合は、ゲームコンテンツ産業と機器産業が一体化せざるを得まい。この場合、両産業の一体化モデルはイノベーション創出に繋がる。
 しかし、同じコンテンツ産業といっても、音楽産業は違う。コンテンツ創出に当って、機器側の機能利用スキルは必要ではない。従って、両者が統合したところで、イノベーション創出促進には繋がらない。

 にもかかわらず、両方の産業に係わる理由は単純だ。コンテンツ流通規格の標準化で優位性が発揮できるからである。かつて、ソニーがCD普及に果たした役割を考えれば、この効果は小さいとはいえない。このため、統合メリットを重視しがちになる。
 だが、よく考えれば、これはメリットとは言い難い。両方の業界が伸びるように相互調整し、規格を確立する以外のポジティブな効果が無いからだ。規格統一はし易くなるが、そのことは、管理型事業展開が進むことでもある。
 もともと両業界とも伸張ポテンシャルがあるなら、規格統一だけでもインパクトは大きいが、成熟/衰退期に入ってからなら、業界の衰退を止めるどころか、加速させる可能性が高い。利用者にとってウキウキするメリットを生むとは思えないからだ。

 実際、ソニーの現実を見ればはっきりわかる。
 音楽コンテンツ事業は不振である。機器事業も成長ポテンシャルがあるようには見えない。この状態で、両事業が協力して、飛躍を狙う戦略が成り立つだろうか。
 今、必要なのは、新技術で新しい楽しみ方を生み出すことだが、統合戦略で楽しみ方が変わる訳ではない。現在の音楽産業の構造を変えて新しい楽しみ方を生み出さない限り、躍進する根拠はないのである。統合モデルを無理に進めれば、両者共倒れになりかねない。

 機器産業に求められているのは、新しい楽しみ方の提供だ。メーカーがコンテンツ産業に関与したところで、新しいことはできない。メーカーが力を発揮できる領域とは、新コンテンツ産業創出を誘発する技術の提供である。そのような技術戦略の案出こそが、飛躍の鍵である。
 機器利用者にとって、衰退一途の既存コンテンツ産業とタイアップする動きほど興醒めな戦略はない。


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