↑ トップ頁へ

2003.7.23
 
 


DARPAのスパコン構想…

  2003年7月、米国DARPA(軍先端研)のスーパーコンピュータ・プロジェクト(High Productivity Computing Systems Program)の第2フェーズの委託先が発表された。
 第1フェーズでは、次世代型概念のベストを競うプロジェクトとしての位置付けだった。これに引き続く、3年プロジェクトの第2フェーズでは、生産性の観点から3社が選ばれた。SGIとHewlett-Packardは漏れた。この後の、第3フェーズでは、さらに2社に絞られ、4年をかけ、具体的な製品開発に進む予定である。
 従って、成功裏に進めば、2010年迄に次世代コンピュータが登場することになる。
 (http://www.darpa.mil/ipto/programs/hpcs/programplan.htm)

 こうした選定過程を見ると、どうやら米国は不退転の決意で臨んでいるようだ。
 面子をかけて、「日本企業に負けるな」という所だろう。科学で常に先頭を走るつもりの米国としては、科学技術計算分野でトップの地位からすべり落ちたことの衝撃は余りに強烈だった。・・・NECの「地球シミュレータ」が、2位のIBMの「ASCI White」とは比較にならない程の圧倒的な高速処理能力を示したからだ。(といっても、IBMが担当している「Blue Gene/L」と「ASCI Purple」が稼動を始めると、「地球シュミレータ」は3位に落ちるらしいが。)

 スーパーコンピュータ市場自体は大きなものではない。しかし、ここで用いられる技術が新しいニーズを引き出す可能性は否定できない。従って、コンピュータ産業でリーダーの地位を維持するためには、先端研究開発で常に先手をとる必要がある、と考えられているのだ。
 米国にとっては、この分野で、日本企業に負ける訳にはいかないのである。(米国は日本製スーパーコンピュータへの課税で、自国産業を防衛していた。)

 「地球シュミレータ」の威力の根源は、ベクトル型計算にある。高速処理が実現できたのは、ベクトル型に合わせた独自のCPUチップを開発したからだ。当然、開発費用負担は重い。
 一方、リターンを重視する米国企業はとっくにベクトル型を捨て去り、スカラー型路線を走ってきた。この読みは当っている。登場当時は皆が驚いたCRAYのスーパーコンピュータだが、スカラー型のCPUチップの進歩は著しく、今では、最初のスーパーコンピュータより、デスクトップパソコンの能力の方が上だ。
 スカラー型は商業的には大成功だったが、ベクトル型にトップ性能を示されて、米国は動揺しているのだ。
 といっても、ベクトル型を追求し続けた日本企業に、同じ仕組みで、これから追い越すのは至難の技といえよう。

 この状況で始まるのが、フェース2である。選定された3つのプロジェクトを眺めると米国の考え方が見えてくる。

 CRAY(子会社New Technology Endeavorsを含む)のプログラムには、NASA Jet Propulsion Laboratory/California Institute of Technology、Stanford University、University of Notre Dameが参加しており、まさに米国の総力をあげてpetaflop処理可能な商用機を目指す体制つくりと言えよう。
 (http://www.cray.com/news/0307/darpa_hpcs.html)

 IBMは、勝てそうにないピーク時の最高速処理を目指さず、PERCS(Productive, Easy-to-use, Reliable Computing Systems)で最高の価値を実現する方向だ。日本のようなベクトル型はプログラムが作りにくいから、容易にプログラム作成ができるコンピュータを目指すと言えよう。現実路線である。
 (7月10日付プレスリリース:IBM Wins DARPA Funding)

 SUN MICROSYSTEMSは、シンプルなアーキテクチャーを導入した、革新的チップデザインで勝負する。
 (http://www.sun.com/smi/Press/sunflash/2003-07/sunflash.20030708.1.html)

 要するに、今から、ベクトル型で後追いしたところで意味は薄いから、ハードでは、高速メモリアクセス技術やプロセッサ間の通信技術で、日本企業を凌駕できる技術開発に注力するということである。  さらには、ベクトル型の弱点とも言える既存プログラムの並列処理化ソフト開発に、今以上に力を入れるということに他ならない。
 ただし、米国が追求してきたIntelやSunの既存プロセッサ改良路線では、ハード上で限界がある。どう考えてもNECのベクトル型の専用プロセッサに見劣りするからだ。トップを奪うためには、新たなチップデザインに挑戦せざるを得ないと言えよう。(高速化が進み、回線の物理的距離の短縮が必須条件となった。当然、発熱問題もシビアになる。単なる細密化では解決できないレベルに入っている。)

 ちなみに、日本が行っているプロジェクトは、視野が狭い。
 FORTRAN90で分散処理に適合する個別プログラム作成能力がある人は限られているから、産学官共同で、スパコンの力を十二分に使えるようなソフト開発が行われた。
 タイトルは派手だが、実態は、逐次型のFORTRANプログラムを並列処理型に直す、コンパイラ開発にすぎない。しかも、どう見ても、参画者がそれぞれ勝手に開発したものを、寄せ集めて比べてみるだけのプロジェクトに見える。
 ベクトル型の将来構想もわからないし、遅れているスカラー型でどこに強みを見出そうとするつもりかも、全く分からない。
 (http://www.apc.waseda.ac.jp/index-j.html)


 技術力検証の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2004 RandDManagement.com