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2003.11.4
 
 


構想が見えない超音速機開発プロジェクト…

 2003年10月24日をもって、27年間続いたコンコルド運行が終了した。メインテナンス費用が嵩むため引退を余儀なくされたと言われている。
 (http://www.britishairways.com/travel/concvidhome/public/en_gb)

 どう見ても、超音速旅客機は商業的には失敗だった。安価な大量輸送サービス機に完敗したのである。

 しかし、これに懲りず、次世代機の開発は続いている。

 日本でも、宇宙航空研究開発機構がマッハ2.2の300人乗り超音速旅客機を開発中だ。
 残念ながら、2002年7月にオーストラリア・ウーメラで行った最初の実験は失敗に終わった。機体を上空に運ぶロケットごと墜落し、大破してしまったのである。しかし、超音速輸送機に必要な先端技術を確立するため、開発は続行するようだ。
 (http://www.ista.jaxa.jp/npl/sst/000.html)

 航空関係者が、日の丸航空機製造にこだわる心情はわからぬでもないが、無理筋の開発に映る。

 日本の航空機市場はかなりの規模である。理屈からいえば、ボーイングやエアバス並の航空機メーカーが存在してもおかしくない。しかし、大型機開発には膨大な費用がかかるから、今から新規参入が成り立つとは思えない。
 (アジア諸国連合で1社という夢ならあり得るが。)
 従って、大型機開発を始めるということは、国家として不退転の決意でサポートする体制が不可欠である。
 ところが、国はおろか、業界にもこのような意識は皆無である。業界構造を変えようとの兆しもまったく見えてこない。
 (要するに、事業コンセプトを考えるつもりは無いのだ。単純な「実験」プロジェクトなのである。従って、どのような結果が出ようが「成果」は得られる。)

 おそらく、コンコルド引退で、超音速旅客機分野にチャンスあり、との理屈で進めているのだろうが、ビジネスマンなら、見方は逆だ。チャンスは減ったのである。コンコルドのサービスが存在していた方が、代替可能機を登場させ易いし、互いのサービス競争が発生すれば、市場が拡大する可能性があるからだ。
 しかも、コンコルドは「非経済性」で跳び抜けていた。ボーイング747と比べれば、燃料費が2倍、メインテナンス費は4倍にのぼると言われている。
 (Kenneth Owen「Concorde and the Americans;International Politics of the Supersonic Transport」Smithsonian Institution Press 1997)
 このようなコストでは、まともなビジネスは成り立つまい。コンコルドは面子で運営していたのだろう。
 まともなビジネスマンがこのような事業に興味を持つ筈がない。

 どう考えても、超音速旅客機開発には、全く新しい事業コンセプトや、画期的な技術が不可欠なのである。そうでなければ、挑戦の意味などない。
 日の丸プロジェクトがその範疇に入るかは疑問である。

 コンコルドの例を考えながら、主要2課題の状況を眺めてみよう。

 第一の課題は、燃費向上だ。

 高効率な超音速機を作れても、ボーイング747と同じ位の燃料は最低必要だろう。しかし、機体の構造上、乗員数は減るのは間違いあるまい。従って、本質的に困難な課題だ。
 といっても、航空機正面の空気との摩擦抵抗を減らせば大幅燃費削減が可能である。欧米のプロジェクトで古くから研究を続けている分野であり、ポイントは自明だ。
 先ずは、航空機正面の面積を小さくする。このため、コンコルドの嘴のようなデザインが生まれる。その上で、空気の流れの境界面でのエネルギーロスを極力減らせばよい。コンコルドでは翼と本体を合体させた三角翼とした。・・・創造力とシュミレーション技術で挑戦する訳だ。

 日の丸プロジェクト機は、矢のような細い機体だ。抵抗を抑える上では常識的な形態に映る。これで300人乗りを狙うのだから、巨大な機体になるだろう。データが無いからなんとも言えないが、コンコルドを大きく越える経済性が実現できるとは考えづらい。
 おそらく、細かな部分の設計を積み重ねることで、これから性能向上を図るつもりだ。
 オーストラリアの実験プロセスを見ると、収集した実験データをベースにシュミレーションを行って機体を開発する計画になっている。試作費用を大幅にカットし、低コストで迅速開発を図れるシュミレーション技術を開発しているのだ。超音速機開発プロジェクトというより、一般航空機に使える新機開発プロセス構築に重点がおかれているように見える。

 第二の課題は、メインテナンスコストの大幅低減だ。コンコルドは、ここがボトルネックとされる。

 スピードが速ければ機体温度が上昇するから、従来機に比べ、点検整備が大変になるのは間違いない。しかし、そのような問題は新材料の登用や点検整備の仕組みを工夫すれば、なんとかなる可能性は高い。
 ところが、簡単に対処できそうにないのがエンジンである。
 超音速機は大推力エンジンを搭載する。馬力が大きいから、エンジン部品は高温に晒される。この結果、オーバーホール時間が極端に短くなる。そのため、超音速機は通常機とは比較にならぬ程、高コストになる。宿命的問題である。

 高推力エンジン技術は、もともとは軍事用だった。コンコルドも戦闘機に使われるアフター・バーナー技術を取り入れている。頻繁なオーバーホールは必須となる。軍事技術を使う限り、高コストから免れられない。
 このため、軍用機では素晴らしい技術を有する米国も、商用超音速機開発では失敗し続けている。飛行機はできても、算盤をはじけば、ビジネスにならないからだ。
 といって、軍用を避け、民間用エンジンの改良路線線では、エンジンは大型化する。こちらも実践性に乏しい。
 どうしても、高推力でオーバーホール時間を長くとれるエンジン開発が必要なのだ。

 このため、日本は、新型エンジン「Supersonic Combustion Ramjet」開発に賭ける、と言われ続けてきた。しかし、今もって開発状況ははっきりしない。
 エンジンは部品にすぎないが、航空機と同じで、グローバルなメインテナンスサポートが不可欠だ。そのため新規参入は容易ではないのである。エンジン開発成功の見通しがあるなら、将来を考えた体制作りを始める必要がある。
 ところがこうした動きが見えない。ということは、従来のエンジン産業の枠組みで進めることを意味する。低コストの新しいメインテナンス体制をつくる気は無いと見なさざるを得ない。

 この2課題で見る限り、日の丸プロジェクトには戦略構想が感じられない。考え方が違う人の寄り合い所帯なのかもしれない。


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