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2004.5.12
 
 


カメラ産業の大変動…

 DVDレコーダーとデジタルカメラ市場の急拡大で、ここのところ日本企業に勢いがある。
 ビデオテープデッキや一眼レフカメラで、日本企業が世界を席巻した時代の再来といったイメージもあり、エンジニアの鼻息も荒いようだ。

国内出荷(単位:1000台)(1)
銀塩
カメラ
デジタル
カメラ
交換
レンズ
1999 4182 1499 1431
2000 3580 2309 1203
2001 3018 4831 1146
2002 2242 6550 865
2003 1146 8439 717
2004
(予測)
670 9420 320
 2004年には、VTRとDVDレコーダーの国内出荷台数が逆転するようだし、デジタルカメラはすでに2001年で銀塩カメラを越えた。銀塩カメラの退潮は予想以上の急スピードで進んでいる。

 アナログ技術をベースとした製品が、デジタル技術の製品に代替されるという昔からの話しが、ついに現実化した訳だ。
 しかし、これに伴って産業構造激変というところまでは進んでいないように映る。
 エレクトロニクス部品の機器原価に占める割合が高く、ソフトがブラックボックス化され、アセンブリは単純になるから、競争のルールが変わり、業界地図が塗り変えられるとの話しが囁かれていたが、それほどの大変動は発生していない。

 といっても、カメラ市場でのプレーヤーは相当変わった。

 デジタルカメラの台数ベースの国内販売ブランドシェアは、業界の話しをきくと、非カメラ業界(ソニー、カシオ計算機、松下電器産業)が約3割を占めているようだ。一方、カメラ業界は3社(キャノン、オリンパス、ニコン)が4割弱を保っているようだ。これに、銀塩写真の雄、富士写真フィルムが10〜15%程度のシェアを持つらしい。
 もっとも、世界生産シェアで見ると、巨大なOEMビジネスを持つ三洋電機が浮上してくるから、非カメラのプレーヤー躍進で、業界勢力図は一変したとは言える。

 一方、銀塩カメラでは、富士写真フィルムがシェア20〜25%でトップらしい。デジタルカメラで頑張っているカメラ業界の企業3社(キャノン、オリンパス、ニコン)が4割弱を占め、ミノルタ(コニカミノルタ)とペンタックス(旧名:旭光学工業)で20〜25%、といった状況のようだ。

 これをどう見るかだが、銀塩カメラ産業で培われた技術の底力を感じる人が多いようだ。
 確かに、優れた光学技術者が揃っているから、デジタル化しても、そのスキルは十分生かせる。
  → 「デジタルカメラの成功理由」 (2004年1月31日)

 しかも、カメラエンジニアの名人芸と大胆なエレクトロニクス化を結びつけることで、クラフトマンシップの「ライカの世界」を凌駕してきた歴史を誇る企業ばかりである。もともと、家電企業の「軽薄短小」エレクトロニクス化よりずっと先を走り続けてきたのだ。この世界で負ける筈があるまい、と考えるのも無理はない。

 しかし、この先も、これが続くとは限らない。
 市場が変わり始めており、読みを間違えば、新興勢力に力を奪われてしまう可能性が高いのである。

 1つは、画像利用方法の変化である。これは、中国市場を見るとわかりやすい。
 良く知られているように、日本とは違い、中国ではビデオデッキ市場は立ちあがらなかった。ビデオコンテンツはテープではなく、CDで提供されたためである。この波はそのままDVDに流れ込んでいる。アナログ時代を飛び越えてしまったのである。このため、ビデオデッキ時代無しで、DVDレコーダー市場ができあがる。
 カメラでも、これと同じことが発生しそうなものだが、驚くことにそうではない。
 銀塩カメラとデジタルカメラが同時並行的に普及しているのだ。

 これは、国内市場でも見ることができる、と言うと、驚く人が多い。
 カメラ量販店に行くと、銀塩カメラは、コンパクトも一眼レフも高級品ばかりが並び、廉価なコンパクトカメラが見つからない。一方、デジタルカメラは標準タイプが爆発的に売れている。もちろん、高級デジタル一眼レフも好調そうだ。
 ここだけ見ていれば、デジタルカメラが銀塩カメラを代替しつつあり、銀塩カメラは特別なマニア向けに集約されつつある、と考えがちだ。
 実はそんなことはない。今や至るところに銀塩カメラがあるからだ。1000円のフィルムカメラである。フィルム技術が高度化したから、これで十分美しく映るのである。

 このことは、撮った画像をどのようにして楽しむかで、カメラ市場が大きく変わることを意味していると思う。カメラの情報をどのようにして見るかは、実は、まだ確定していないのである。
 専門ラボが提供するのか、家庭のプリンターか、はたまた、映像ディスプレーになるのか、様々なものが乱立するのか、固まってはいない。カメラとプリンター直結規格が主流化するとも限らないのである。様々な利用方法間の本格的な競争の前哨戦と見た方がよいだろう。
 可搬な薄型の高精度ディスプレーを持つ時代が到来しており、画像をディスプレーで見て楽しむ時代が始まると、産業構造が変わる可能性が高い。
 デジカメ景気は、カメラ産業再興を意味するとは限らないのである。

 2つ目は、ユーザーが変わってきた点である。
 実質的にデジタルカメラ市場が開け始めたのは、Windows95が登場した1995年のことである。(カシオ「QV-10」)つまり、市場を開拓したのは、パソコンユーザーだったのである。
 そして、数年後は、カメラマニアが主要ユーザーとして登場してきた。
 しかし、現在のユーザー層はこれとも違うと思う。パソコンがあっても、デジカメと繋げて楽しんでいない人も多い。カメラの薀蓄に興味を持っていなかった人達も大挙して購入に走っている。しかも、ビデオカメラを補完する用途でもないようだ。
 要するに、様々な楽しみ方が勃興してきたということだ。

 特に注目すべきは、デジタルカメラ国内販売台数の規模である。銀塩カメラ代替で予想される数字を大きく越えている。
 ということは、代替現象だけではない。「家のカメラ」ではなく、パーソナルカメラになったとしか思えない。と言うことは、カメラ付きケータイとの差も無くなってきたということになる。
 今までのカメラの用途とは違う市場が勃興しているのだ。
 これに応える商品・サービス群が提供できるかが、問われていることは間違いあるまい。

 カメラ技術にこだわると、このチャンスを逃すかもしれない。例えば、デジタルカメラにボケがないことに対する不満を持つ顧客層がある。この声に応えることは、従来のカメラ顧客の確保策と同義である。これでは、代替をさらに進めるだけの効果しか生まれまい。
 新たな楽しみ方が生まれている時は、新顧客開拓の絶好の機会である。このチャンスを生かせるかが問われているのだ。
 こうした市場開発が重要なのは、ケータイではっきりわかった。「写メール」のような、新たな楽しみ方の提起が重要なのである。

 将来の「カメラ」像を提起する企業が飛躍する時代に入ったといえよう。

 --- 参照 ---
(1) http://www.cipa.jp/data/silver.html
  http://www.cipa.jp/data/dizital.html


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