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2004.9.21
 
 


脱溶鉱炉が始まる…

 2004年9月6日、韓国の鉄鋼メーカーPOSCO が石油130万トン分のエネルギー削減を2008年までに実現すると発表した。
 その施策の中核となっているのが、直接還元方式FINEX に基づく製鉄生産設備の構築である。2006年までに、150万トンの工場を稼動するということで、建設を開始したという。
 300万トンを越える溶鉱炉に比べれば小規模設備だが、溶鉱炉代替に進むつもりのようだ。(1)

 挑戦的な動きである。

 鉄鋼は溶鉱炉で生産するのが一番効率的との通念を本気で打ち破るつもりのようだ。
 溶鉱炉で生産される銑鉄を転炉→連鋳機→ホット・ストリップ・ミルと順に流していく、鉄鋼一貫製造が大製鉄メーカーの基本パターンとされていたが、ついに、新しい動きが始まったのである。

 言うまでもなく、溶鉱炉とは、石炭を蒸し焼きにしたコークスと、焼結/ペレット化した鉄鉱石を、高温空気に晒して、還元・溶解して銑鉄を作る大規模装置である。規模の経済性で勝負する仕組みである。溶鉱炉だけでなく、原料処理施設や製鋼設備も、エネルギー高消費型の巨大設備だから、全体を統合管理して効率的な仕組みを構築すれば、圧倒的なコスト競争力を実現できる。
 これが、大鉄鋼メーカーの強さである。

 溶鉱炉から先の、下流の仕組みは、昔は転炉でなく、平炉→鋳造・分塊圧延機→条鋼圧延機という流れだった。しかし、品質とコスト優位という観点で、今の流れに変わったのである。この大転換に積極的に動いたのは、日本の鉄鋼メーカーだったのは言うまでもない。
 果敢な設備投資と、新技術登用に注力することで、世界に冠たる製鉄業をつくりあげた訳だ。
 (もっとも、中国では現在も平炉システムが稼動しているし、条鋼圧延だけのメーカーも生き残っている。もちろん、溶鉱炉型でない仕組みもある。電炉だ。小規模で柔軟な生産体制を組めるが、薄板圧延に適した鉄の生産には向いていない。)

 ところが、今度の大転換では、韓国企業が先頭を走ることになりそうだ。

 石炭焼結にともなう環境影響や、エネルギーコストを考えると、溶鉱炉システムはベストではない、との声は昔からあった。
 しかも、溶鉱炉はマスプロによるコスト削減効果が顕著だから、どうしても大規模連続運転になり、生産調整もしにくい。脱溶鉱炉要求は高まっているのである。

 そのため、1990年代は、溶鉱炉代替技術の試行が盛んだった。(2)

 特に力が入ったのが、低品質の粉の鉄鉱石を使える溶融還元炉である。中規模の設備で稼動できる上、原料の鉱石焼結工程が無くなるから、環境とエネルギーの両方の視点で見て魅力的な方法である。転炉につなげれば、従来のシステムが使えるから、有望な技術と見られていた。
 単純な理屈からいえば、溶鉱炉を溶融還元炉に変えるだけで、1〜2割のコストダウンがすぐに実現できることになる。
 日本でも積極的な技術開発が行われ、1996年に「完了」した。(3)

 このDIOS法のメリットをまとめると以下の通りである。(4)
  ・ 鉄鉱石を塊状化せずに使用できる。
  ・ 非粘結/弱粘結炭をコークス化せずに直接使用できる。
  ・ 操業の開始、停止が高炉に比べて大変容易である。
  ・ 二酸化炭素の発生量を削減できる。

 ところが、日本企業は、結局のところ、DIOS法を発展させるのでなく、放棄を選んだ。脱溶鉱炉の流れに乗らないことを決断したのである。
 新規設備投資でランニングコストを下げ、競争力を強化するのではなく、償却済みの既存設備をできる限り生かして生き残る道を選んだことになる。
 (但し、日本企業も脱溶鉱炉路線を100%あきらめた訳ではなさそうだ。米国で、Midrex社FASTMET法/「ITmk3」で展開しているようだ。(5))

 技術的には、直接還元炉という道もありうる。こちらは、還元して固体鉄を得る古いタイプの技術だ。
 例えば、インドネシアではかなり古くからHYL 型直接還元炉が稼動している。

 こちらのメリットは、天然ガスが利用できる点にある。しかも、生産物は固体鉄だから、電炉につながる。コストメリットが歴然とすれば、転炉も電炉に代替できる。

 少なくとも、安価な天然ガスさえあれば、今までのような大規模な仕組みつくりは不要となる。地域の条件に合えば新たな製鉄ビジネスを立ち上げることが可能といえよう。

 この技術は、基本的にミニ製鉄所路線といえる。規模の経済を追わなくてもコスト競争力が発揮できる仕組みを追求しているといえよう。(5)

 とはいえ、結局のところ、溶鉱炉代替技術という観点では、商用化されたのは、Corex 法だけといえそうだ。

 製鉄プロセス全体を考えると、還元反応技術の良し悪しもさることながら、採否上重要なファクターは、下流を転炉にするか、電炉にするかだ。
 Corex は転炉向けで稼動しているが、オーストリアで行う限り、生産プロセス全体で見ると、コストメリットはそれほど大きくない思われる。中規模生産能力で比較すれば、間違いなく圧倒的なコスト競争力があるだろうが、下流と一体管理している大規模生産能力の溶鉱炉型の仕組みと比べると、本当に優位に立てるのかはっきりしない。

 しかし、このCorex の発展形をPOSCO が始めるとなると話は別だ。POSCO では下流側のインフラが整っているからである。

 --- 参照 ---
(1) http://www.posco.co.kr/en/investor/faqs_13.html
(2) http://www.tms.org/pubs/journals/JOM/0110/Manning-0110.html
(3) http://www.jfe-holdings.co.jp/archives/nkk_360/No.40/scope/scope3-4.htm
(4) http://www.jfe-21st-cf.or.jp/jpn/chapter_6/6e_1.html
(5) http://www.kobelco.co.jp/column/topics-j/messages/155.html
(6) 典型例:Hlsmelt (オーストラリア)http://www.hismelt.com/product/index.html


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