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2005.1.28
 
 


東大阪の中小企業の強みとは…

 オンリーワンやトップシェアの中小企業を本気になって探せば、世界中至るところにあると思う。

 その多くは、「残りものには福」型の企業だ。例外的に、イノベーターも存在するが、大概は、すでに大企業への道を歩み始めている。

 要するに、市場が伸びた時、大勢が参入したが、衰退とともに次々と脱落者が発生し、最後まで頑張っていた企業が残るという、資本主義社会の原則が通用しているだけの話である。

 そして、淘汰に耐え抜いた、「残りものには福」型企業は、売上減でも生き延びれる強靭な仕組みと、顧客の信頼を集めることができる力を兼ね備えていることが多い。
 このため、残った企業の競争力は極めて強い。そこだけ見れば、「凄い!」ということになる。
 モノ作り企業なら、こうした企業こそお手本と見なす人も多いだろう。

 確かに素晴らしいが、頑張った割には、見返りは小さいと見ることもできる。
 それだけの力があるなら、やり方を変えていれば、もっと成長できたのではないか、とも感じる。

 そんなことをつい考えてしまったのは、「東大阪の中小企業の足腰は強い」と熱っぽく語しかけてきた人がいたからだ。

 気持ちはよくわかる。同調したい気にもなる。
 しかし、「足腰が強い」ことが飛躍を妨げてきた、とも言えるのではないだろうか。

 東大阪の強みは、短納期にもかかわらず、低コストで納期が遵守できる点にあったと思う。松下・三洋・シャープといった大家電企業の、市場動向に合わせた新製品立ち上げに、重要な役割を担ってきたのは間違いあるまい。

 優良大企業に長く鍛えられてきたから、今でも力は十分すぎるほどある。ところが、この地域は低迷している。これは、飛躍のための知恵を生み出す仕組みを作ってこなかったからではなかろうか。

 それでは、東大阪の中小企業は、どのような知恵で戦ってきたのか・・・。
 足腰の強さとは何なのか・・・。

 簡単に言えば、2種類のキーマンが協力して、自由に動ける体制を大事にしてきた点につきると思う。二人の協力こそが知恵の源泉だったと思う。
  (尤も、1人二役も存在する。)

 極めて抽象的な表現だが、現実の動きをまとめると、そうとしか言いようがないのである。説明しておこう。

 まず一人目のキーマンだが、「顧客対応スタッフ」と呼んだらよいかもしれない。仕事は2つ。
 先ずは、受注と最初の詳細な打ち合わせ。
 そして、最後の段階での詰めである。

 この能力はすぐには身につかない。経験と、幅広い知識が必要だから、当然である。
 能力ある人かどうかは、顧客が見れば一目瞭然だから、競争は熾烈である。仕事に向いていない人はすぐに淘汰される。

 一見合理的に聞こえるが、ここに問題がある。東大阪では、こうしたキーマンは、勤めている企業で働き続ける必要がないからだ。マクロで見れば、地域の生産能力は十分あるから、力があれば、いつでも独立可能なのである。
 従って、キーマンを核とした小所帯企業の集合体産業から脱せない。ミクロで見れば力のある企業が伸びるが、少数のキーマンの力では成長には限界がある。しかも、マクロで見れば全体のパイを広げる力は働いていないし、産業の合理化も進んでいるとは言い難い。椅子取りゲームに近い産業なのだ。

 この仕組みを支えたのが、二人目のキーマンである、「職人魂」を持った設計・生産要員である。工場に密着してスキルを磨き続け、低コスト高品質な製品を作ることを一日中考えている。そして、「顧客対応スタッフ」と一緒になって、競争力向上に励むのだ。  企業間の競争は熾烈だから、こうした能力が優れていなければ生き残れない。一人目のキーマン同様、市場のパイ縮小の折には、キーマン以外は力仕事要員と見なされカットされるからである。

 顧客たる家電産業が不調になり、中国シフトまで始まれば、パイの縮小はさらに激しくなる。キーマンの厳しい淘汰が進む。

 結果は見えている。優れたキーマンを抱える企業だけが残る。言うまでも無く、残った企業は、超強力である。「比類なき」と形容してもよいかもしれない。

 しかし、こうした動きは、最近発生したという類のものではない。東大阪の産業とはもともとそうしたものだった。

 東大阪の主要顧客である家電産業はアップダウンが激しい。事務機や自動車のように計画的に新製品を出す仕組みでは機能しないのである。
 このため、市場のパイの縮小には何度も直面してきた。ビジネスが縮小したら、キーマンを温存して、力仕事要員をカットする延命策は当たり前の対応だった。これは、顧客側から見れば嬉しい仕組みだ。
 しかし、東大阪の産業からいえば、同じ顧客、同じような製品群、という範囲で生きることを余儀なくされ、飛躍のチャンスを見逃してきたとも言える。決して嬉しい仕組みではない。

 といっても、ここから抜け出すのは簡単ではない。二人目のキーマンの技術を活用できる分野は色々ある筈だが、分野が異なると、発想の仕方を変える必要がある。ところが、こうした経験は無いからである。

 そして、もっとも難しい問題は、競争力の根源でもある一人目のキーマンの活用方法だ。力はあるのだが、それは今まで担当してきた産業での話しである。知識を欠くから、他の分野では通用しないことが多い。
 そのため、マーケティング支援が行われることが多いが、奏功するとは限らない。キーマンが、プロの支援だけで変身できる保証はないからだ。

 悲観論を述べているのではない。
 個人芸的に力を発揮している人の中心業務に対して、直接支援やアドバイスを提供しても、その効果は限定的、という原則論を語っているだけである。

 効果をあげるには、キーマン自ら、組織的に知恵を生む仕組みを考え出す必要があろう。外部のプロは、そうした仕組み作りを手伝うべきで、直接的な支援は避けた方がよいのである。
 そうしなければ、せっかくの強みを失うことになりかねない。


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