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2006.1.5
 
 


日本のケータイメーカーは飛躍できるか

 世界的に、ようやく第3世代携帯電話の本格普及が始まったようだ。
 第2世代では、マイナーな地位でしかなかった日本の携帯電話メーカーだが、やっと飛躍のチャンスが巡ってきたのかもしれない。

 よく知られるように、日本は、無線通信分野では、いち早く自動車電話を普及するなど、動きは結構早い。しかし、携帯電話通信技術の基本骨格に係わる特許を保有していない。そのため、第2世代では、音質が悪いにもかかわらず、日本独自の規格を追求してしまい、世界の主流から外れてしまった。
 その上、黒電話時代と同じように、通信サービス業界が機器業界を管理する体制にした。おかげで、日本のほとんどの携帯電話機器メーカーは、未だに、国内向製品開発に気を吐くローカルプレーヤーのままである。管理された土俵のなかで、選ばれた大企業が同質の競争を繰り広げているわけだ。

 規制の枠組みを好む人達がこの産業をとりしきっているのである。

 おそらく、研究開発志向のメーカーも、通信サービス企業が市場を確保してくれるなら、敢えて波風など立てたくないということだろう。実際、売上高営業利益率も10%程度は確保していたようだ。他の事業が惨憺たる状態だった時、この数字は輝いていた。

 とはいえ、流石に、第3世代では、孤立しないように世界標準で進めようということになった。
 2005年11月には、「サービスの高度化・多様化、料金の低廉化等、競争が一層促進される」(1)ということで、携帯電話事業への新規参入認可が決定した。
 ようやく、規制でがんじがらめの世界が変わり始めたようである。

 しかし、携帯電話メーカーにとっては、もう遅かりし、かもしれない。

 世界に率先して第3世代携帯を国内市場に浸透させることには成功したと言えないこともないが、メーカーには、この余勢をかって海外進出する力が残っていないかもしれないからだ。

 どう見ても無理な商品開発競争が行われている。
 「出荷台数は昨年並みにとどまる可能性が高い」(2)というのに、2005年に発売されたケータイ新製品は、NTTドコモが28機種、auが22機種、ボーダフォンが14機種と(3)、まさしくオンパレード。

 しかも、とんでもない価格の安売りが行われている。通信サービス企業のプロモーション費用が補填しているだけの話ではあるが、こうでもしなければ市場規模を保てない状況に陥っていると見ることもできそうだ。

 確かに素晴らしい製品ばかりだが、本来の価格表示に変えたとたん、売れなくなるのではないだろうか。
 そんな状態でも、競争に負ける訳にいかないから、各社とも、相当な数の人材をこの分野に投入し続けている。海外市場に本格参入するつもりなら、ここから開発部隊を割かざるを得ないが、そんなことができるとは思えない。

 もともと、日本メーカーは、デジタルベースバンドのチップや、CPUコアの知財権を握っている訳ではないから、高機能な新製品をいくら投入しても、付加価値が大きく増えることはない。と言うより、実態は逆だろう。第2世代より、3割程度のコストアップが必至にもかかわらず、たいした価格上昇が期待できないからである。
 こんな競争を続けていれば、利益は縮む一方ではないだろうか。2005年の売上利益率にしても、おそらく、低い方の数%というところだろう。
 すでに、コア事業と言える収益性をあげる力がなくなっているのかもしれない。

 店頭で美しいケータイを眺めていると、世界に冠たる商品開発力を感じるが、この力がそのまま海外で通用するとも思えない。PDAではなく、ケータイが流行った国であるし、そもそもマーケティングの仕組みが違うからだ。
 といって、海外進出のために、マーケティング費用を十分に捻出できる懐状況でも無い。

 しかし、そんなことも言っていられない。

 待った無しの、チップの細密化が控えているからだ。これから先の半導体設計コストは膨大になる。製造コストも一気に膨らむことになろう。
 成熟化する国内市場だけでは、高騰する開発費をカバーしきれない可能性が高い。

 だが、グローバル市場に入れば、競合は強力である。
 例えば、Flextronicsが抱えるエンジニアの数は7,000人と言われる。この体制構築が伝えられたのは相当前のことだ。携帯電話に係わる、チップデザインや実装、プログラム開発、通信技術、メカニカル設計、等、必要な人的資源は全て揃っているのである。シンガポールを拠点として、インドやウクライナのエンジニアを活用するから、高品質・低コスト・短納期の製造能力を持っている。

 一方の日本企業は、アウトソーシングも進んで来たとはいえ、機種毎に数百人を投入する従来型プロジェクト体制を堅持するだけ。

 これで、世界市場に雄飛するストーリーを描けるだろうか。

 描けないなら、どうすべきなのか。

 この問題の先送りはできない。抜本的な方向転換を図るしか道はない。

 日本のケータイメーカーは岐路に立たされている。

 --- 参照 ---
(1) http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/051109_3.html
(2) http://www.idcjapan.co.jp/Report/Mobile_service/j5140304.html
(3) http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/showcase_backnumber/


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