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2006.4.11
 
 


米国知財政策の大転換

 米国特許法が大きく変わりそうだ。

 2005年、突如として特許法改正(1)があがってきたので、ひとしきり話題になった。
 米国伝統の先発明主義を止めるという内容だから驚いた。改定といったものではなく、それこそ、一世紀に一度の抜本的作り直しに当たる。そんな法案が成立するのは、どうせ2010年以降と見ていたが、そうでもなさそうだ。

 ヒアリング[直近は, 2006年4月5日(2)]を見ると、瑣末な点ではなく、以下の3点に関心が集中しているようだし、思ったより早く法案化しそうな感じがする。
  ・Patent Quality
  ・Patent Harmonization
  ・Patent Trolls

 少なくも、特許紛争解決を容易にするためのルールを早く作る必要があるとの認識では一致しているのは間違いない。さらなるグローバル化を図るためには、ここが肝と気付いたようである。
 中心的役割を担っているLamar Smith議員が、2006年3月に公開した“Unveils Innovation & Competitiveness Act”(3)でも、研究開発への減税だけでなく、無駄な訴訟費用を減らすことによって、知的財産のさらなる充実化が図れるとの主張がなされている。訴訟社会アメリカも、流石に膨大な費用に耐えられなくなってきたようである。

 しかも、このことが社会問題化しかねない情勢である。のんびりしていられないということだろう。

 典型は、2006年3月30日発表された、Internet Explorerの「セキュリティ以外の更新プログラム」[KB912945](4)。ActiveXコントロール処理方法の変更プログラムにすぎないが、ActiveXを稼動させるため、いちいち手動操作が必要になるかもしれぬという代物。技術的に、わざわざ退歩させる方針が打ち出されたのである。
 実際のところ、どの程度面倒になるのかわからぬが、利用者側にとってはとんでもない方針と言わざるを得まい。

 よく調べていないから実態はわからぬが、Eolas Technologies の特許侵害訴訟の結果、仕様を変更せざるを得なくなったようだ。膨大な損害賠償金だけでは済まず、高額なロイヤリティを要求されたということだろうか。

 マイクロソフトは、今までは、主に著作権で知財を上手く防衛してきたように見えるが、この先、様々な技術が融合してくると、このような特許侵害に始終悩まされることになろう。
 なかでも、家電との融合が本格化すれば、過去の特許を掘り返した侵害訴訟が激増するのは間違いあるまい。古い権利を購入し、訴訟に持ち込もうと、特許マフィアはてぐすねを引いているからだ。
 マイクロソフトと日本企業との包括ライセンスも、こうした動きに対応した方針だろうが、それだけではとても対応しかねよう。

 こんな状態で、現在の米国特許制度を続ければ、この先、どうにもならなくなくなるのは自明である。

 もともと、米国の特許制度は、胡散臭く、つまらぬ内容のペーパー特許の登場を許すような旧態依然たる仕組みとの批判を受けていた。
 名目上は、“novelty”と“non-obviousness”が要件となっていても、結局は審査者の主観で決まるから、日欧とは相当レベルが違う特許が混じってしまうのである。誰が見ても、不合理だが、ずっと放置してきた。しかも、米国の体質として、非英語文献を調べる気はない。
 米国のイノベーション風土は強固だから、これで十分という、大雑把な発想で過ごしてきたと言えよう。

 ところが、そんな弱点をついて、特許侵害訴訟で儲ける商売が流行してきた。お蔭で、ロイヤリティを巡るゴタゴタは日常化してしまった。
 しかも、米国は、先発明主義だから、訴訟の準備は大変な仕事になる。訴訟費用は鰻登り状態。500万ドルでは不足というのだから、とんでもない費用である。
 このままなら、発明に勤しむ事業会社は苦しむ一方で、発明に無縁な訴訟専門企業は大儲けという状況が確立してしまう。

 これでは、知的財産保護の仕組みが社会に貢献しているとは思えまい。プロパテント政策の副作用が一気に噴出してきたのである。
 米国でのイノベーション創出の最大のバリアになりそうな雰囲気である。

 技術開発とその適用を促進させるためにつくられた制度が、今や逆回りし始めたのだ。イノベーションが牽引する社会と誇れるどころの話ではない。

 そこで、グローバルな知財標準に従おうとの雰囲気ができあがったようである。(5)
 米国としては珍しいことだが、ようやく、問題の深刻性を理解したようだ。

 問題は、法案が一つにまとまるかという点だ。
 今のとこと、何種類かの提案があるが、主流ははっきりしていないそうだ。(6)
 確かに、バイオとITでは視点が大きく違うだろうし、アカデミズムは別な見方をするだろう。簡単ではない。

 しかし、これは、国の競争力に係わる問題である。

 “Inventions and creations are the engine of America’s economy. IP industries account for over half of all U.S. exports. They represent 40% of our economic growth and employ 18 million Americans who earn 40% more than the average U.S. wage・・・”(6)

 そうなると、米国内は、一気にまとまるかもしれない。

 --- 参照 ---
(1) H.R. 2795“Patent Reform Act of 2005”http://thomas.loc.gov/cgi-bin/query/z?c109:H.R.2795:
  [the House Judiciary Subcommittee on Courts the Internet and Intellectual Property]
(2) [video webcast 約1時間] http://boss.streamos.com/real/hjudiciary/courts/courts04052006.smi
(3) http://lamarsmith.house.gov/news.asp?FormMode=Detail&ID=781
(4) http://www.microsoft.com/japan/technet/security/advisory/912945.mspx
(5) http://www.law.com/jsp/article.jsp?id=1124109330603
(5) http://www.mofo.com/news/updates/files/update02134.html
(6) http://lamarsmith.house.gov/News.asp?FormMode=Detail&ID=776


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