↑ トップ頁へ

2006.10.10
 
 


軍事技術型民生用技術の勃興…

 前回は、2つ目の品質問題として、プログラムのバグをとりあげた。
  → 「ゼロディフェクト運動の悪影響 」 (2006年10月5日)

 引き続いて、3つ目の問題に移りたいところだが、2つ目と3つ目は繋がる点も多いので、もう少しプログラムの話をしてみたい。

 前回の話は単純である。
 バグがあっても、重大な支障が発生しないように、全体構造を設計する必要があり、このソフト設計能力が製品全体の品質を左右するということ。細かなバグ撲滅競争を繰り広げても、品質は向上しないということ。
 美しいスパゲッティコードは駄目だと言ってもよいかも知れぬ。

 こんな話を聞かされても、そんなことは昔からわかっており、当たり前のことに過ぎないと言う人は少ないない。
 しかし、分かっているなら、トラブル発生を抑えることができそうなものだが、そうはならない。トラブルは減るどころか、増える一方だ。
 その理由は明快。対処方法がよくわからないからである。

 CPUの処理能力は向上し、メモリは益々安くなるから、プログラムも巨大化する。しかも、様々な方法論が同居したり、昔なら別々だった機能が統合されたりする。お蔭で、個別領域で仕事をしている個々のプログラマーは全体像が全く見えない。他のプログラマーが作成した部分と自分のアウトプットが相互干渉しそうかさえ想像できなくなりつつある。
 そのため、検証作業のプロフェッショナルが必要となってくる。しかし、すべての条件で試験・シュミレーションを行うことは無理だ。漏れた条件でトラブルが発生する可能性は否定できない。
 つまり、トラブルフリーなどあり得ないのだ。

 そのため、プログラマーに、全体像を考えながら仕事をせよと叫ぶマネジメントもいる。その気持ちは、わからないことはないが、すでに、それが成り立つ次元を超えているほどプログラムは巨大化しているのだ。
 個々のプログラム領域間のインターフェースを明確に定義し、プログラマーはそれに100%従うことしかできない現実。問題が発生しないように全体構造を考えていく仕組みを作ることこそ、マネジメントの肝になったのである。

 この考え方は、日本が得意とする技術の“すりあわせ”型とは違う。従って、もしかすると、日本企業にとって一番不得手な分野かもしれない。

 それでは、全体構造考案を得意とするのは誰だろう。
 ここをじっくりと考えて欲しい。これからの品質問題を考える際の鍵がここに隠されているからである。

 おそらく、こんなことばかり考えているのが、軍事産業である。軍事関連産業には進出しないことを社是をとしていたり、興味の対象外の日本企業が多いから、ピンとこない話かもしれないが、感覚的にとらえてもらえれば十分である。例えば、製品の見栄えや、細かな使い心地などどうでもよいのが軍事用製品と考えてもらえばよいだろう。要するに、どんな環境下でも、最低必要な機能は100%発揮でき、何があっても、間違った動きはしないことが必須要件なのが軍事用製品という見方である。
 そんな製品を作るためにはどうしたらよいか徹底的に考えるのが、軍事産業の特徴である。

 例えば、民生用なら数万円で買える製品が、軍事用になった途端、車が買える価格になったりする。ところが、両者の部品はほとんど同じなのかもしれない。ここが一番のポイントである。
 極限状態でも稼動を保証するため、それそれの部品がどの程度まで機能を発揮できるのかを確認し、トラブルが発生しないよう、製品開発を行なうのである。特注品の少量生産だから高価ということもあるが、こうした開発に膨大なお金がかかるから高価になると見て欲しい。

 こんな話は、民生用には無縁と思う人もいるかも知れぬが、製品価格を別として、自分達の仕事と似ていると感じた人もいる筈である。

 そうなのである。
 大量生産の民生用にもかかわらず、軍事用となんらかわらないレベルが要求され始めたのだ。

 これは、どういうことか。

 製品の高度化が進む一方で、社会の要求が厳しくなってきたからと読むとよい。
 つまり、今は、一部で見られる状況が次第に、産業全般に移ってくる可能性が高いということである。つまり、民生用製品の技術体系が軍事技術の体系と似てくるのだ。

 そう言われても、なんのことかわからないかも知れないが、変化の背景を考えればなんとなくわかると思う。

 現在の大量生産品には多種多様な様々な部品が使われている。しかも、部品の寄せ集めではなく、互いが関係する統合製品へと進んできた。
 又、各部品の機能高度化も極限まで追求されている。
 こうなると、各領域毎にゼロディフェクトを追求しても、全体でのゼロディフェクト実現は極めて難しい。

 しかも、製品に対する社会の要求も厳しくなっている。事故が発生すれば、それは製造側の責任なのである。故障はやむをえないが、事故は防がなければならない。
 今までのような、品質向上では対応ができなくなっていると見てよいだろう。

 細かな品質など気にせず、必須要件だけは100%保証する、軍事技術によく似てきたのである。
続く → (2006年10月17日予定)


 技術力検証の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2006 RandDManagement.com