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2006.12.26
 
 


産学協調路線の実態…

 大学と産業界の協調が進んでいると語る人が多い。
 確かに、ずっと以前の大学と比較すれば、誰も否定はしまい。しかし、“進展”と指摘できるレベルに達しているのだろうか。

 一例だけで推測するのは乱暴かも知れぬが、最近の経験からすると、“進展”どころの話ではないという気がするのだが。
 と言うことで、その一例を紹介しよう。

 もっとも、ビジネスマンから聞いただけで、たいした話ではない。ただ、この話、余りに印象が強かったのである。

 半導体リソグラフィー用レジスト研究は面白そうですな、と話しかけられたそうだ。もちろん、シリアスな議論ではなく、世間話。
 趣旨は単純。
 自分の研究室でテーマに取り上げれば、面白い材料ができそうだというだけのこと。いかにもありそうな話だ。
 ただ、それに続けて、半導体細密化は今後も着実に進んでいくから、結構、よさそうなテーマですな、と語ったという。
 “素晴らしい”アイデアが閃いたなら、結構な話に聞こえる。産学協調路線も、ついにここまで浸透してきたのかと思ってしまう一瞬である。

 そこで、ビジネスマン氏、つい口がすべってしまったようだ。
 それなら、一刻も早く、レジストメーカーにお声を掛けて、共同研究のご相談をされたらと、言ってしまった。
 まあ、余計なお世話ではあるから、大学の先生は気を悪くしたかも知れぬ。

 ところが、いや〜、そんなことはしませんよ、と笑いながらの答えが返ってきたという。
 知財重視路線が貫徹しているから、先ずは、大学で特許化ということなのだ。最近は、大学も頑張っていますよ、と胸をはっている訳である。

 確かに、一理ある。慣れない研究契約の締結に時間を割かれる位なら、いち早く技術のタネをおさえた方が意味がありそうだ。

 しかし、ビジネスマン氏から見れば、この姿勢こそ、日本の大学の深刻な問題と感じるわけだ。

 企業の力を借りずに、商用化の方向に進むことができるか考えもせず、ともかく知財化しても、使われぬ特許が溜まるだけになりかねないからである。
 そもそも、専門家でもない“ビジネスマン”からのちょとしたアドバイスだけで、テーマの魅力度を判断して、研究を進めるのだから、そうなるのも無理はないかもしれないが。

 要するに、今もって、商用化がどれだけ大変か、理解できないということである。

 そう感じているビジネスマンは少なくない。
 こんなアイデアがあると先生から声がかかり、なんと答えるべきか窮してしまうことが多いからだ。

 よくあるのは、この技術を自動車に使えないかというもの。
 当然ながら、頼まれた方は、どう扱うか窮してしまう。

 自動車会社には、アイデアは数限りなく殺到している。そのうちの僅か1つにすぎない。しかも同じ機能を発揮する方法は沢山あるのだ。新しい技術で、新しい機能が発揮できるだけでは、何の魅力もないと見た方がよい。
 まさか、先生のアイデアは、多分、魅力ゼロと言う訳にもいくまい。

 たとえ多少魅力がありそうでも、自動車会社の担当者に、そんなアイデアを検討できる余裕があるとも思えない。よくわからぬ基礎データを見て考える位なら、多数のアイデアのなかから、すでに見込みがはっきりしているものを取り上げ、検証に注力したくなる筈だ。そうしなければ成果がでる訳がなかろう。

 たった一つのアイデアでも、商用化には、とてつもない労力がかかるのである。そんな長いプロセスに付き合うつもりも無ければ、そもそも、アイデア実証さえ満足に行っていないの状況で、アイデアを開陳されても、なんとも言い難いのが現実である。

 先の、半導体レジストの話は、これとは違うが、産業界の現実を理解していないという点では全く同じ。
 実験装置も持っていない状態で、どうやってアイデアを検証するのか考えないのである。そもそも、次々世代用の装置など1台百億円と言われているのだ。企業と一緒にプロジェクトを組まずに、どうやって研究するつもりなのだろうか。

 ただ、こうした姿勢を見て、大学の先生が、余りに、現実を知らないことが問題だと考えるべきではない。今迄、企業とパイプを持っていなかったのだから、知らないのはて当然である。大学の先生は、実直に、打ち出された路線に乗っただけに過ぎない。商用化が嬉しいとか、どうしても特許化したいから、進めているのではない。そうしてくれとお上が言うから従っているだけのこと。

 レジスト研究も、おそらく、そんなところだ。
 “半導体リソグラフィー技術が急進展し、新しいレジストが要求されているから、レジスト研究は重要である。得意な化学合成技術を活用することで、このニーズに応えていく。”との研究趣旨を堂々と書けることが重要なのである。そう記載すれば、目的研究へ傾注していると見なされ、研究費が回ってくる可能性が高いからである。

 だからこそ、自動車応用の追及とか、次世代半導体用のレジスト研究という話になる訳だ。
 しかし、先生から見れば、研究費が担保されれば、それで一段落。後は、学会発表に向かって動くだけ。
 それこそ、研究室で、役に立ちそうもないが、面白い実験を行ってもよいのである。方針に従って、筋書き通りに研究を続けることができたということになる。

 特に、研究費が集まる先生には、すでにその傾向が見てとれると言う。一旦、産業に役に立ちそうだと見なされると、ほぼ自動的に研究費がふってくるから、趣意書作りや、お金集めに苦労しなくて済むようになったからだ。
 こうなると、面倒な商用化研究は嫌われる。昔は産学協同に熱心だった少数派の先生方が、逆にサイエンスに傾注し始めたという。

 だが、こんなやり方は、大学の十八番ではない。昔の企業内基礎研究も同じだった。予算を獲得するための作文を上手に書くことが、研究者の能力としては最重要だった。テーマ承認後は、研究者は自由気ままに研究ができたからである。
 干渉してもプラスにはならないから、マネジメントせずという方針だったと言えよう。
 その結果は言わずもがな。

 大学は、かつて企業が歩んだ道を選んだようである。


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