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2007.7.12
 
 


電子タグ普及策はどうあるべきか…

 電子タグの熱が醒めたのもわからないではない。
 トラック輸送の実証試験結果を見れば、なんだそんなものか、とならざるを得まい。(1)
 「現時点では電子タグの活用は難しい状況であると考えられます。」との結論なのだ。

 しかし、日本の運輸の実態を考えれば、こうなるのは当たり前だろう。
 様々な荷姿での混載。荷物の中味も種々雑多。しかも、ほとんどの荷扱い所は狭くて、荷台の周辺に荷物は山積み。
 こんな状態で、単純に電子タグを貼付して、積載荷物を100%捕捉できるとは思えない。
 言うまでもないが、荷物一個でも、補足漏れがでることがあるとわかれば、そんなシステムを使う人がいる訳がなかろう。

 間違えてはいけないが、だからといって、「活用は難しい」訳ではない。荷物チェックが電子化できれば生産性は格段にあがるのだから、使えるところは必ずある。
 しかし、政府が全額支払うというのなら別だが、全産業で使い始めることなどあり得ないということ。
 電子タグが導入されれば、“宅急便”(R)と同じ位のインパクトがある。業界構造は変わってしまうから、変革者以外は導入反対派になるに決まっている。生産性があがるということは、非合理な部分は切り捨てられるが、そこで食べている人も多いのである。業界に依頼したら、そんな部分を切り捨てることはできないのは当たり前。

 わかっていても、未だに、一歩踏み込めないのである。

 以前、医療用器具のような領域が向いているとの話をきいたことがある。
 どうなっているか調べていないが、これも、産業全体で取り上げるのだろうから、おそらく、駄目である。
 医療機関の実情をみれば一目瞭然である。バーコードリーダーなど安価品は1万円台で、USBでパソコンにつなげて使える程度のもの。こんなものさえ導入できそうにない病院があるのが実情。そんな状態で、電子タグの読み取り装置と、それに対応する情報システムを構築できるとは思えない。
 ともかく一品毎のチェックが必要と圧力をかえれば、バーコードになるだけのこと。結果として、電子タグはより入りにくくなるだろう。

 こちらも、使えるところはある筈。

 何を言いたいかおわかりだろうか。
 電子タグ導入の目的は生産性向上。しかし、非合理的なビジネス慣習を変えないなら、導入コスト負担だけで、生産性はたいして上がらない。
 それでも導入するとしたら、無理じいされたか、競争上導入せざるを得なくなった時だろう。業界全体で試行したら、振興策にはならないのである。

 要するに、電子タグを利用を本気で検討するのは、革新的企業か、グローバル競争に晒されている企業といういこと。つまり、日本では、ほんの一部の企業だ。
 こうした企業を支援しない限り、振興策どころではないということ。
 日本全体で雰囲気を盛り上げる方策はマイナス効果の方が大きい。静かに、しかし情報をオープンにしながら、先を行く企業が進めやすい環境をつくることである。
 大変なことだが、ここまで踏み切らない限り、成果は得られない。

 しかもベンダー業界は、電子政府化で、意味の薄い仕事を大量に受注したから、質は相当落ちた筈だ。
 この体質で実証試験仕事をしても、たいした成果は得られないと思う。試行できたことを喜ぶべきではない。試行で普及をかえって遅らせたかも知れないのである。

 ただ、日本の場合、要素技術開発に焦点を当てる企業が多いから、そんな企業にとっては成果はあがったはずだ。しかし、それは日本における電子タグ普及には寄与できないということ。あくまでも、普及の鍵を握るのは、全体の仕組み・情報システムがどれだけ優れているかである。
 もっとも、システム作りの要件を大きく変えるような要素技術も無い訳ではない。先のトラックでいえば、補足できない荷物や読み取れないエリアを無くすための補助手段や、読めない領域外のタグを読み取らせない方法の開発は重要となる。これらは、面倒で地味な仕事の積み重ね。これが商業化技術なのである。誰かがやらないと、一歩も進まないのだ。
 言うまでもないが、実証試験で実態と知るということになっているが、わかりきったデータなど商業化にはほとんど役にたたないのが普通だ。ビジネスマンなら要素技術がある程度“いける”となって、技術の出来具合を見て微調整の入る段階で行う。
 しかし、これはあくまでも利用場面毎で違うから、使う人がいなければ、意味のない開発になる。
 条件は様々だから, 仕様を決めるのは簡単なことではない.
   ・送信強度[距離]
   ・送信量[時間]
   ・送信回数[頻度]
   ・耐ノイズ
   ・耐候性や耐衝撃性など

 まとめておこう。
 システム化を担当するベンダーの質が上がらない限り、世界に誇れるような周辺技術がいくらあっても、残念ながら、その価値は生きてこないということ。

 従って、急ぐべきは、現行技術で対応できる電子タグで、既存の仕組みを大きく変える動きを増やすこと。電子タグの使用量を増やすための準備など、急ぐ必要はない。使用量が増えそうと感じて、低価格化に動かない日本メーカーがいないとは思えまい。そんなことは企業に任せておけばよい。米国とは違う。
 目に見える場面で利用が始まり、凄まじい生産性向上を見せつけられれば、すぐに似た動きがでるのが日本のお家芸。
 従って、振興施策としては、応用場面探索プロジェクトが重要である。既存の仕組みの壁を突破する位の挑戦的な動きの支援策がないから、いつまでも広がらないのである。ここも米国とは違う。
 別に難しいことではない。挑戦型の“実証”実験を行うだけのこと。と言っても、ミニ商用化と同じようなもの。

 こうしたことができないのは、業界内で協議して電子タグ普及の進め方を決めるているから。現行体制で成功している企業が現行体制を揺るがすものを導入する筈はない。
 上手くいくのは、現行の仕組みにそのまま乗り、業界も収益増のチャンスがある場合だけ。当たり前だが、儲かるとなれば、どの企業もすぐにでもやりたくなる。黙っていても進む。

 もっとも、以上は理屈だけの話。
 日本における一番の問題は、情報システムベンダーのお家の事情にある。
 この産業、どう見てもゼネコン型の構造である。つまり、技術力ある企業は大型案件にならない限り面倒だからやらないのだ。しかし、挑戦的なものとは小型で知恵も必要とする。
 力があるリーダーが登場しない限り、進展は難しいと見た方がよい。

 政府の役割を否定する人もいるが、そんなことはないのは歴然。的確な振興策を打たない限り、日本のIT産業はますます競争力を失っていくだろう。
 下手をすると、残るのは、要素技術だけで生きていける小ぶりの事業だけということになりかねない。

 --- 参照 ---
(1) http://www.jta.or.jp/jyohoka/rfid/rfid_200704_1.pdf


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