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2007.11.7
 
 


最新ベクトル型スパコンを眺めて…

 2007年10月、NECが100GFLOPS超CPU搭載のスパコンを発表した。(1)
 言うまでもないが、ベクトル型である。

 512ノードでPLOPSに迫る(839TLOPS)ということで、Linpack世界ランキングに登場というのが、メディア型見方だが、ランクの意義が薄れてきたというのが昨今の状況ではなかろうか。
 Blue Gene/LなどPowerPC 440チップを65,536個使った超巨大マシン。CrayのRed stormはOpteronを12,980個、SGIのColumbiaはItanium2,024個。
 64ビット汎用CPUがコモディティ化し、プロセッサもマルチコアになったから、チップの数を増やせば高順位がとれると言うだけにすぎまい。これがトップ争いの実態。
 (Linpack世界ランキング下位はビジネス用途であり、この世界はクラスタ標準化が完了してしまったと言ってよいだろう。コモディティ化ということ。)

 このコンセプトを変えずに、PLOPSマシンに挑戦すれば、膨大な電力使用量のお化けマシンの登場となる。おそらく、データ保存も簡単ではなかろう。こんなものが実践的と言えるのか、はなはだ疑問。
 (もっとも、正確には、Blue Gene/L型は、単純なDell型とは違うし、トップに並ぶシステムにはそれぞれ独自の工夫があるから、同じアーキテクチャーとは言えないが。(2))
 そろそろ、アプリケーション毎に考えるべき時が来ているのではないだろうか。

 それはともかく、このベクトル型マシン、ハード面では能力が相当向上している。
 ワンチップ性能が102.4GFLOPSなのだ。地球シュミレータがワンチップ確か8GFLOPS程度だった筈。これを5000個(640ノード)も集めたことを考えると、目を疑うような進歩だ。(地球シュミレータは、お陰で驚異的な消費電力量となった。電気代金だけでも膨大だから、早く廉価な代替品が欲しいところだが。)
 尚、ベクトルユニットのパイプライン部のクロックは3.2GHz。消費電力の問題で上限に来ている汎用CPUの最速に迫っている数字である。ここまで到達すると、大規模計算での最適化作業はかなり減らせそうだ。
 ベクトル型でもこれ位の力が発揮できるなら、市場をつくっていくことができるかも知れない。

 スパコン市場では、安価な汎用高速チップを大量に使用したスカラー型が主流になってしまい、魅力が薄れてしまったベクトル型だが、意外と廉価なようだし、チャンスが巡ってきたようだ。
 と言うのは、新型だが、従来のソフトウエア資産をそのまま使えるとされているから。これは、ベクトル型の大きな欠点ともいえる、プログラム調整作業の自動化が進んでいるということを意味する。こうなると、オペレーションはかなり楽になろう。
 一方、スカラー型はハードは安価とはいえ、大規模計算対応となれば、調整は厄介だ。
 ただ、逆に、プロが注力すれば、「TSUBAME」のように、47.38TFlopsを48.88TFlopsに向上させることもできるとも言えるが。(3)
 つまり、コンピュータ自体の研究(Computer Sci.)と数値解析研究(Computational Sci.)の思惑は必ずしも一致していないということ。ユーザーにとっては、ハードに合わせた調整など面倒このうえない話で、全く有難くないのは当然である。
 下手をすれば、実質コストで結局高くつきかねない話になりかねないからだ。

 と言っても、ベクトル型の魅力が向上したのかは、使用結果が示されない限り、なんともいえないが。

 それでも、自明なことはある。スカラー型では、ノード間のデータ転送通信量を増やすのは相当難しいし、それぞれのノードでのメモリー量を増やせば処理スピードは確実に落ちるという点。(4)

 新モデルの仕様数字を見ると転送速度は片方向128Gbpbs。ノードの共有メモリは1.6TB。
 スカラーではとても競争できない高い数字だと思う。
 この力が欲しい領域なら、定番マシンになるかも知れない。視点が違えば、マシンの評価も変わるということだ。(5)

 要するに、ハードが安価だし、結果が得られるまで多少時間がかかってもよいというならスカラーで、どうしても、早く結果を出したなら、ベクトル型となる分野があるということ。

 問題は、ベクトル型に向いた市場は、軍需産業という点。日本企業にとっては、難しい分野だ。
 しかも、先端軍事技術のメッカ、米国はベクトル型に注力しない。おかげで、ベクトル型市場は気象や地球固体科学応用になってしまう。これらが、市場の牽引車とは言い難い。

 そうなると、牽引車として期待できるのは、航空機の空洞実験や自動車衝突シュミレーションということだろうか。

 --- 参照 ---
(1) ベクトルスーパーコンピュータSX-9 http://www.nec.co.jp/hpc/sx9/index.html
(2) 清水茂則,他: 「Blue Gene/Lシステム−スーパーコンピューティングへのグランドチャレンジ−」 PROVISION 48 2006年
  http://www-06.ibm.com/jp/provision/no48/pdf/48_article2.pdf
(3) 「TSUBAMEが48.88TFLOPSを記録し、3期連続でアジア1位の座に」 東京工業大学 GSIC [2007年6月28日]
  http://www.gsic.titech.ac.jp/pr/index.php?News/2007/0628/01/JA
(4) 小林広明,他: 「実シミュレーションコードによる大規模科学計算システムの性能評価
  −ベクトル型コンピュータとスカラ型コンピュータとの比較−」東北大学SENAC広報誌 38(4) 2005年
  http://www.cc.tohoku.ac.jp/refer/pdf_data/v38-4p39-59.pdf
(5) “HPC Challenge Benchmarak Results”  http://icl.cs.utk.edu/hpcc/hpcc_results.cgi
(コンピュータボードのイラスト) (C) clipart.jp http://www.clipart.jp/index.html


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