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2007.11.29 訂正2007.12.3
 
 


高機能携帯電話はどうなるのだろう…

 携帯電話は、世界で30億台ほどが使われており、年間市場としては10億台程度らしい。発展途上国は、政治的な思惑がからんだ数字を出すから、余り信用しないほうが安全だが、まあそんなところだろう。
 一方、日本は、2007年度通期の携帯電話出荷台数予測が、前年度比4%増の5,130万台。数で見れば、せいぜい5%程度の市場ということになる。(1)

 日本の携帯電話メーカーはこの小さな市場のなかで競争しているにすぎない。音声品質が悪い日本だけしか通用しない独自規格にこだわり、製品の高度化に励んだのだから、致し方ない。競争相手は、標準規格のなかで、幅広い製品ラインを実現しながら、大量生産による廉価を目指したのだから勝てる訳がない。わかっていながら、選んだ道である。
 などという話はおそらくいやというほど聞かされたに違いなかろう。
 しかし、マネジメント上の問題は通信規格だけではない。将来はネットワークに繋がる重要な機器になると大騒ぎをしておきながら、アプリケーションソフトを使う時代に向けた流れを前提にしていたとは言いがたいからだ。日本が誇る“小さな”“無料の”リアルタイムOSを登用することで、各社は独自化に走ったのである。OSは標準化されるのではなく、各社が独特な改定を行い、これによる機能付加で勝負する方針を採用したのである。
 最初ならそれでもかまわないが、それをいつまでも続けた。素晴らしいOSということで。
 優秀なエンジニアの無駄使いとしか思えない、部外者には理解し難い方針である。

 ただ、ここで注意しなければならないのは、世界全体で見れば、携帯電話の9割は単なる無線電話機でしかないという点である。無線音声通信の制御ができさえすれば十分であり、アプリケーションソフト無用の世界である。
 日本市場は全く違う。高速通信(FOMA, CDMA2000 1X, ソフトバンク3G)だし、高機能ソフト満載機種が当たり前の世界。こんな国は他にはなかろう。
 こうなったのは、消費者のニーズに業界が応えたということではない。通信サービスを独占してきた巨大企業による市場硬直化を打ち破るため、シェア2位の通信サービス企業側が、行きすぎを恐れずに、新技術を“先走り”的に次々と導入し、市場に風穴を開けようと頑張った結果だ。
 これを表層的に見れば、高機能製品分野では、日本が世界の先頭を走っているということになる。成熟している先進国の電話サービス市場を、携帯電話端末の機能強化で活性化することに成功したのだから、海外から見れば垂涎ものと言えそうだ。

 ただ、問題は、この力を日本以外で活かすことができない体質にある。
 と言うより、活かしたいのか、という問題と言った方がよいかも知れぬ。
 海外市場では、後発企業がチャンスを活かしているのに、日本の携帯電話メーカーは力がありながら、さっぱり生かそうとしないからだ。市場を創出するのは厄介だから避け、顕在化してきた有望市場に一気に参入することしか興味がないように映るのだが。

 特にそれを感じるのは、Research In Motionの、パソコン同様に企業のメールサーバに届いたメールが読める携帯電話端末“BlackBerry”が伸び続いているから。2007年 第2四半期末、加入者数はついに1,050万人を突破したという。(2)

 確か、2006年末は490万人だったから、急成長。
 携帯でビジネスメールを読めるようにしたいことは、とうの昔からわかっていた。しかし、日本ではこうしたサービス提供は抑圧されてきたに等しい。電話網に部外者のゲートウエー設備をつなげさせない方針をとってきたからだ。
 利用者からすれば、一見、日本の携帯電話はインターネットで自由に外部接続しているように見えるが、実際はオープンな環境ではないのである。端末の能力が飛躍的に向上しているのに、なるべくネットワーク機器として使わせない方針なのだから、驚きである。
 現状の電話サービス体制の根幹を揺るがしかねないから、おことわりということだろう。

 ただ、メーカーが“BlackBerry”にそれほど真剣にならない理由もわからないではない。PDAで一世風靡した、簡素な独自OSを搭載した“Palm”に似ている感じがするからだ。確かに、簡素な機能だけで済むならよいが、機能拡大が必要となってくると、独自の“BlackBerry”OSでは、つらいものがあろう。PDA用Windows CEを適用した“Microsoft Windows Mobile”(携帯電話系はSmartphone, PDA系はPocket PC Phone Edition)との勝負になったりすれば、開発者人口の差で決着がつきかねないからだ。北米ではそんな展開になるのかも知れない。
 しかし、そんな見方は止めた方がよかろう。この機能の特徴は端末側と言うより、企業内ネットワーク、つまり企業が管理する自社のメールサーバと繋がるゲートウエーにあるからだ。

 日本企業が、こうしたニーズに本気で応え、時代を先取りする気があるなら、電話の全面的IP化を図りながら、こうしたニーズに応えていくべきだと思うが。
 すでに、音声系とデータ系を分ける必要はなくなっている。両者を統合したサーバの企業導入を積極化させる時代だろう。しかも、メーカーには、十分すぎるほどの力量がある。この流れを牽引し、それに沿った対応携帯電話端末を市場に投入していくのが筋ではないのか。
 これこそが、イノベーション創出に繋がる流れと見ているのだが。

 残念ながら、現在の日本の携帯電話の流れは、その方向にはない。画面をただただ大きく美しくし、カメラの質を上げ、音楽を聴く機能を充実させ、ゲームを搭載し、テレビを視聴する、といった付随機能の追加競争に終始している。
 要するに、限られたメモリ量、消費電力量極小化という、厄介な制限のなかでの高機能化に注力していると言ってよいだろう。
 こんな流れがいつまでも続くものだろうか。

 そう考えると、“BlackBerry”より深刻なのが、Appleの“iPhone”の登場。間違ってもらってはこまるが、この製品がヒットしたか否かなど問題ではない。
 この製品仕様に注目している訳でもない。使い勝手と、機器の軽薄さという点で優れているとはいえ、日本のケータイと比較して先進的とも思えないからだ。そんな話は、Appleファンや、最新機器マニアの評価に耳を傾ければ十分。
 “iPhone”には、日本の携帯と決定的に違う点があることにこそ注意を払うべきである。それは、OSがパソコンと同じ“MacOS X”であるという点だ。
 日本企業は、この問題を軽視しすぎているのではないか。これからの流れを考える上で、どのOSをどう使うかは、極めて重要な意思決定になってきたからだ。Appleも、結局のところ、パソコン用の独自OSを捨てたことを想起すべきである。携帯のOSを何にすべきかは、極めて大きな問題である。
 ところが、日本企業の姿勢は以前とかわらぬものに映る。当座の競争におけるメリット・デメリットで判断しているように見えるのだ。“小さな”“無料の”リアルタイムOSを独自仕様にして競争する体質のままでなければよいのだが。

 要するに、アプリケーションソフトがこれから年々大きくなり、新デバイス対応も厄介になることはわかりきっており、これにどのように対応するかを考える上では、最初にOS選定がくるのである。
 “MacOS X”を搭載した電話機の登場は、携帯電話開発のパソコン化の象徴なのである。
 現実に、日本の携帯電話にしても、この先の仕様を考えれば、ほとんどパソコンレベルだ。
  ・通信とアプリケーション用のマルチCPU
  ・XGAディスプレー
  ・Gレベルのメモリ

 ここまでくれば、Appleが、マッキントッシュパソコン同様のクローズな仕組みの携帯電話を打ち出したのも当然といえよう。
 パソコン同様のOS統一の可能性を示唆しているとも言える。

 要するに、大きなアプリケーションソフトを稼動することを考えるなら、事実上、パソコンのWindowsか、サーバのLinuxしかないということである。(Linuxだけでなく、UNIXも記載しておくべきでした。・・・以下に訂正あり。)
 しかし、現実にはそうなってはいない。欧州と日本では、携帯専用のOS“Symbian”が圧倒的な地位を確立しているのだ。通信制御のリアルタイム性と、アプリケーションソフト稼動のマルチタスク性という、二律背反を組み込むことに注力したから、Windows系やLinux系より、リアルタイム性のメリットが目立つということだろう。(3)搭載した端末の累計出荷台数は1億6,500万台というから、(4)普及状況からいえば、“BlackBerry”の一桁上を行く巨大なものである。
 日本の状況を見ても、Linuxを進めようとしている端末ベンダー2社の機器シエアは3割程度にすぎない。圧倒的に“Symbian”である。
 (ただ日本の場合は、通信サービス企業が、独自の(閉鎖的な)ユーザーインターフェースと、ミドルウエアを端末メーカーに使わせるから、単純な競争の結果ではないが。)

 そんな状況を見て動いたのがGoogle。2007年11月、オープンなプラットフォーム“Android”の提供方針を発表した。(5)
 OSをLinuxとし、開発環境を整え、Googleのウエブアプリケーションを携帯電話で使えるようにすることが眼目だという。だが、推進母体Open Handset Alliance には、米国の携帯電話サービス企業のSprint NextelとT-Mobileは参加しているものの、大手2社(AT&T、Veraizon)はメンバーではない。機器メーカーNokiaも入っていない。(6)

 Linuxでの動きはバラバラ。同床異夢の雑居状態なのだろうか。
 もともと最初はOpen Source Development Lab.(OSDL)で始まった筈。ここから、Consumer Electronics Forum(CELF)へと発展、Linux Phone Standards(Lips) Forumに。
 2007年になり、Linux Mobile Foundation(LiMo)。そこに、GoogleのOpen Handset Allianceだ。どう繋がるのか、解説無しには、外部からはさっぱりわからぬ。
 LiMoは“Google’s Mobile Initiative”歓迎と言うものの、(7)互いに何を目指しているのか明瞭とは言い難い。
 こまったものである。

 それに、Linuxで進めるといっても、“MacOS X”にしてもLinux系(訂正:MacOS Xはプロプライエタリーなもので、UNIXでした。LinuxはUNIXライクですが、オープンソースです。初歩的なミスで申し訳ございませんでした。)。Palm OSを所有するACCESSはLinuxとの統合を図ってきたし、GoogleはWind River Systems版のようだ。他にも、MontaVista、a la Mobileの“Convergent Linux Platform”、Trolltechの“Qtopia Phone Edition”等、独自の携帯電話用インターフェースと開発ルールが用意されているようだ。従って、パソコンとは大違い。インターフェース統一どころではないのが実情のようだ。
 携帯電話の場合、PDAのようにソフトが市販されるようになっていないから、新デバイス導入に応じたインターフェース改変が勝手に行われいるということだろう。
 “無料の”国産リアルタイムOSで独自性競争を行っていた時代とたいしてかわらない感じがする。

 それでも、今度は、大勢いるLinux系エンジニアを投入できるから、大規模開発もなんとかなるという算段かも知れぬが、奏功する根拠は薄弱だ。

 携帯電話ビジネスの成否を決めるのは、どう見ても、政府の規制と、ビジネスとしてのタイミング。そんなことは、部外者から聴かされなくとも、いやというほど、わかっている筈だ。
 細かな技術やコスト削減でいくら頭を悩ましても、それ以上に重要なことで失敗すれば元も子もない。今、どのような意思決定が迫られているか、じっくり考えて、将来のビジネス像を描き直す必要があるのではないだろうか。

 --- 参照 ---
(1) 「2007年度上期国内携帯電話端末出荷概況」 MM総研 [2007.10.24]  http://www.m2ri.jp/newsreleases/main.php?id=010120071024500
(2) [Press Release] “Research In Motion Reports Second Quarter Results” [2007.10.4]
(3) “Symbian” Phones http://www.symbian.com/phones/
(4) [Press Release] “20.4m Symbian smartphones shipped in Q3 2007” [2007.11.6]
(5) Google Press release: “Group Pledges to Unleash Innovation for Mobile Users Worldwide” [2007.11.5]
  http://www.google.com/intl/en/press/pressrel/20071105_mobile_open.html
  [邦訳] http://www.google.com/press/pressrel/20071106.html
  [背景解説] Andy Rubin: “Where's my Gphone?” [2007.11.5]
  http://googleblog.blogspot.com/2007/11/wheres-my-gphone.html
(6) http://www.openhandsetalliance.com/oha_members.html 
(7) https://www.limofoundation.org/sf/docman/do/downloadDocument/projects.sitecontent/docman.root/doc1567
(携帯電話のイラスト) (C) clipart.jp http://www.clipart.jp/index.html


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