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2008.2.25
 
 


ブルーレイの苦闘が始まる…

 2008年2月19日、東芝が次世代DVD事業からの撤退を正式に発表し、(1)様々な報道がとびかった。製品発売から約2年の決着だ。
 ソフト業界がブルーレイ方式を選択したのだから、当然の結論ではあるが、一通りの反応がでたところだろうから、気になる点を書き留めておくことにした。

 言うまでもないが、方式両立は不毛。ただ、ビデオのVHS v.s. βの競合とは本質的に違う点がある。ここが重要なところ。
 ブルーレイは明確な次世代DVD技術であるが、HD DVDはつなぎ技術を狙ったと言えばよいだろうか。HD DVD技術が優れていたのは、その点。他は大同小異としか言いようがない。
 ソフト業界から見れば、どちらの規格だろうが次世代であり団栗の背比べといった感じではないか。分裂はこまったものだが、そのうち統一されるだろうと考えるのは自然な流れ。
 しかし、そうはいかなくなってしまったのが2007年の動き。
 高精細ディスプレーの普及が米国で急速に進んだこともあるが、HD DVD当事者たる東芝が本気で次世代ディスク不要の動きを開始してしまったからだ。(2)
 ここがポイント。

 どういうことか説明しておこう。

 家庭にブロードバンドインターネットが繋がっている状態を想定して欲しい。インターネット接続によるソフトのダウンロードビジネスを展開したい勢力にとっては、中途半端な容量の次世代ディスクにはそれほどの魅力はない。ハードディスクがあるからで、本当に欲しいのは現行DVDとは桁違いの容量があるディスクなのである。
 しかし、現行DVDの容量では明らかに不足なのも事実。次世代ディスクは欲しいのは確かなのだ。そうなると、容量を大きくできる次世代タイプのブルーレイの方が嬉しい。だが、現行DVDの中味をダビングもしたいから、既存の延長規格の性格を持つHD DVDにより親近感を覚える筈。
 ネット社会にしたい人の実感とはこんなところだろう。

 ただ、ブルーレイはこの勢力からいたく嫌われる要素を抱えていた。
 主導する企業が、「ネットワーク事業」のスローガンを掲げていながら、内実は、ディスクメディア流通ビジネス強化に動いているように映ったからである。そんな旧態流通ビジネスを早く潰したい勢力にとってみれば、まさに反動となる。

 この感覚をつかんでおくことが重要なのである。
 つまり、一般消費者から見れば、家庭用“ビデオ録画”に使う次世代ディスク規格の戦いでしかないが、ビジネス的には、インターネット化勢力と、従来型メディア流通存続派のぶつかりあいが絡まっているのである。

 このことは、規格は一本化されたが、ブルーレイは勝利を喜べる状況にある訳ではないということでもある。
 HD DVDと競争しているだけなら、家電という土俵内での標準化争いでしかないが、対抗馬が消えてしまえば、その意義は失われてしまうからだ。
 ディスク価格を下げるのが遅れれば、最悪の場合、大手映画産業用ディスクメディア流通ビジネスの一環を担うだけの産業になりかねないのである。(家庭での録画にブルーレイは使われなくなるということ。録画用機器は売れないかも知れないのだ。)

 つまり、これからは、「HD Rec」「DVD Download」規格との競争に直面してしまうということ。
 わかりにくいから、日本の状況で言い換えよう。

 日本の消費者が期待しているのは、ハイビジョンテレビ放送録画だ。これを、高価なブルーレイディスクではなく、従来型の安価なDVDディスクに録画できる規格との競争が始まるということ。ブルーレイの現行の浸透度から見れば、勝ち目があるかは微妙なところ。
 映画を見たいから、安価なブルーレイディスクプレイヤーは欲しいが、録画は安価なDVDディスクで十分という話になりかねないのである。家電産業期待の、次世代ディスク大市場創出構想は危ういということ。

 コレ、技術用語で言えば、高圧縮動画規格H.264の標準化にどう対応するかという問題である。もちろんブルーレイディスク録画もH.264に対応できるから、録画時間は延びる訳だが、既存DVDの録画方式と共存できない。そのお陰で、操作は複雑化してしまう。家電製品としては厄介な問題だと思う。使いやすい既存DVDディスク録画機器に比べてどのようなメリットを打ち出していくかは、難しい問題である。

 さらなる脅威もある。
 フルHD品質(1920x1080)ビデオのネット配信の動きが始まった点。既存DVDディスクに、フルHD品質で録画する動きとタイミングが揃ってきたのである。このことは、パソコンにブルーレイを搭載する必要性がなくなりかねないということ。
 その典型が、AdobeのFlash Player 9(Update 3)のH.264対応である。(3)ネット接続によるフルHD画像視聴時代に入ってきたのである。
 もっとも、パソコンの推奨仕様は、Intel Core Duo 1.8GHz以上、ビデオメモリー128MB以上と、古いパソコンではとうてい無理だから、そう簡単ではないのだが。

 次世代ビデオディスクの規格争いとは、実は、ディスクメディア流通維持派 v.s. ネットダウンロード(ストリーミング)移行派の戦いでもある。その結果次第で、ブルーレイディスクの地位も決まってくる。それは既存映画産業の魅力が今後どれだけ続くかにかかっていると言えるのかも知れない。

 --- 参照 ---
(1) 「HD DVD事業の終息について」 東芝 [2008年2月19日] http://www.toshiba.co.jp/about/press/2008_02/pr_j1903.htm
(2) “ふつうのDVD-Rにフルハイビジョン記録” 東芝製品情報 2007年12月
  http://www3.toshiba.co.jp/hdd-dvd/products/vardia/rd-a301/index.html
(3) http://www.adobe.com/products/hdvideo/hdgallery/
(イラスト) (C) clipart.jp http://www.clipart.jp/index.html


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