↑ トップ頁へ

2008.5.12
 
 


オーデイオ技術はどうなるのか…

オーディオ用規格は、CDが頂点という歴史で終わることになりそうだ。
 「音」の質の話である。iPodのようなシリコンオーディオや、ハードディスクへのダウンロードが進む話と間違わないで欲しい。

 「音」については、CD以上の“良質”な規格は普及できそうにないということ。
 これではわかりにくいだろうから、昔を振り返ってまとめておこう。あくまでも素人談義なので、そのつもりで。

 レコード時代を知る人ならすぐに思いだせると思うが、CDの大きさは、レコードの大きさのちょうど半分。レコード店の陳列棚に入り易い形態にしたと言われている。
 その大きさのディスクに、ベートーベンの第九が収まるように、規格を決めたといわれている。カラヤンのアドバイスだといううわさも流れているが、実態はよくわからない。

 ともあれ、サンプリング周波数が44.1KHzと、実に恣意的な数字になってしまったのは事実。デジタルテープ録音の標準は48KHzだったから、そのままCD化できない。厄介な規格である。(お陰で、その後、デジタルオーディオワークステーションは44.1KHzにせざるを得なくなった。)
 オーディオマニアがCDの音はどうも好かないと言っていたのは、データ変換で生じる癖を感じとった可能性もあると睨んでいるのだが。

 それはともかく、オーディオマニアにとっては、発生した音を忠実に再生して欲しいのだと思う。この声に応える次世代がどうなるか考えてみたい。

 と言っても、その答えがまだ無いというと失礼な話。すでに、相当昔からSACD(スーパーオーディオ)が販売されているからだ。しかし、注力しているようだが、普及はさっぱり。著作権保護が厳格なせいもあるが、音の高品質化の流れが生まれていないということではないか。

 SACDの一番よくわかる特徴は、サンプリング帯域20Hz〜20KHzの上下を広げた点。音の質が高まる理屈は、自明だ。しかし、理屈だけかもしれない。
 そう思うのは、高級オーディオ専門店の店員さんに実情をきいたからである。2Hz〜100KHzという帯域を本気で活かす気があるなら、リスニングルームとして、30畳以上の広さと、3.5mの天井高が欲しいというのである。言われてみれば、2Hzの波長は長いから、大きな部屋が必要だ。しかし、そんなことが可能な人は、日本では一握りに過ぎないのは明らか。
 それに、そんな低音まで鳴らせるスピーカーなどないそうだ。もちろん低音が鳴るスピーカー(ウーハー)を別途設置すれば音を発生させることはできる。だが、高級品を除けば、間違いなく時間的に遅れるそうだ。そうならないような工夫が大変なのだとか。これを無視すれば、音のバランスが滅茶苦茶になり聴くにたえないという。心地よく聞けるようにするのは、えらく大変なのである。
 一方、高音になると、人間の能力を超えるらしく、余り聞こえないという。ただ、音圧を感じることができるそうだ。それがたまらないとか。
 要するに、現行CDでバランスよく聞こえるような設計のスピーカーセットに、広域化した音を投入しても、たいした効果は期待できないということ。質の向上を望むなら、部屋の状況に合わせ、個別に対応するしかないらしいのである。
 こんな状態では、普及が難しのは当然だと思われる。

 一方、帯域拡大ではなく、データを細かく採るという方向もある。44.1KHz-16bitの上の、96KHz-24bitや192KHz-24bitを狙うというもの。精度は圧倒的に高まる。それなら、オーディオマニアに人気が高いと思いがちだが、必ずしもそういう訳でもないという。音にする時にデジタルを再度アナログ化するから、そこで上手くできるかが質に影響すると見ている人が多く、デジタル化だけ高度化しても効果は疑問だと考えるらしい。
 つまり、超高級なCDプレーヤーを購入するような層は、アナログ化の部分にご不満があるということ。ノイズが入らないように設定するとか、周波数を安定させる仕掛けが中途半端なものだと、いくら周波数を高くしても、差は僅かになってしまうと見ているらしい。
 これが本当なら、相当高価な装置を使わない限り、たいした効果は期待できないということになる。安価なプレーヤーで高度なデータを再生する位なら、上質なCDプレーヤーの方がお勧めらしい。
 これでは、手をだそうとする人が躊躇して当然だと思う。

 専門店の店員さんとは、どうもとてつもないマニアのようだ。じっくり話をすると、実態が、結構よくわかってくる。

 要するに、SACDを使う気なら、オーデイオセットを、家庭用電気製品ではなく、楽器と考えよということのようだ。一言で言えば、趣味の世界。
 話をしていて、思わず1970年代を思い出してしまった。
 小生はオーディオマニアではないが、当時、知り合いのお勧めに従い、3Wayスピーカーとアンプを購入したからだ。大手電気メーカー製だが、すべて周波数特性測定シート付。ご想像がつくと思うが、この製品どころか、事業自体がその後消滅。周波数特性良好では、趣味的な訴求しかできなかったということだ。

 製品をヒットさせるには、新しい嬉しさを生み出す必要があるということ。今のままなら、SACDも同じような道を歩みかねまい。

 最近のシリコンオーディオの流れを見ると、その感が、ますます深まる。メディア販売からネット配信への転換だけではないからだ。
 コレ、どう見たところで、CDより音の質を低下させる流れである。いかに、気付かれずに音を間引くかという技術が主流化しており、忠実に再現しようとの考えは全く感じられない。
 つまり、どこにいても、簡単な操作で、自分が好きな音楽をすぐに聴けることが優先されているということ。しかも、これを、できる限り安価に実現しようというのだから、音の質が高まる訳がない。

 ハードディスクオーディオでは、この動きがさらに顕著である。
 HDD/CPUという厄介なノイズ源を抱えたままで、パソコン型のオーデイオ機器が登場してきたのには流石に驚いた。
 もともと、パソコンは映像を重視しており、筺体を見てもノイズ発生容認の材質だ。しかも、ファンの音まで聞こえる。はっきり言って、音質重視の世界とは無縁。パソコン型の高額なオーディオ機器が高級オーディオ機器を代替するわけがないと思っていた。しかし、そんな考え方は古いようだ。
 多量のコンテンツを整理したり、すぐに好きな曲を聴く機能を、現行のオーディオセットに収めたい層が増えたということ。この人達にとっては、機能が最重要ということなのだろう。

 これが主流になるなら、オーディオ文化は完全に変わるということだろう。
 それを理解していた経営者もいた。いち早く、アナログ技術系ゼネラルマネージャーを一掃し、デジタル技術の研究部隊を編成したのである。
 鮮やかな方針転換だったが、オーデイオ分野で、デジタル化しネットワークにつないで何を実現するかについては曖昧なまま出発してしまった感じがした。肝心の、音質をどう考えるかが、さっぱりわからなかったからである。

 デジタル化時代到来といっても、アナログ時代でさえ、ノイズがなくなるということで、録音ははやばやとデジタル化されていたのである。それをさらに強力に推進するつもりなら、それこそ、心地よい音楽にするために、適度なホワイトノイズを載せる技術でもでかねないと思っていたが、そんな話はついぞきいたことが無い。デジタル化で音楽の楽しみをどう変えるのか、何のビジョンもなかったということではないか。それで未来を切り開けるものだろうか。大いなる疑問である。

 デジタル化で思い浮かべることができるオーデイオの将来像が、著作権保護された膨大な過去のコンテンツから、好きなものを選んで聴けることができるというだけなら、余りに貧困と言わざるを得まい。創造性が枯渇しているのではないか。
 100年先を見据えて、音楽の楽しみ方の本質を考え、その一歩として何をすべきか考える必要があると思うが。

 今の流れなら、デジタル化したところで、たいしたメリットは生まれまい。極論すれば、ネット配信で、小売ルートのコストをカットするだけ。実につまらん。
 新しいことを始めようという人はいなくなったのだろうか。アナログ時代の技術者だったら、おそらくこんな状態を看過することはなかったろう。技術好きというより、音そのものが好きだったからだ。音に興味が無いデジタル技術者が多すぎるのではないか。
 例えば、アナログ音をデジタル化する部分の加工技術に手を入れれば、音楽好きの心をゆり動かすことができるのはよく知られている。マニアは音を忠実に録音することを要求するが、現実にはそんな問題はマイナーなのである。フルトベングラー指揮の作品が未だに好まれるのは、不思議なことに臨場感を感じさせるから。これをどう捉えるかだ。
 現代の音楽作成の現場を考えれば、これが音楽の楽しみの重要なポイントであることはすぐにわかる。デジタル記録といっても、100以上ものトラックで、上書きされないデータが残っており、とんでもなく膨大な情報が埋もれている。ここから、“優れた”音を上手に取り出す作業の巧拙で作品のできが左右される訳だ。
 データの加工方法で聴く嬉しさが変わることは皆知っているのである。
 デジタル技術を活用すれば、こうした上流の過程に、末端のユーザーが首をつっこむことができる筈ではないか。
 ビジネスモデルの研究に注力するより、そういった発想で頭を使うことが新しいビジネスモデルを産むことに繋がるのではないかと思うのだが。

 --- 参照 ---
(スピーカーの写真) (C) photolibrary 31249 スピーカー http://www.photolibrary.jp/


 技術力検証の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2008 RandDManagement.com