↑ トップ頁へ

2008.8.21
 
 


ガラス溶融炉未稼働と聞いて…

 六ヶ所村に建設中の再処理施設はほとんど完成し、試験が行われているようだが、ダウンストリーム側の、廃棄物処理ガラス溶融炉がさっぱり動かないようだ。(1)
 3ヶ月かけて対処するそうだから、2008年末にならないと工場が稼動できるものかわからないという状況のようだ。(2)

 延期ばかりしているので、余りにお粗末な技術だとの声があがっているようだが、まあ、誰がやったところでこんなものではないか。なにせ、稼動している機器と同じものを使っている訳ではないのだから。
 どうしてそう思うかと言えば、古典的技術をベースして、とんでもなく過酷な条件で使うだけの機器だからである。トラブルが発生すれば、それこそ実験で最適条件を求める以外に打つ手がないのでは。
 この手の機器は、用途毎に、どう設計し運用すべきか、というところが技術の核であり、利用場面に合わせたプロトタイプができたら、後は腕力でスケールアップに持ち込むことになるのが普通だと思う。  どころが、滅多に使われていないし、簡単に実験もできないのが、このガラス固化炉。この状況では、技術レベルを高めるといってもそう簡単ではなかろう。

 一応、どんな問題が発生しているか、報告書(3)を眺めてみたが、この手の機器ならいかにもありそうなトラブルである。

 素人が見れば、こういう風に映る。
 単なる円筒状の密閉型耐熱合金製溶融槽である。上部から液状廃棄物とガラス原料を投入し、下部からガラス溶融物を取り出すだけのもの。取り出し口にはノズルがついている。
 槽には耐熱合金製の加熱電極が設置されていて、通電するとガラスからジュール熱が発生するので溶融する仕組みである。電流量は制御できるから、供給熱量のコントロールは簡単である。
 しかし、粘度が高い溶融物だから、均一加熱は難しい筈である。
  ・加熱電極の設置箇所と容器形状で加熱の均一性は大きく変わると予想される。
  ・溶融物の粘度が変わると、結果は変わってしまうに違いない。
  ・溶融炉内の温度分布モニターはできそうにない。
  ・物性値の確定は難しいから、コンピュータ・シュミレーションは参考になりそうにない。

 常識的には、このような場合は、槽下部の形状設計が重要になろう。炉の下部の温度だけ大きく違ったりしないように対処する必要がありそうだ。
 以上は、ざっと見た一般論。

 ところが、この溶融槽の場合はこれでおさまらない。白金系元素の沈着が発生するというのだ。これは、曲者である。
 つまり、よく溶けないものが混ざった、不均一な系なのだ。言ってみれば、とんでもなく粘度が高いダマが発生しているようなもの。 
普通、こんな場合は、前段処理で切り抜けようと考えるものだが、それはできないのだろう。こんな訳のわからぬ溶融物を扱うのだから、実験室データを集めたところで、実機の操業には全く役に立つまい。機器毎に実験結果は変わると見た方がよいだろう。
 おそらく、色々やってみる以外に手はない。トラブル解決には、技術者の知恵より、職人的勘が要求されるといった感じだろう。

 しかも、厄介なのは、白金系という点。電流は相当流れるに違いない。壁面沈着すれば、電極から電流が流れ込み、その部分だけ過大なジュール熱が発生するから、下部で異常高温化が発生する可能性は高い。この手の溶解槽で一番避けたい、温度の不均一性が発生するのである。高温化を避けるためには、電流を落とすしかないが、これでは溶融物の温度が下がる粘度が高くなりすぎるかも。

 こんなことは素人でも想像がつくのに、ノズル詰まりが発生したのは何故かだ。
 常識的推量では、この白金系元素の沈殿物がすこしづつ一定量が流れ落ちるとふんでいたのに、そうならなかったということになる。
 一度にどっと出てくれば、粘度が高いからすぐに詰まるだろうし、出ないで底に溜まり続ければ底が高温にさらされる。どの辺りが最適なのか、計算で想定できるようなものではない。

 それならどうする。
 そんなことは専門家にまかせ、素人話はここまでにしよう。

 おわかりのように、技術力うんぬん話にたいして意味はなさそうだが、この技術に傾注する必要があるかは、大いなる疑問を感じる。この分野も含めた一括技術導入にしなかった理由がわからないからである。後発があえて自力で挑戦して意味がある分野だろうか。一ヶ月遅れるだけで、膨大な損害を被ることがわかっていながらである。
 民間企業なら、即決“Buy”ではないかと思うが。後発が敢えて“Make”を決断する場合は、それに見合った相当なメリットがあるということ。社内に独自技術があろうとも、そのような決断をするのが経営というものだ。魑魅魍魎の世界で、そんな体制など望むべきもないということでなければよいのだが。

 おっと、こんなことを話すと、間違った見方を誘発するかも知れないから一言加えておこう。
 確実稼動が必要な、巨額な一品ものの場合は、こうした民間企業のマネジメントを真似してはいけない点がある。技術の体系が違うからだ。
 例えば、接着剤ひとつの選定にしても違う。民間企業の製品開発プロジェクトならコストダウンのための安価品への代替や、新しい高性能品に切り替える動きをを鼓舞するに違いない。直接的なメリットもさることながら、リスクを下げる方向に進むことが多いからである。まともに技術マネジメントを行っているならコストダウンは安全性を高めるのだ。つまり、安全のためには何を担保すべきか、知識が深まっていく流れに乗るからだ。
 一方、巨額な一品モノはこの論理が全く通用しない。マイナーチェンジは一見よさそうだが、それは浅知恵導入かも知れないのである。狭い視野で見れば、メリットがありそうだが、それが全体に果たす意味はわからない。高機能接着剤を使う気なら、別な問題を発生させないか考えるため、相当な労力を要すということ。普通はそこまでするとメリットはなくなる。
 つまり、マイナーチェンジを極力避けるのが自然な態度である。

 --- 参照 ---
(1) 「日本原燃、ガラス固化体の製造停止 機器に不具合」 産経ニュース [2008.7.3]
  http://sankei.jp.msn.com/life/environment/080703/env0807031900008-n1.htm
(2) 日本原燃: 「2008年7月30日 定例社長記者懇談会挨拶概要」
  http://www.jnfl.co.jp/jnfl/president-talk200807.html
(3) 日本原燃: 「再処理施設高レベル廃液ガラス固化建屋 ガラス溶融炉におけるガラスの流下停止について(経過報告)」 [2008.7.11]
  http://www.jnfl.co.jp/press/pressj2008/080711sanko.pdf
(六ヶ所再処理工場の写真) [Wikipedia] http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Rokkasho_2.JPG


 技術力検証の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2008 RandDManagement.com