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2009.1.19
 
 


造船業のマネジメントの難しさ…

 2008年、BALTIC DRY INDEX[外航不定期船乾貨物運賃指数]が急落した。貿易活動の急激な縮小を象徴する数字だ。船のタイプによっては原価割れが発生していると見てよいのでは。実質運賃ゼロという、とんでもない事態に陥っている可能性さえある。

 経済活動では“行き過ぎ”現象はよくあることで、普通は、冷静さを取り戻すにつれ、急速に合理的なレベルに復帰していくものだ。ところが、今回は、そのダイナミズムが感じられない。おそらく、中国の実態経済の悪さが響いていると思われるが、数字は沈んだままで上昇の兆しは見えない。
  

 それでも、将来的な輸送船過剰時代を見据え、長期固定契約に力をいれてきた海運業者もあり、産業が崩れるほどにはならないだろうが、スポット中心の海運業者は生存の瀬戸際に立たされているのは間違いあるまい。

 ただ、この海運業の問題は、すぐに造船業に飛び火することになる。
 ここまで市況が悪いと、建造発注に踏み切れる企業は滅多にないからである。船主にファイナンスをつけるファンドは稀だろう。老朽化船の計画的更新にしても、できる限り先送りが図られるだろう。
 実際、2008年10月、韓国企業、現代と大宇の受注量はゼロだったという。(1)バラ積み船建造が多い中国に至っては、惨憺たる状況であるに違いなかろう。
 受注ゼロで済んでいるとは思えないからだ。中途金を払えない船主も出ておかしくないし、違約金を腹っても発注キャンセルに動く可能性もありそうだ。破綻続出のリスクは小さくないということ。

 それでも、余り騒がれていないのは、大手造船企業には受注残があり、2〜3年分の仕事量を抱えているからだろう。
 なにせ、2007年の受注量の数字は驚くべきものだった。船腹需給が逼迫するというとで、船主が生産キャパシティの3倍の発注を浴びせかけたたのである。

〜 造船受注量[世界:総トン数] 〜(2)
受注量 韓中日
シェア
竣工量 韓中日
シェア
2005年 6,000万 81% 4697万 87%
2006年 9,960万 88% 5212万 86%
2007年 1億6,483万 89% 5732万 85%
2008年
前半
5,607万 92% 3378万 86%
 厄介なことに、この産業は、韓・日・中で成り立っている。言うまでもなく、中・韓は日本へのキャッチアップ路線を歩んでおり、その体質は生産規模拡大。需要増に合わせ、ドッグ増強に動いたのは間違いない。
 そこに、この需要急落。とてつもない打撃である。大規模投資を敢行してきた企業は、資金繰りに窮するからだ。それこそ、産業全体が壊滅的な状況に陥るリスクを抱えているということ。
 おそらく、一国の政策でなんとかなる問題ではなかろう。

 こうした状況を、日本がどう乗り切っていくか、知恵が求められているということでもある。

 商船の建造技術は成熟し切っており、汎用技術と熟練工さえ揃えば事業が成り立つ。そして、コストを左右するのは労賃と鉄の価格。従って、中・韓が全力をあげて力を入れ易い分野である。その次は、ベトナムが控えているという構図である。
 このような産業で、一人当たりGDPが高い国が、シェアを維持し続けるのには、イノベーションを創出しない限り、常識的には大きな無理がある。
 日本に駆逐された先進国の造船業だが、残っているのは、大型エンジンや、特殊船だけだ。もちろん、高収益なセグメントであり、競争力も高い。
 しかし、日本企業はその道を選ぶつもりはなさそうである。
 だが、海外からの出稼ぎ労働力利用と、素材の使い方と調達の仕組みで競争力をつけ、企業を集約したところで、その効果はそれほど大きなものにはなるまい。
 ドッグの老朽化が進んでいるからだ。しかも、コアとなる従業員は高齢化しており、熟練工退職が続く。生産現場の力も次第に細るのは間違いなかろう。

 中・韓の現実を見据えて、上手くその力を利用しながら、生きていくためには、どんな技術をどのような組織体制で強めるべきか考えるべきなのではないか。
 マネジメント力で今後の造船業の浮沈が決まることになるように思えてくる。

 --- 参照 ---
(1) [有料]「韓国造船業界、10月の受注ゼロ」朝鮮日報 [2008.11.9]
(2) 日本造船工業会「造船関係資料」 [2008年10月]
   http://www.sajn.or.jp/pdf/Shipbuilding_Statistics_Oct2008.pdf


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