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■■■ ジャータカを知る [2019.3.18] ■■■
[9] 鹿
ジャータカの動物譚は鹿から始まる。[#11〜16]

野生動物としては捕獲し易かったことと、姿が美しいので、最初にもってきたのではなかろうか。

ただ、鹿にかこつけた宗派内の主導権争いの話になっており、当時はそれが重大事だったのだろう。[#11, 12]
内容的には、群れを護るとか、妊娠者の身代わりになるというだけの筋だが、それをしない鹿も存在することを言いたい訳だ。
つまり、菩薩 v.s. デーヴァダッタDevadatta/提婆達多として語られるのである。釈尊を恨み、釈尊だけに敵対する弟子は地獄行という手の"説話"に仕立てたのだ。

無碍な殺生を禁じるという大原則についても、鹿譚では、そうは思えない記述になっている。そんなことを言っていられないような重大な闘いがあったようだ。[#483]
鹿を弓で射殺するか試す話なのだが、驚くことに、「大王、あれは鹿でなく阿修羅。」と帝釈天が言うのである。鹿の殺生は駄目だが、阿修羅は殺してよいということになる。

インドで棲息している鹿の主なところは以下の3種。
  ●アクシス[Axis]鹿Chital or Spotted dear/花鹿
  ●バラシンガ鹿Brasingha or Swamp deer/印度沼鹿
  ●サンバーSamber/水鹿
  △キバノロ(くじか/)Roe deer/西方@ユーラシア北方

  ●麝香鹿Musk deer@南アジア山岳森林帯…鹿類とは異なる。

弱い動物なので、神々の眷属になりにくいが、風天Vāyuの乗り物になっていることがある。疾風の如く草原も林も駆け抜けるという観点では比類なき動物だからだろう。

そうそう、罠にかかった小鹿が、死んだふりをして猟師を騙して逃げる話も収録されている。[#16]
喰われるだけの動物とも言えるが、知力を駆使して自力で生き延びて来たことを示している訳だ。

これと似た骨子の話がインド外の民話にもあることがよく知られている。
主役は、インドネシア〜マレー半島棲息のカンチル(ジャワ豆鹿Mouse-deer or Chevrotain)Kancil/鹿。角も無く極めて捕獲し易い動物だ。そんなこともあってか、智慧で様々な肉食動物の脅威から逃れた民話が有名。インド伝来の翻案版とされている訳だが、ジャータカでわざわざ"小"鹿にしているところを見ると、逆の可能性もあるのでは。

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