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■■■ ジャータカを知る [2019.3.27] ■■■
[17] 水牛
🐃小生には、水に浸かるのが大好きな牛が水牛とのイメージしかないが、インドでは両者は全く違う動物と感じるようである。
 〇アジア水牛(Asian) Water buffalo

水牛を聖なる牛の反対側に位置付けたくなる気分があるらしい。

シヴァ妃ドゥルガーDurgaは獅子に乗ってマヒシャスラマルディニーMahishamardhini女神となり、黒水牛Mahisha姿をしている悪魔 "Mahishasura"を殺すからだ。
そして、ベーダ教典には記載されていないようだが、ヤマYama/閻魔天は水牛"Paundraka"に騎乗する。悪魔的イメージが被せられたた姿である。

このため、六面六臂六足像が多い憤怒相の大威徳明王Yamāntaka[降閻魔尊]は水牛に騎乗することになる。悪魔から解放して手懐けたことを意味するのだろう。
水牛に乗るVihot Mata図絵もネットリソーシスではよく見かけるが、浅学の身にはどのような神かは残念ながらわからない。多分、グジャラート辺りの湿地帯の古くからの地母神。もともとは水牛信仰の地だったのだろうが、おそらく水牛悪魔を降ろしたという話になっているだろう。シヴァ妃の化身とされていそう。

水牛は皮膚が湿っていないと生きていけないので、その習性を好まない人々が多いため、悪魔役にされたのであろうか。
家畜としては、どこでも飼える訳ではないものの、牛より水牛の方が、明らかに大人しくてヒト親和性が高い。労役上でも体重1t以上は珍しくもないから、その価値は格段に上。ミルクの質も良いから本来的には嫌われる筈がない。しかしながら、タール砂漠方面でもある、グジャラート周辺湿地帯はガンンジス川流域とは文化が違うのでどうしてもこうなるのだろう。
それも止むを得ないか。
ここらの水牛地帯は、インド圏外(ペルシアやアフリカも含む。)との交易が盛んだった筈で、それこそアフリカ系黒人さえもが古くから居住していた可能性があるからだ。そうなると、水牛肉食は珍しくなかったかも。
牛肉食を絶対的な禁忌としており、ベジタリアンだらけの地に住む人々にとっては、そうした食文化との共存は厄介な問題だったろう。

それを上手く解決していく一つの方策が神像図絵における動物の位置付けと考えることもできよう。

水牛騎乗姿は、降伏させたことを意味しているとも、神聖な待者としている、のどちらにでも都合よく解釈可能だからだ。
例えば、Vārāhi[=ヴィシュヌVishnu化身Varāhaの妃]は"白"水牛に騎乗している訳で。

ジャータカ水牛譚[#278]はその辺りをさりげなく表現しており秀逸。

樹上棲息の猿が、木陰で休息中の湿地動物の水牛の背中に乗り、できる限りの嫌がらせを。しかし、水牛はほったらかし。樹木神はその態度を見て、理由を尋ねると、悪行を戒めなくとも、そのうち報いが来ると答えたのだ。
そのうち、別の水牛になったのだが、猿は同じように振舞う。今度は、猿はあっけなく殺されてしまう。
ココには大いに気になる内容が含まれており、取り上げられることが少なくない"説話"でもある。(例:幸田露伴:「宝の蔵」第八話"水牛と猿と樹神との話[仏説水牛経]"明治25年:NDLデジタル公開)

ジャータカには牛の話は数々あれど、水牛の方は単に殺されて喰われるだけの登場に留まっている。水牛譚だけが例外。
但し、付和雷同的突進動物としての一群には加えられているが。[#322]

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