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■■■ ジャータカを知る [2019.4.11] ■■■
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🐢インドでは、亀は宇宙を支える役割を果たしているとされている。

海亀とされているようだが、扁平な体躯で水掻き付きの手足はどう考えてもこの役割にそぐわない。
絵画では甲羅がドーム状に大きく盛り上がっており、短く太い手足だ。この姿は陸亀だと思うが。

陸亀が気になるのは、ほかでもない、インドで全長2.5m重さ4tの化石が発見されたから。(コロッソケリス・アトラスColossochelys atolas)
もしかすると、古代の亀イメージは、その辺りに由来するのでは、と。
しかしながら、乳海に入ったりすれば溺れてしまうので、陸亀とみなす訳にはいかないが。
  ヴィシュヌ第二化身"亀"クールマKūrma/利摩
  …乳海攪拌棒に用いられた曼陀羅山を海底で支えた。
   (大蛇ヴァースキVasuki/和修吉が棒回転用の索縄となった。)

インドの信仰は多神教と言うより、様々な眷属を持つ一神教の世界である。ただ、幾つかの主要神が併存可能。変身という形をとって互いに取り込むことができる。例えば、釈迦もヴィシュヌの化身となってしまう。しかも、輪廻観念がベースにあるので、神の創出や互いの習合の時間軸を気にする人はいないので、部外者には神々が錯綜して映るがそれはたいした問題ではない。

この亀にしても、「ラーマーヤナ」では確かに化身だが、「マハーバーラタ」に登場するのは、長寿で知られる亀王アクーパーラAkupāla。もちろん、ヴィシュヌとは無縁。こちらを原義と見るのが自然だ。(プラジャーパティと記載する書もある。その場合は、亀そのものが創造神だったりする。)

亀は水とも関係するらしく、河神を支えたりすることもあるようだ。ガンジス川と共に信仰対象になるヤムナーYamuna川の女神は亀に乗ったりするらしい。河神は蛇族的に扱われるものだが。
 ヤミーYami…太陽神スーリヤとサンジュナーの娘 死者の国の王ヤマの妹

水の神と言えば、ヴァルナVaruna/伐楼拿だが、こちらも亀の背に乗っている姿が散見される。(魚獣が多そう。)正真正銘の自然神で、化身とか神が創造するカテゴリーの神々には属さないから最古の部類だろう。ただ、水の概念がどこまで入るのかがはっきりしていない。

亀蛇信仰と言えば、水という以前に、中国四神の霊獣"玄武"を考えてしまうが、インドでは亀蛇宇宙図ということになる。後付け臭いが総括的によくまとまった観念といえよう。
(尚、日本で江戸期に広がった信仰対象の妙見菩薩は、道教的な北の星宿の神格化でインドとは無縁なようで、"玄武"的観念が載った信仰と思われる。)

・・・と云った背景を知った上で、ジャータカを眺めると理解し易かろう。

亀Kacchapa前生譚は3つ。どれもこれも碌なモノではない。
○今居る場所の水が涸れることが判明。亀も魚も皆他の土地へと移動。例外は一匹の亀。生まれ育った湖への執着から。頑張ったが、陶工の粘土掘りに遭遇し死んでしまう。[#178]
○亀が鵞鳥と仲良くなり、素晴らしい家に来ないかと誘われる。棒を噛んでいれば運んであげると。乗ったまではよかったが、おしゃべりだったので落ちて死亡。この事件のお蔭で、おしゃべり王を諌めることに成功。[#215]
○悪行三昧の猿が亀の口にペニスを挿入し噛まれ、助けてもらう無様な話。
笑い話に仕上げた訳ではなさそうだ。男色ご注意かね。[#273]

見かけによらず、"まとも"という話も一応採ってはいるものの。
○怠惰な王の姿勢を変えるため、庭での散歩の際、そこにいる亀の話を持ちだす。1日1〜2インチしか歩かない怠け者達だと。しかし、火事になれば対処できるのである。[#345]
○亀、鶚、獅子が鷹の雛の命を守った。湖地区に棲んでいたため、友情の絆が培われたのである。亀は全力を使い果たし、紐を食い契るが、捕まってしまうが皆の力でなんとかなる。[#486]
ちなみに、獅子は獣の王、鶚は鳥の王。

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