→INDEX ■■■ ジャータカを知る [2019.5.23] ■■■ [74] 獅子 猫族では唯一鬣がある大型種。 ●印度ライオンAsiatic lion/亞洲獅 その別名が獅子Singha。 しかし、おそらく、両者は同一ということではなかろう。 バリ島はヒンドゥー教主導の地だが、そこではバロンBarong[森の良気精霊Banas Pati Raja]と呼ばれる"獅子"姿の聖獣が信仰対象となっている。 森にライオンが住む筈もなく、ダンス好きとされるところから見ると、その本質は"豹"だろう。しかし、至高の精霊はあくまでも獅子でなければならないのだ。 現実の劇での装いを見ると、そこには虎、狼、鹿の雰囲気も濃厚であり、土地/\に合わせた獣王的イメージに仕上げられていると考えるのが自然だ。 ただ、獅子のシシたる所以はその吠え声だと思われる。「古事記」の援用であるが。・・・ "やすみしし 我が大君の 遊ばしし 志斯(シシ)の 病斯志(シシ)の 吼き恐み" ライオン・虎・豹がいない日本では、その辺りの感覚は面白いものがあり、シシとは食用四肢獣肉を指すことになっている。 (鹿["か"のしし]、猪["ゐ"のしし]、羚羊["かま"しし]…獅子の力を頂戴する気なら、なにがなんでも獣肉を喰らうべしという中国的発想(殺生などなんのそのの風土)が根底にありそう。) 獅子はジャータカ譚の至るところに登場してくる。 草原棲息動物を狩る肉食動物であるから、定着農耕民の生活圏とは部分的にしか重なることはないが、極めてポピュラーな存在だったようだ。 頂点に立つ大型肉食獣としては、森棲息の虎もあり、こちらの方が接触機会は多かったと思われるが、ジャータカ登場頻度は格段に落ちる。 すべての話を俯瞰すると、獅子は智慧もあり、野生動物を取り仕切る大元締め的なイメージが作られていそうだが、虎は筋肉脳的で間の抜けたところがあると見なされていたようだ。 ただ、"怪魚マカラ"創出の如く、チベット仏教では獅子と虎を合体させた虎的獅子"ドゥンGdon(梵:Graha)[疾病魔物]"が生まれている。バリ・ヒンドゥー教の豹的獅子とおなじようなものだろう。 考えてみれば、そうなるのも致し方ないか。 獅子への尊崇的姿勢はインド発祥ではなく、虎が棲息していない地で生まれた"王権"観念とリンクしていそうだから。 王権とは"野生"力の獲得を意味していそう。換言すれば、王以外のすべての人々や動物が秩序化("家畜"化)されていくということ。その観念はメソポタミアで創られたようである。(ウルクの暴君ギルガメッシュによる野生圏との交流物語) その儀式が"帝王獅子狩"。野生獣の頂点に位置するライオンを、王が殺戮することで、その力すべてを頂戴することになる。 仏教守護者だったインド マウリア王朝第3代アショーカ王/阿育王(在位:B.C.268-B.C.232)が獅子柱頭Lion Capital of Ashoka(インドライオン4頭が背中合わせに並ぶ)を建設したのも、仏教の象徴としてはいるものの、王権の象徴だからだろう。 騎獅の尊像としては、文殊菩薩が知られる。意味はよくわからぬが、象と対比的に登場しているような印象がある。尚、阿摩堤観音@三十三観音も白獅子騎上だが(持物:摩羯魚 吉祥果)、どうして獣座にする必要があるのかよくわかない。 尊像では、象冠ならぬ、獅子冠もあり、愛染明王と乾闥婆[奏楽役]はそんな姿だ。阿修羅も獅子冠だったりする。 もちろん、シヴァやヴィシュヌ関連でも登場することになる。ドゥルガー[シヴァ第一妻パールヴァティーParvatiの化身]の乗り物としてのドゥンDawonとして。そして、ヴィシュヌはもっと直接的なハイブリッドの姿、第4化身ナラシンハNarasimha[人獅子]/那羅希摩で。ライオンが戦いに加勢する訳だ。 これらを踏まえると、一見、当たり前のモチーフに映る以下のジャータカ譚は注目に値する。・・・ [#475]攀達納樹 黒獅子は突然落ちて来た木の枝に仰天し逃げ去る。考えてみれば、そこに住んでいる樹木の精霊が故意に落としたと見て、プライドを傷つけられたのか、恨み骨髄。しかし、いかに獅子とはいえども、樹木には歯が立たない。そこで、車作り職人に素晴らしい材が採れる樹木があるゾと教えて、伐採を持ち掛ける。それに対し、樹木の精霊は、職人に対して、その車をさらに素晴らしくするには黒獅子の毛皮が欠かせまいとアドバイス。黒獅子お陀仏。 インドの輪廻感に樹木は入っていない。植物の殺生は禁忌ではないからこそベジタリアン宗教が広まる訳だが、原始仏教は植物についてもその命を考えよという姿勢を貫いていたようである。この辺りは別途書いておくことにしよう。 ともあれ、繰り返すが、獅子が登場する話は数が多い。 →ジャータカ一覧(登場動物) (C) 2019 RandDManagement.com →HOME |