→INDEX ■■■ ジャータカを知る [2019.6.5] ■■■ [87] 成道樹 🙏ジャータカでは、推移を見守り、因果関係を見抜く役割を果たす樹木に住みついている精霊が数多く登場する。当然ながら、そのシーンには前生の釈尊が姿を変えて登場している訳であり、精霊は単なる傍観者であることがほとんどだが、その智慧と洞察力は釈尊に引けをとらない。もちろん、場合によっては、釈尊が精霊だったりもする訳であり、このことは、こうした精霊は過去仏の前生であることを示唆しているとも言えよう。 つまり、樹木に棲む精霊とは"佛"であり、樹木崇拝とは仏を敬う行為にほかならないということになろう。 この辺りの感覚は、日本列島の住人にはわかりにくかろう。・・・インドの古代生活者の森依存は日本の比ではないからだ。簡単に言えば、日本なら若菜摘みになるが、インドなら樹木の若芽や若葉採りになるということ。強い日差しや長く続く冷雨を遮ってくれる茂った樹木なしにはとてもではないが生きていけない環境だし。 ジャータカで単なる"樹木"とされていても、それはおそらく過去佛の"成道樹"である。コンセプトが多少わかりにくいか。・・・ ○ある時点のある場所の特定の樹木の下で、一人の過去佛が悟りをひらいた。同じ樹木種なら、当時の"成道樹"と同一でもあり非同一。1つの種から育った果実とは、同一でもあり非同一でもあるという考え方。 ○成道樹=菩提樹である。本来、菩提樹は樹種を意味しない。 と言うことで、過去佛(「仏種姓経」)の菩提樹の推定樹種を見ておこう。(色々な説が見つかるが出典が分からないものが多いので、適当に選定した。) 繰り返すが、ジャータカに登場する傍観者樹木はこれらのうちのどれか。釈尊が語った時、聴衆はその樹種を想い浮かべていたに違いなく、その樹木に住む精霊のイメージも持っていた筈である。そのイメージに合わせ、後世に、過去佛を当て嵌めていったと見るのが自然である。 [28]除渇渇愛佛Taṇhaṅkara…Rukkaththana =ジタの木 [27]用智能佛Medhaṅkara…Kaela =花没薬樹 [26]帰依佛Saraṇaṅkara…Pulila =栴檀木大角豆[センダンキササゲ](ノウゼンカズラ類/羽葉楸系紫葳) [25]燃灯佛Dīpankara…Pipphala=(印度菩提樹) =Ficus lacor/大葉榕 [24]智調佛Koṇḍañña…Salakalyana =砲丸の木Cannonball tree/炮弾樹 [23]吉祥佛Maṅgala…(naga) =照葉木Beautyleaf/紅厚殼 [22]善意佛Sumana…(naga)=照葉木 [21]離婆多佛Revata…(naga)=照葉木 [20]光耀佛Sobhita…(naga)=照葉木 [19]超見佛Anomadassi…ajjuna =魚木Sacred garlic pear or Temple plant/白花菜目的魚木 [18]蓮花佛Paduma…salala =羽衣の木 [17]那羅陀佛Nārada…sonaka =(ランネア系)Indian ash tree/厚皮樹 [16]勝蓮華佛Padumuttara…salala=羽衣の木 [15]善慧佛Sumedha…nipa =ニーム(印度栴檀) [14]善生佛Sujāta…velu =アスパー竹Giant bamboo/馬来甜竜竹 [13]喜見佛Piyadassi…kakudha =Arjun tree or white marudah/阿江欖仁樹 [12]義見佛Atthadassi…champa =金香朴Champak/黄玉蘭 [11]法見佛Dhammadassī…bimbajala =ベンガル柿樹 [10]成就義佛Siddharttha…kanihani =印度夜香木Night blooming jasmin/夜花 (畢力迦) [_9]提舍佛Tissa…assana =シッソの木North Indian rosewood/印度黄檀 [_8]弗沙佛Phussa…amalaka =油柑 [_7]毘婆尸仏Vipassī…波波羅(波 =Yellow snake tree or Trumpet flower tree [_6]尸棄仏Sikhī…芬陀利樹pundariko =クイニーマンゴー [_5]毘舎浮仏Vessabhūー婆羅樹sala =沙羅樹 [_4]倶留孫仏Kakusandha…(尸)利沙樹airisa =ビルマ合歓木 [_3]倶那含牟尼仏Koṇāgamana…烏暫(優曇)婆羅樹udumbara =房成無花果 [_2]迦葉仏Kassapa…尼拘律(陀)樹nigroda =ベンガル菩提樹 [_1]釈迦牟尼仏Gautama…畢缽羅樹asatu =印度菩提樹 [+2]弥勒菩薩…Naga =龍華樹(照葉木) (注) インドは多言語社会でありパーリ語記載であっても、純パーリ語ではなく他言語の音真似の可能性もある。その辺りは辞書では対応できない。 そもそも、パーリ語自体、語彙は多義。使われている状況で意味は大きく変る。植物名とはっきりしていても、同一名称でいくつかの異なる種を指すことも少なくない。もちろん、一つの植物種に複数の名称がついているのは当たり前だ。その上、時代によって名称は変遷する。この状態で、推定植物種に拘るのはたいした意味はないと思う。 尚、漢訳名は和名よりイメージが浮かび易いので記載してあるに過ぎない。つまり、たいていは新しい語彙ということ。初期の漢訳名は全て"廃棄処分"にし、新旧対応も不可能にした筈だから、トレースは面白いがほぼ無駄な努力だと思う。 →ジャータカ一覧(登場動物) (C) 2019 RandDManagement.com →HOME |