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■■■ ジャータカを知る [2019.6.11] ■■■
[93] 友情護呪
パリー語の"Mitta-anisamsa(=friendship merit)"護呪parittaの元として知られるのがジャータカ[#538]MŪGA-PAKKHA躄譚。
わかりにくい題名だが、足・耳・口が不自由で皮膚感覚も鈍いふりをしたカーシーKāsī王国の王子の綽名なのだろう。正式にはTemiyakumāraと命名されたので、TAMIYA譚とされていることもある。
紀元前600年頃は主要十六大国中巨大な経済力と軍事力を誇る国で、首都はガンジス川中流のヴァーラーナシーVaranasi

話の筋は友情とは無縁であり、友情譚とみなせそうな、樹木と鸚鵡の話などの方が適切だと思うが、重要なのは含まれている呪語扱いされる詩なのだろう。
(尚、南伝のパーリ語であるというだけでなく、話の最後に釈尊がそれぞれ誰の前生かを説明して終了ではなく、セイロン島に渡っての話が付随しているから、上座部に対立的な大乗系教団ではこの詩を重視したくはないかも。)

ところで、ジャータカとはあくまでも釈尊の前生話。当然、ヒトとして登場すると思っていると、すでに取り上げてきたように、"かつて私は「畜生」や「樹木の精霊」だった。"と語るのだ。考えてみれば、驚くべきこと。
これは、動物に仏性があるか否かなどという問題ではないからだ。今の世で善行を積まないと、死後は畜生に生まれるゾというのが布教の核心なのだから、釈尊は一体どのような悪行をなして、畜生に転生させられたのかという疑問がわいてくる訳である。

それでも、転生先が善行に勤しむ動物ならわからないでもない。布施で頂戴する食べ物が殺戮した動物のこともあるが、お布施行為を拒絶しないのだから致し方ない。

しかし、転生先が地獄となると、そういうことではなくなる。
それがこの譚。

従って、内容的には経典の外郭が出来上がっていると言ってよいのではあるまいか。

先ずは、菩薩の転生歴から。以下の通り。・・・
 ■ベナレスBenaresで国王を20年間勤めて死亡。
 ■ウッサダ
Ussada地獄で誕生。寿命は8万年。
 ■三十三天に転生。寿命で入滅。
 ■「もっと上位の世界に行きたい」と考えていた。
   そこに帝釈天が来て、妃の徳行に応えるため、
   王子になってくれぬかと。


そこで、誕生とあいなる。1ヵ月後、父王の膝に乗っていた時、盗賊4名が引き立てられてきて、王は、鞭打ち、鎖で繋いだ牢獄行、槍突き刑、串刺し刑を言い渡したのである。王子は、その凄まじさから恐怖心を覚えた。こんな家にいれば、再び、地獄での8万年必至ということで。
それを見た天蓋の女神が、足・耳・口が不自由な上に馬鹿だと思わせなさいと教える。王子はそれに従って生き抜くことにする。もちろん語り合い詩篇。
そんなこととは知らぬ両親は毎年様々な取り組みをするがいずれもなんの効果もなし。・・・
 〇授乳断ち
 〇菓子釣り 果物釣り 玩具釣り 食べ物釣り
 〇火炎脅し 象脅し 蛇脅し
 〇舞踏喜劇歓心惹き
 〇刀剣脅し 法螺貝脅し 太鼓音脅し
 〇暗闇灯火大変化
 〇全身蜜塗り蠅集め
 〇水浴含嗽無し 糞尿まみれ
(Gūtha地獄的様相)
 〇加熱火傷
(Avīci地獄的様相)
ついに16歳。手を変え続く。
 〇美女による歌舞と魅惑的囁き
そこで、息を止め、身体を硬直させた。そのため、夜叉のようと見なされて、一大転機が訪れ、王宮外に運ばれて殺されることに。

ここで本格的な詩篇に入ることになる。
登場するのは、演技を止めた王子、王子を神々の王の姿に荘厳するため帝釈天が派遣したVissakamma(≒神々のための造物主)、王子殺害を命じられた御者Sunanda。

Great Beingと化した王子は、自分を森に埋めようとする御者を説得すべく、詩を詠い続けることになる。
 一本の木(王)の陰に座って憩う人(御者)が、
 その木の枝
(王子)を折るのは友を裏切る悪行、と。
そして、神々の喝采と自が唱える声が森に響きわたるように王子が友達を敬う10の偈頌gāthā/伽陀を唱えた。
ついに感極まり、恍惚感に浸りながら勝利の賛歌を口ずさむのであった。
 急がなくとも、心から熱望すれば成就するもの。
  御者よ、知りなさい。
 今日、ついに、私は清浄の域に達したのだ。
 急がなくとも、究極の高みに昇れるもの。
 (今や)隅々まで清浄さで飾られた私は、完璧であり、恐れは何もない。


帝釈天はVissakammaをして、出家環境を整えさせる。奥深き森の中に、夜用居室群付きの道場草庵を作り、昼間のために水溜、窪地、果樹を整備。
Great Beingはそれらに気付き草庵に入って姿を整えた。赤色樹皮の衣を着け、黒色羚羊の皮を肩に纏い、縺れた髪を結い直し、肩で担ぎ棒を、さらに歩行杖を握り、草庵から出てそぞろ歩き。その様子はまさに禁欲修行者そのもので、意気揚々と叫びながら草庵に戻った。
 オー、至福なり。オー、至福なり。
庵に入って、襤褸の敷き物上に坐し、五種の超常能力を発揮するに至る。夕方になると出て来て、すぐ近くに生えているカーラkāra/魚骨木樹の葉を集め、帝釈天から贈られた容器に入れ、塩・バターミルク・香辛料無しの水煮を作り、まるで神饌のようにそれを飲み、四つの完璧な境地に想いを巡らした。・・・と言うことで、そこに住むことにしたのである。

一方、王宮ではことの次第を知り総出で、森に向かう。
そして、結局のところ、皆、出家していくことになる。

そうした人々は、亡くなると梵天Brahmaの世界に行き、象や馬等の動物も聖者により心を洗われたので六欲天に転生。

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