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■■■ ジャータカを知る [2019.6.22] ■■■
[104] 賢者マホーサダ
💡[#546]THE MAHĀ-UMMAGGA/大隧道譚を読み始めると、トンネル話とはおよそ無縁な頓智小話が延々続く。
ようやくにして、逃亡用の長いトンネルのこととわかるのだが、前段はその枕ということではなく、徐々にレベルが上がっていく構成。トンネル話はハイライトに当たるようだ。

そういう意味でとらえると、この譚はいわば代表例総集編なとなろうが、知恵の発揮の意味を問うている面もありそう。
と言うのは、機転を利かして難を逃れる話はジャータカのなかに数々含まれているからだ。なかには意図的に騙す場合もあり、その表面的行状だけからすれば、知恵者の嘘つき悪行との差異はつきにくかろう。ただ、この話では知恵の発揮には知識が必要なことがくどいくらいに述べられており、そのタイプも様々であることが示されてろい、民俗的伝承頓智話集成とは少々違う点にも注意を払っておくべきだろう。
それに、ジャータカでは浅知恵話失敗も収載されている訳で、課題があれば、先ずは全体を俯瞰し、状況をしっかり認識してから機転をきかすのがマホーサダ流であることも特徴的と言えよう。現代的表現ならば、鋭い洞察力とでもいうべきか。
しかも、解決した後に生まれる副作用についても予め考えており、予め想定しておいたシナリオに沿って的確に対処するのである。

従って、名称としては、賢者マホーサダMahosadha/大藥が妥当だろう。意味的には「智慧の完成Supreme Perfection of Wisdom」と考えるらしい。末尾の手前譚でもあることだ、長いトンネルを抜けてついに輝く地に出るという印象を当てようということかも知れない。

話の端緒は、ミティラMithilāのヴィデハVedeha王のファンタジックな夢。お抱えの4人賢者(Senaka, Pukkusa, Kāvinda, Devinda)の見解は、5人目の賢者がすぐに現れる兆候とのこと。
丁度その時、ミティラの豪商の妻Sumanāが妊娠。もちろんそれが菩薩。
その子の名はマホーサダMahosadha。生まれながらの知恵者であり、以後、様々なケースで賢さを下すことになる。

1:(屠殺場から鷹に盗られた)肉片
鷹は四方八方飛び回り追手から逃れようとしたが、蔭を追い、声で脅し続けて、ついに落とさせた。
2:畜牛
自分の持ち物と居直る盗人を「餌」で見抜く
3:縒糸製首飾り
自分の持ち物と居直る盗人を「香料」で見抜く
4:綿糸(毬)
自分の持ち物と居直る盗人を「芯材」で見抜く
5:息子
自分の持ち物と居直る盗人(人食い夜叉)「手足引っ張り合い」で見抜く
6:"黒玉"男の妻
自分の持ち物と居直る盗人(渡河人足)「記憶している戸籍」で見抜く
7:二輪馬車
自分の持ち物と居直る盗人(帝釈天)「超人的能力の発揮」で見抜く
8:(アカシアの)細長い棒
難問「根の方を指摘せよ」を解決
9:頭(蓋骨)
難問「性別を指摘せよ」を解決
10:
難問「性別を指摘せよ」を解決
11:
なぞなぞ的無理要求「足角・頭瘤・3度啼の白牡を取ってこい」に上手に対応
12:(八角形の)宝石
難問「宝石に新しい糸を通せ」蟻の蜂蜜集めで解決
13:牛の出産
なぞなぞ的無理要求「腹が膨れた王宮の牡牛を分娩させよ」不可能例提示で上手に対応
14:炊飯
なぞなぞ的無理要求「火・オーブン無しで調理せよ」不可能例提示で上手に対応
15:
なぞなぞ的無理要求「砂製のブランコの綱を作れ」反問で上手に対応
16:タンク
なぞなぞ的無理要求「5種の蓮で覆われた水溜めを森から運搬」不可能例提示(古い水溜めは運搬されたものでないとの反問)で上手に対応。
17:公園
なぞなぞ的無理要求「庭園を持ってこい」【16】と同様の反問で上手に対応
18:(驢馬問答)
王は賢者マホーサダを招く。父も出仕。
親子の席順で4賢者と討論に。驢馬の例えで論駁。
19(水面に映る宝石)
都城南門付近の池の水面に見える宝石をちりばめた装身具を、ほとりの樹上にある烏の巣に使われていたものが映っていると見抜いて採取。
(20)公園に来た王の前でカメレオンは伏せをしたので、以後毎日食べ物を貰うように。肉が無いので、その代わりに貨幣を貰ったのでカメレオンは王と同格と勘違いし傲慢化。
(21)最年長の弟子に娘を嫁にする慣習に従ったが、男は不幸で不運、女は幸運との違いがあった。男は旅の途中で女を置き去りにして逃げ去った。その後、女は王妃に、男は道路掃除人。
(22)台所の肉取りと象の餌草取りの役割交換で大の仲良しになった羊と犬がいた。
(23)優越問答…裕福なだけで智慧無き愚者 v.s. 智慧あるも不幸な貧乏人
+++嫁探しに出立@16歳+++
(24)迷路問答…端正にして徳があり賢いアマラーAmarāは求婚の意志を理解し、頓智会話を見事にこなす。そして、両親の承諾を得てもらうため、家への道を教えた。
(25)広慧問答…賢者マホーサダは仕立て屋になり家で暮らしてアマラーを試すことで人となりを知り、結婚を決意。都での結婚での御祝い品はすべて半返し。
さらに賢い妻を娶ったとなると、力の差が開くばかりなので、王の装身具を盗んだ容疑をかける計略が図られたが、アマラーはそれを察して4賢人を懲らしめる。賢者マホーサダは危険を察して脱出していたので、王は帰還を求めることに。天人問答、蛍火問答、広慧問答が行われ、賢者マホーサダは賢者は怒らず、王は思慮深くあれと語る。
(26)4難問…王は天子の4問を尋ねるが、即、回答。天子は喝采、王は将軍の地位を与え、賢者マホーサダの名声がとどろいた。
(27)4賢者による讒言の5賢者問答…秘密は打ち明けるべしということで、4賢者と王はまとまるが、賢者マホーサダは逆のことを言い、反感を買い処刑命令が下るが、王妃からの連絡でことの次第を知り逃れ、用意周到に出仕して4賢人の秘密を暴露したので全員牢屋に。罰を与えようとの王の姿勢に対し、賢者マホーサダは、すべて許し、今迄通り召すべき、と。
(28)大隧道
カンピラKampilla王国のキューラニCulani王が賢者ケヴァッタKevattaの勧めで全土征服を図っていることを、賢者マホーサダが放った鸚鵡が報告。軍勢で町々を包囲し、王を降伏させるか、殺害し行くと。その連行した王は、公園の宴席に集め酔わせ毒殺しガンジス川に放り込めば100の王国の首都を手中に入れることができると言うのである。賢者マホーサダは宴会を滅茶苦茶にすることでこれを阻止。
小国ミティラ征服も図られたが、両賢者の力量の差が大きく、大失敗。しかし、それに懲りず、美しい王女との婚姻をヴィデハ王に持ちかけ、婚姻に乗じて殺害してしまおうと。賢者マホーサダは乗らぬように諭すが、王は計略とも思わず大喜びで受ける。そこでマホーサダは都の外部に新宮殿造成。ガンジス川の堤を出口にした小さなトンネルと、街に繋がる大きくて立派なトンネルも構築。そして、輸送に使った船は隠されたのである。
大軍勢で宮城は包囲されてしまったが、王は逃亡し、婚姻のため来訪中の家族も立派なトンネルを通って出てしまい、気付かなぬうちに実質上人質化。そうとはわからずに攻撃をかけようとしたが、賢者マホーサダにいなされて中止。・・・
(〃)水中悪鬼問答

(28)大隧道は文字数で半分位を占める叙事詩になっているのでタイトルになったのだろう。ジャータカは戦争で英雄的活躍をした話を欠く訳だが、血生臭いシーンは無いものの、知恵で軍事的勝利を収めるという点で例外的な話だと思う。

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