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■■■ 今昔物語集の由来 [2019.8.19] ■■■
[50] 祇園別当
高僧の殺人未遂話を滑稽譚と一緒に並べる皮肉はたいしたもの。[→毒茸]
流石に、行きずりの強盗殺人僧の話をお笑い話にはできなかったのだろう。

破戒僧といっても、殺人は別として、不倫に関しては皆見て見ぬふりというのが当たり前だったようだ。
と言っても、公然と行われたのでは教団全体が槍玉にあがりかねないので公認していないことになっている訳だ。

「今昔物語集」の編纂者はその辺に関して、強い問題意識を持っていたのは間違いなさそう。
女色をけしからんと言ったところで、どうにもならないのが現実の世ですゼ、との真っ当な認識をしているだけとも言えるが。

ともあれ、堂々と不倫行為に勤しむ僧が笑い者になる話を、選りすぐっているのだ。

その華は、やはり遊興街祇園だろう。江戸時代から現代まで、大人気の一大花街であり、その繁栄を支えたのが東の祇園社/八坂神社[創建:656年(高句麗調進副使) or 876年(円如)]であり、南の建仁寺でもあった。
当然ながら、祇園の別当は相当に裕福だったらしい。
  【本朝世俗部】巻三十一本朝 付雑事(奇異/怪異譚 拾遺))
  [巻三十一#24]祇薗成比叡山末寺語[→完璧な明尊護衛]

そんな環境下で独り身でいられる訳もなかろう。
  【本朝世俗部】巻二十八本朝 付世俗(滑稽譚)
  [巻二十八#11]祇園別当感秀被行誦経語
感秀とは戒秀[n.a.-1015年]。1004年に祇園別当就任。官から認められた正式な僧である。
不倫の相手は、世渡り上手な受領の妻。
 出かけた隙に家に上がり込み、
 堂々と過ごすのを常としていた。
受領も状況を知らないでもなかったので、
 ある時、
 外出してすぐに帰宅。
感秀、隠れるところなく、唐櫃の中へ。
それを察した受領、侍に命じ
 祇園への誦経料として
 唐櫃を運ばせた。
 妻も侍女も知らん顔。
祇園では、僧侶が立派な物なので
 別当の承認のもと開こうと。
 不在なので時間ばかり経つ。
 侍はしびれを切らす。
すると、
 唐櫃の中から声がして
 「別当に言わなくてよい。」との声。
 全員仰天。
開けると別当。
 皆、目も口も開けっ放しで、
 呆れて去っていった。
 感秀も走って逃亡。

流石、老練。
おだやかに不倫問題を解決するなど、いつの世でも至難な訳で。

僧の不倫譚など、1つで十分と思うが、折角だから重ね重ねにしたいらしい。
  ●[巻二十八#12]或殿上人家忍名僧通語
人名や場所を伏せる必要があるほどの
 身分高き人々の社会でのこと。
殿上人の妻のもとに名僧が通っていた。
 主人参内時は自分が主の如く振舞っていたのである。
頃は、三月二十日なので
 脱いだ僧衣を夫の衣装棹にかけておいた。
 その時、夫から、使いが。
  内裏から外に遊びに行くから
  烏帽子と狩衣を持ってこさせるように、と。
 早速、袋に入れて持たせる。
公達連中が集まるなか、
 袋を開けると、
 なんと、でてきたのは薄鼠色の僧衣。
そこで、返書をしたため返したのである。
 時はいかに 今日は卯月の 一日かは
  まだ期もしつる 衣替えかな
その後、通い婚は途絶えた。

公達が好きそうな話だが、冴えは今一歩。
ちょっとしたミスで夫を失うことになった妻にしても、手練手管に自信ありだろうから、どうということもなさそうだし、僧侶に至っては安泰なのだから。
妻も僧侶も、お次を探そうとなるだけ。

これより面白い僧の不倫話は、別の巻の方。・・・
  【本朝世俗部】巻二十六本朝 付宿報
  ●[巻二十六#22]名僧立寄人家被殺語
こちらは、自称名僧。
招かれて加持祈祷を行うやり手。
身分高い方からの依頼だったが、
 車が借りれず徒歩になった。
 そこで、普段着で行き、
 近くの家で着替えることに。
当該宅の向かいの家で
 部屋を貸してくれることに。
その若い女主人の夫は外出中。
 ところが、それはみせかけ。
 妻の不倫相手の法師をとっつかまえる算段。
 隣の家で様子を窺がっていたのである。
 そこに僧侶が入って着替え。
男、血相を変え家に飛びこむの図。
 説明もなにも、
 刀を抜いて、僧に突き立てたのである。
 もちろん、死亡。
傑作なのは、ご教訓。
 見も知らぬ小屋に、思慮抜きに、立ち入るナ。
 思いもよらぬことが起きるゾ。
確かに。

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