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■■■ 今昔物語集の由来 [2019.12.19] ■■■
[172] SMショート
小生は、「今昔物語集」は知的書物としては、本朝ピカ一と見る。

ただ、各譚末尾のご教訓やご感想はくだらないものが多い。もう少しなんとかならぬものかと思うことが多い。
それこそが特徴でもある訳だが。
要するに、「ご立派ですナ〜。」という言葉が、褒めているのか、馬鹿にしているのか、はたまた、あたりさわりなく言っただけなのか、状況によってどうにでも判断できるということ。従って、そこは、もともとどうでもよい箇所だが、およそピント外れのコメントがついた譚があるので、とりあげておきたい。
   女は変化の者であり、この出来事は極て怪しい。
   大変に奇異な事で、希有、不審だ。
もっとも、流石に、仏法云々もなかろうというお話でのこと。
そのストーリーは、現代流に言えば、盗賊団の魅惑的な女との関係に耽溺してしまった男が、SMだろうがなんでも受け入れるようになるというもの。こんなモノに下手なコメントもつけられぬのはわかる。
それにしても、往生伝を並べる一方で、このような話も収載する大英断には感服つかまつり候である。
  【本朝世俗部】巻二十九本朝 付悪行(盗賊譚 動物譚)
  [巻二十九#3]不被知人女盗人語 [→"羅生門"]
"悪行ノ巻"には30もの強盗殺人窃盗強姦とこれでもかと思うほどよく話を集めており、まさに壮観そのものだが、この話は芥川龍之介が「偸盗」に翻案したということでよく知られている。
しかし、「中央公論」に載せておいて、"僕の書いたもんぢや一番悪いよ"と書いているという。[松岡譲宛手紙1917年3月29日付]単行本未収録だから、心底そう思っているのだろう。安直な女盗賊作品に映ると考えたのかも。歌劇「カルメン」の人気が衰えないことが示すように、それこそが大衆的人気を呼ぶ秘訣であり、文筆業者である以上胸を張ればよさそうに思うがそうはいかないようだ。
青空文庫で読み返してみたが、話の展開上、盗賊として力を発揮している訳でもなさそうな、阿呆女の妊娠話に力点が移ってしまう。このため、沙金に魅せられ、社会倫理もなにもなくなってしまう男どもの生き様が霞んでしまう。
従って、翻案とされるが、「今昔物語集」とは、いささか趣が異なる話になってしまった。

┌──猪熊爺
💑
│┌─猪熊婆
││  ↑母 娘↓
│├─💘沙金(女盛りの美貌)
└┤
└─阿濃(下女 阿呆)

┌──沙金(女盛りの美貌)
💑
│┌─猪熊爺
││
│├─太郎(隻目醜男)
└┤ ↑兄 弟↓
└─次郎(美男)

┌──阿濃(下女 阿呆)…妊娠
💑
│┌─猪熊爺
└┤
└─💘次郎(美男)

「今昔物語集」の元ネタとされる方は、筋も登場人物も簡素そのもの。
しかし、それで十分なのである。
修行僧が山中で、異界に迷い込むのと同じで、なんとなく生きている都会の住人も、突然異界に迷い込むことがあり得るというだけのこと。そこでは、今迄のモラルは全く通用しないが、耽溺せざるを得ない程魅惑的な領域なのだ。
 背が高く細身、多少赤鬚がある30代の男。
 ある日の夕暮れ時に、街を通っていたら
 道端の蔀戸が半開きになった家から、
 小さな声がして女に呼び止められ、
 招き入れられてしまい
 家に上がると他の者はいないので
 さらに御簾の中に入り二人きりに。
 女は20代で清気紛々、愛敬もあり、
 睦んでしまい、その家に居付いてしまった。
 女しか住んでいないが、
 食事は外から運ばれてくる。
 怪しい訳だが、男はどうでもよいのである。
 もともと帰るところもないからだ。
 そして、完全にこの世界に沈没してしまう。
 生かすも殺すもお好きになさって下さいの心境。
 女は、性的倒錯者なのか、
 烏帽子を被り、水干袴着用で、肩脱ぎをして登場し
 男を鞭打つように。
 男は平然とそれに耐え、それを常態として許容。
 やがて男は窃盗団に入れられてしまう。
 危険ではあるが、なんとも思わない。
 終われば、家での女と過ごす空間に戻れるからだ。
 やがて、それも終わりを告げる。
 家も女も跡形なく忽然と消え去ってしまったのである。
 男は、そこでハタと気付く。
 盗賊団の首領はあの女だったのだ、と。


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