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■■■ 今昔物語集の由来 [2020.1.5] ■■■
[189] 肥満
粥系の食事は美味しいものである。
  →「極上粥を食べよう」[2008.5.14]
茶漬は、少々違う食だが、澱粉系主食ジャンルで見ればほぼ同類ということになろう。
ただ、両者ともに、基本は暖かい食である。冷えると価値は激減。
しかしながら、暑気が厳しくなると、冷たい方がかえって美味しく感じる。

・・・と言った談義を呼びそうな"水飯"譚が収載されている。

ついつい、そんな風に見てしまうのは、「酉陽雑俎」と「今昔物語集」では、食に対する姿勢が余りに違い過ぎるから。
前者は、著者がグルメだから、美食話は当たり前のように収録されるが、後者はヘンテコ話が多い。俗だけでなく、僧も主要読者だから、大っぴらに、美味しさを語ることは憚れるのだろうか。

ここらは、文化的差違があるかも。「源氏物語」は恋の話だらけで、食事の話を欠いているから、そう考えたに過ぎないが。
なにせ、せいぜいが、お粥か強飯を食べております程度なのである。
ただ、そのなかに、"水飯"の記載がある。つまり、結構一般的な食だったということになる。
  "人々に水飯などやうのもの食はせ、君にも蓮の実などやうのもの出だしたれば"[五十三帖 手習]

ということで、前置きを終わり、"水飯"譚を眺めてみよう。
  【本朝世俗部】巻二十八本朝 付世俗(滑稽譚)
  [巻二十八#23]三条中納言食水飯語
 三条中納言 藤原朝成[917年-974年]は三条右大臣[藤原定方]の六男。
 豊富な知識があり、唐土から本朝まで、よくご存知。
 しかも思慮深く、豪胆なお方。
 さらに、笙の名手としても知られている。
 その上、徳を積んでいるから、財産家でもある。
 身長は高く、肥満体。
 ところが、この肥満が大問題。
 立ち上がるにも重すぎ、苦しくてどうにもならぬほと。
 そこで、医師の和気を呼んで治療してもらうことに。
 その見立ては、
 「冬は湯漬、夏は水漬を召し上がるとよろしいでしょう。」
 中納言、その方策を大いに気に入り、
 早速に、医師と、そんな食事をすることに。
 侍に、水漬を持ってこさせた。
  先ず、台と箸が来た。
  次ぎに、10個ほどの3寸の白い干瓜を盛った盆。
  別の皿には、30尾ほどの大きく幅広な尾頭付きの鮎の鱠。
 医師呆然。
 続く侍が、水漬を運んで来た。
  大きな銀のひさげに銀の匙を立ててあり、いかにも重そう。
 用意ができると、中納言は金椀を差し出し、そこに盛らせた。
  大盛ご飯にして、脇から少々の水を入れた。
  すぐに食べ始め、先ず、干瓜三切、鮨鮎二切を食べたが、
  次々と箸をつけて、残りも完食。
  水飯にとりかかり、箸で掻き回し、すぐに食べ終わってしまい、
  お代わり。
 医師唖然。
 これは無理と申し上げ、早々に引き揚げたのである。
 後、これを語ったものだから、場は大爆笑。
 もちろん、中納言はさらに太り、相撲取り並に。


所謂、"過食症Bulimia nervosa"である。現代医学では、その原因は精神的なストレスによる満腹中枢異常と見なされているようだ。病院で診察してもらっても、病名が付くだけで、簡単に治癒するものではないと言われている。
藤原朝成も、見かけとは違って豪胆ではなく、心のなかでの葛藤があったのかも。

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