→INDEX ■■■ 今昔物語集の由来 [2020.1.7] ■■■ [191] 蛇恐怖症 【本朝世俗部】巻二十八本朝 付世俗(滑稽譚) ●[巻二十八#32]山城介三善春家恐蛇語 動物恐怖症Zoophobiaの典型対象は、《蛇・蜘蛛・毛虫》と《犬・猫》だろう。地域によっては蜂・蟻や鳥・鼠も少なくないようだ。 子供時代に、刺されたり咬まれたり、巻きつかれたりして、その時の心的外傷が原因と言われているが、どういう訳か、その記憶を辿れることは滅多にない。 恐ろしい気分を味わった時に、たまたま視野に入ってしまった動物なのかも。 ただ、そんな体験などなさそうな乳児でも、蛇・蜘蛛が出現すると注意を払うそうだから、ある種の本能的な反応も絡んでいる可能性も否定できない。 収録されている蛇恐怖症話は、本当かと思わせるほど、凄まじき症状を呈している。 ○山城の介 三善春家は蛇恐怖症。 気が狂ったようになるのである。 前世は蝦蟆か。 ○最近の例。 季節は夏。 染殿の辰巳(東南)の角に築山があるが、その木陰に、 殿上人・君達2〜2人が凉を求めて行き、談話して過ごしていた。 そこに春家も居た。 ところがよりもよって、 春家が居る側に、3尺ほどの烏蛇が這出して来た。 (黒色化している無毒の縞蛇であろう。) 春家は見ていなかったが、 君達が「それ、春家!」と注意したので、 視線をくれると、 袖の脇1尺の所に、3尺ほどの烏蛇が這行くのが見えた。 途端に、顔色が変わり、朽ちた藍色に。 奇異で、堪へ難い悲鳴を一声発したかと思うと 立つこともできなくなった。 しかし、立とうとするから、二度に渡って転倒。 辛うじて立ち上がると、沓も履かず出口に向かって走り去り、 染殿の東門より出て、北方へ。 さらに、一条を西へ、西の洞院まで。 そこから南へ、西洞院下りへとただただ走った。 家は土御門西の洞院に有るので、そのまま家に入っていった。 家の妻子共、「どうしたのか?」と問うが、 露ほども応えず。 装束も解かないままで、うつ伏せになってに臥した。 人が側に寄って尋ねてもさっぱり答える気配も無い。 しかたがないので、転がして装束を解いた。 意識不明で臥せている様子なので、湯を口に入れようとするが、 歯をがっちりと咋い合わせているのでできない。 身体を診ると、火の様に熱い。 妻子は肝をつぶしてしまった。 春家には従者がいたが、陰になった場所に居たため、 なにが起きたのかわからない。 ところが、この始終を見ていた、宮の雑色がいて、 可笑しい事とは思ったが、遅れながらも春家の後を走って来ていた。 そして、妻子に事の顛末を話たのである。 それを聞き、 「前々にも同様なことがありました。 何時ものように、恐怖に恐われ、 狂った様になったのでしょう。」 と言い笑った。 それにつられて、家の従者達も笑ったのである。 そのうち、お供の者達も還って来た。 ○三善春家は五位クラスであり、 そんな人が、真昼中に大路を、裸足で、指貫の喬を取り去り、 喘ぎ喘ぎ7〜8町を全力疾走したのだから、 大路に居て見ていた人々はさぞかし笑ったことだろう。 ○一月ほど経ち、春家は染殿に参上。 物静かに伺候することもできす、 あわてている様子ですぐに返ってしまった。 人々これを見て、目配せし合って、笑った、と。 (C) 2020 RandDManagement.com →HOME |