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2003.4.5
 
 


公害防止政策の転換点…

 「空気の汚れが健康に悪影響を与える」と思わない人などいまい。しかし、現時点で、どの程度汚染が広がっており、それがどれだけ深刻な問題かは、なかなかわからない。
 大規模な疫学調査はお金もかかるから、小規模で検討するしかないが、どうしてもサンプルに偏りがでる。従って、調査によって、相反する結果がでたりする。なかには、恣意的ではないかと思われるデータ収集もあるから、誰でもが納得する結論がなかなか得られない。

 状況判断ができないのだから、冷静に対策を議論することは不可能に近い。そうなると、理屈より、政治力で、対策が決まることになる。
 実際、今までの公害問題解決の決め手は、市民運動の圧力だった。市民が、公害防止を叫び、政治を動かし、産業界がこれに応じて公害防止活動を始める、というパターンである。

 この構図が続いているが、そろそろ限界がきているのではないだろうか。

 こうした「公害」対策要求運動は、その性格上、対策レベルと得られる効果のバランス論議が中心である。公害阻止側は、最大効果が得られるよう、様々な圧力をかけつづける。一方、対策を迫られる側は、できる限り影響が少ない対応策で納得してもらうように努力する。最終的には、政治の世界で両者の妥協が図られる。
 妥協とはいえ、公害対策は進むから、一歩前進である。しかし、一歩進んだところで、問題は再燃する。終わりのない仕組みである。
 このやり方が奏効するのは、対応する産業構造が安定しており、改善方向が妥当な時である。今までの公害問題の大半は、こうした前提が成り立っていた。

 ところが、最近は、この前提が崩れつつある。産業構造や社会構造が変わり始めたからだ。
 狭い視野での、公害抑制活動に力を入れるより、抜本的に原因を無くせる産業構造への移行を図る方が、大きな成果を期待できる時代が始まったといえよう。

 例として、排気ガス再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)技術を考えてみよう。
 呼吸器系疾患の原因と考えられる窒素酸化物(NOx)を抑制すべく、エンジン技術者が徹底的に研究を進めている技術だ。この技術は、排気ガスの一部を、吸気側に再循環させるものだ。吸入空気と混ぜ、燃焼用酸素量を減少させて燃焼温度がを下げ、高温燃焼で生じるNOx発生を抑制され方法である。
 一見、技術の進展で、公害防止が進展するように見える。

 しかし、排気ガス中の黒煙も再循環されるから、大量の細かな粒子状物質(PM)が放出されるのは間違いない。そうなると、PM放出抑制技術開発が進む。又、再循環で、硫黄分の悪影響が発生する可能性も高いから、硫黄除去も必要になる。
 一つのハードルを越せば、さらに次ぎのハードルが登場し、技術開発がいつまでも続く。極めて高度な要求が続くため、エンジニアにとっては挑戦的な仕事に映る。
 確かに、現行技術で考えれば、挑戦的目標といえるのだが、その技術の枠内での動きである。枠外には、抜本的な変革を実現する技術がころがっている。ここでの技術開発こそが、真の挑戦的研究といえよう。

 要するに、今の公害対策とは、高公害エンジンの低公害化である。
 本来は、このような技術開発でなく、原理的により低公害なエンジンへの代替を目指すべきだと思う。このような、広い視野で、低公害化政策を議論すべき時代ではないだろうか。



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