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2005.6.20
 
 


手がつけられない汚染源…

 国際宇宙ステーション(ISS)第10次(2004年10月13日〜2005年4月24日)プログラムで飛行士を務めたLeroy Chiao氏によれば、宇宙からの北京の写真撮影は驚くほど困難だったという。(1)

 中国東部のスモッグが余りに酷かったのである。

 一緒に帰還したフライトエンジニアSalizhan Sharipov氏も、東アジアは「写真撮影することすら困難なほどのスモッグで覆われ」、「自然を汚す工場の煙で覆われた地球を見るのは悲しいことだ」と述べたそうである。
 そして、「宇宙に行って初めて私たちの地球がいかに壊れやすいものか理解できた。私たちは一刻も早く環境保護に努めなければならない」と主張した。(2)

 こんな話は小さなニュースネタにしかならないようである。

 中国だけは、宇宙軍事路線を貫くつもりらしくISSに参加していない。そのため、マスコミはこうした話題は避けたいのかもしれない。それに、日本では、北京市の大気汚染が深刻という話は結構伝わって来ているから、(3)今更という感じもあるのだろうか。

 2003年の頃は、「Soot(煤塵) 'makes global warming worse'」(4)といった話が話題となっていたが、もう忘れさられたようだ。
 最近は、ロイターのベタ記事(5)位しか見かけなくなった。

 中国の大気汚染をこのまま放置していたら大変なことになるのは間違いないのだが。

 もっとも、大気汚染の研究は盛んになった。(6)どの程度の影響がでるか、様々なシュミレーションが行われている。
 しかし、いくらシュミレーションしても、煤塵が抑制される訳ではない。具体的に抑える方法についての議論の方が重要だと思うのだが、そんな話はさっぱり流れてこない。

 第2回NHKミニミニ映像大賞グランプリ作品 『合格?』(7)を思い出してしまう。
 「知識だけじゃ、意味がない。」

 それに、環境技術を投入すればなんとかなると、軽く考えているのではないか。

 もちろん技術が有効な分野もある。中央政府の意向が反映し易い石炭火力発電所・製鉄所や、自動車なら、効果は期待できる。

 だが、中国の汚染源の中心はそんな分野ではない。
 セメントや金属精錬の工場から発生する煤塵が一番の問題なのである。これらの煤塵抑制はとてつもなく厄介である。

 古い設備の上、ローカルな経済や、人民解放軍が深く係わっていることが多いからである。

 例えば、日本のセメント工場は、原料を一旦加熱してから、コンピュータ制御のロータリーキルンに投入して生産している。廃ガス処理設備とは、この生産プロセスを前提にしたものである。
 一方、中国では、ほとんどが旧型炉。しかも膨大な数の小型炉が稼動している。こんな炉に、日本の先進環境技術を応用できるとは思えない。
 従って、小型のセメント生産設備をすべて廃棄した上、大型プラントを新型炉へ転換する必要があろう。

 しかし、建築ラッシュで膨大なセメント需要が発生しているなかで、このような方向に進むことはなかろう。

 2005年4月に開催されたIPCCのWG1/WG3での中国関係者の態度から見て、今後の展開は予想がつく。
 「政策記述的(policy prescriptive)であるからこの節は全部削除すべきであるとして、種々の妥協案が様々な国から出されたが全く応じ」(8)なかったのである。
  → 「地球温暖化科学の研究組織 」 (2003年12月6日)
 その結果、具体例を示した表は報告書から削除されたそうだ。

 世界最大・最悪の汚染源には手がつけられそうにない。

 --- 参照 ---
(1) http://asianconnections.com/a/?article_id=596
(2) http://www.sankei.co.jp/news/050428/kok092.htm
(3) http://news.searchina.ne.jp/2004/1009/national_1009_002.shtml
(4) http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/3333493.stm
  http://webserv.gsfc.nasa.gov/metadot/index.pl?id=2679
(5) “Soot Reduces Sunshine Over China, Study Finds”Reuters 2005年4月15日
  http://www.alertnet.org/thenews/newsdesk/N1514755.htm
(6) 2003年秋季気象学会招待講演 http://www.ccsr.u-tokyo.ac.jp/~ishii/radiation/jms03ankj.html
(7) http://www.nhk.or.jp/minimini/01.html#top
(8) http://www.jamstec.go.jp/ipccwg1/meeting/050406.html

 --- 附記 ---
  それでは、米国は? [The Observer 2005年6月19日]:
  http://observer.guardian.co.uk/international/story/0,6903,1509839,00.html


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