1980年代の事業パラダイムとはどういうものだったか…


 新しい研究開発システムとは、要するに、将来の産業構造にマッチする体制ということに尽きる。

 現在の研究開発システムは80年代の事業パラダイムで作られたものだ。このパラダイムの根幹には産業構造が安定し、しかも成長が持続するという前提がある。下図に1980年の産業パラダイムを示した。基礎素材という川上産業があり、高付加価値が実現できる川下産業との間に、様々な部材産業が位置している。

 上流産業の基礎素材では、品質向上と低コスト生産プロセス重視の研究と次世代素材開発を重視。基本技術はライセンス・インでも、品質向上を果たしながらコスト削減が可能になるように徹底的に要素技術を磨きあげれば十分勝算ありとされた。

 川下産業は大きく2つのタイプに分かれる。
 1つは、比較的狭い領域技術で戦える商品分野だ。---部材なら水晶振動子、最終商品では、腕時計や家庭用洗剤が典型である。特定技術領域で徹底的に技術を磨いているリーダーが強さを発揮できると考えられてきた。従って、研究開発資源は得意な技術領域に集中投下され、コスト削減やユニークな技術応用の追求と次世代技術創出が中心になる。
 もう1つは、様々なものをアセンブルした複合品や異質の技術を総合化する商品分野だ。---部材なら液晶パネル、最終商品では、パソコンや自動車のような最終商品が典型である。この分野は、開発体制と調達の効率良いシステム化が勝負となる。市場ニーズに合わせ緻密な製品をタイミングよく提供するスキルがないと落伍する。当然、細かなニーズに対応できる体制を社内につくると共に、川上・川下との開発協力体制構築が成功の鍵とされる。

 大きな流れとしては、付加価値が次第に川下に移りつつあったため、川上産業の川下化の動きもあったが、企業は図に示される5つのタイプのどれかを主体とした。
 川下を中心にサービス化の動きもあったが、あくまでも製品主体の事業で展開した訳だ。このタイプのなかで同業他社の動きに注意しながら切磋琢磨し続ける研究開発がとられた。ここで道を極めた企業が優位に立つという見方だった。

 但し、この基本5タイプを統合したタイプがもう1つある。多くの大企業が目指した「メガ」である。---事業のポートフォリオを重視した多角化路線である。尤も、意識的にではなく、大規模な川下事業を持つ企業が事業強化のために垂直統合を図ったり、川上事業が力を溜めて独自に川下にも発展した形態がある。どちらにしても、事業領域横断的な技術プラットフォーム構築と、それらの関連を重視した研究開発、及び次世代の柱とすべき新事業創出のための技術開発を並行して行う体制だ。こうした例としては、鉄鋼から半導体、食品から医薬、機械からコンピュータ、基礎素材からファインセラミックスといった動きに見られる。
 これが、成り立たなくなるのである。


 研究開発システムの目次へ

(C) 1999-2000 RandDManagement.com