2010年の事業パラダイムを考慮した研究開発体制を構築する企業が勝利する…


  次世紀はコアコンペテンシー中心の事業展開時代になる。

 企業の投資主体は生産手段ではなく知識基盤となる。研究開発者ばかりの大企業が登場しても驚くにあたらない時代が到来する。一方、現物資産の強みや政権からの保護によりかかっている企業は没落する。先んじて構築したITシステム、巨額を投じて実現した流通構造、償却を終えた生産設備や安価な労働力利用、等々で現在圧倒的な強みを発揮しているトップ企業も、安泰は保証されない。ITでは後発が最新の体制で優位に立つ可能性は常にある。新しい流通の仕組みを構築する業界外参入も予想される。新興国の企業はコピー展開で必至に追い上げる。

 要は、地域や業界の境に関連なく様々な企業が挑戦的に事業を進める時代だ。どの産業でも大きく変化するからのんびりできない。競争相手だが同時に協力相手でもあることが頻繁に起きる。これがイノベーション時代の特徴だ。従って、新たな事業パラダイムを先読みし、そこで自社独特のコアコンペテンシー構築を図る体制が不可欠だ。
 
 歴史を誇るリーダーは「安心提供業」を追求するだろう。---
一番良く知る製品について、社内外に蓄積された膨大な知識を上手に使い、知恵を生み出すビジネスモデルが「安心提供業」ある。このビジネスモデルを追求すると、コアコンペテンシーに合うコア製品や大型ブランドの防衛・強化路線の徹底化が進む。この路線に合わない製品・サービス分野を切り捨て、合致するものを取り込み、製品ラインを絞り込む。当然ながら、競合より高品質なのに低価格という商品を、常に安定して提供する方法の確立に知恵が発揮される。このためには低い不良率、高い収率を確保できる製造方法、生産プロセス制御の技術は最優先だ。また、調達、物流を含む上流から下流に至るまでのすべての流れにおいて効率良いオペレーション構築技術にも力が注がれる。製品世代交代に合わせた技術のリニューアル・プロセスの効率化も重要である。一方で研究開発のオーバーヘッドは最小化する。このため、常時の研究開発活動はクリティカルマスを意識し、事業の大きさのわりにはスリムとなろう。勿論、緊急かつ重要なプロジェクトには何時でも巨大な資源投入がなされよう。スケールメリットもでるからこのような企業同志の大型合併は更に優位と短絡しがち だが、必ずしも正解ではない。合併過程で知恵を産む構造を傷つけてしまえば、長期低落必至となるからだ。実際、この兆候が出ている製薬企業もある。知恵もなければ、スケールメリットもない企業は「不安」企業であり、論外だ。

 強力な事業基盤を整えている企業は「代理サービス業」に進むだろう。---
顧客のデマンドを十分理解し、自社の知識を活用して顧客の代わりに対応することで顧客ベネフィットの極大化を図るビジネスモデルが「代理サービス業」である。顧客ニーズを先取りできる知恵が不可欠だ。現行製品に関連する様々な高品質サービスを迅速かつ総合的に提供する形態になる。顧客が企業なら、当該企業のノンコア部分アウトソーシング・サービス提供者にもなりうる。といっても、単なるOEMや下請けの言い換えではない。幅広い調達を行う代理業や所謂バーチャル・カンパニーと呼ばれるイノベーターだ。ICカード・システム業者に対して、この事業上のキーデバイスとなる専用の特殊半導体を提供する事業といったものも、このモデルの1形態だ。このモデルは、従来以上に強烈な技術志向が必要となる。付け加えるなら代理サービス一般をするのではなく、あくまでも自社のコア技術ベースでのサービス展開でないと意味がない。

解決策提案業」で飛躍を狙う企業の挑戦も始まる。---
顧客市場の動きを深読みし、洞察力を発揮する自信がある企業のビジネスモデルが「解決策提案業」だ。潜在ニーズを顧客に先んじてつかみとり、既存、新規を問わず、ターゲット顧客のデマンドに合致するように独特な方法で対応する事業だ。当然ながら、デマンドに応えるためのテーラーメイド仕様だ。従って、一見ニッチ追求にも見えよう。このビジネスモデル追及には、価値を与えそうな予感を顧客に与えることが重要だ。このため企業の革新イメージは不可欠だ。幅広い知識を持つ企業だというイメージがあるから、顧客は斬新な新提案を信用するのだ。顧客が普段なにげなく持っている不安感を解消する方策を打ち出すことで新事業を創出するような動きも典型例である。機器の機能や品質と価格だけで戦っている競合はこのような革新的な動きについていくのは困難だ。

 時代の寵児となる「産業創造業」も増える。---
先手必勝型ビジネスシステムを構築するタイプが「産業創造業」である。徹底した特許カバーによる知的財産権支配や標準化で実質的覇権を確立する力量は不可欠だ。特許件数が多くても、後追いの応用特許や単純な範囲拡大の防衛特許ばかりの企業の場合、このモデル追求は無理だろう。斬新な事業や技術の新応用を考え付くのが得意でないと、掛け声だけでつぶれてしまう。人が考えていないことを実現していくイノベーターとしての力量が問われる。市場探索力があり、商品コンセプトのアイデア創造とすばやい開発ができる体制を確立している企業だけが成功できる。大企業の場合は、イノベーターとしてのブランド・イメージが無いと困難がつきまとう。というのは、ライセンシング・アウトとインを上手にコントロールする技術ソーシング・マネジメントも重要であるからだ。新産業なので、イノベーターのイメージで産業創出の協力を外部から得ることが不可欠だ。当たり前だが、こうしたイメージ形成以前のベンチャー企業では、革新技術や斬新な構想力で人をひきつける魅力が必要だ。世界標準のクレジットカード程の新しい仕組みを目指すことは高望みかもしれないが、日本のイノベーター が、このモデルに挑戦して成功を収めて欲しいものだ。

 以上の4つのパラダイムを2軸で分類して表示したのが下図である。
 今の事業構造をバネにトレンドに乗りながら革新を持続的に追及するのか、ビジネスそのものを自ら変態させようとするかという視点が縦軸。
 コアコンペテンシーが、顧客のデマンドを理解する能力にあるのか、事業が顧客にどのような価値を与えそうかを理解する能力にあるかの違いが横軸である。これからの企業は自社のコアコンペテンシーに最適な事業パラダイムを選ぶことになる。
 こうした時代感覚で研究開発体制構築を進める企業が21世紀に飛躍する。

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