診断薬や医療用具は研究開発志向型産業の1つのモデルだ…


 研究開発費と生産設備投資額の合算額のキャッシュフローに占める割合を調べると、企業の「将来に賭ける」姿勢が見えてくる。
 といっても、産業によって、研究開発費と設備投資のウエイトは相当異なる。下図に日本企業の現状を例示した。設備投資が巨大な方から、公衆回線通信業やエネルギー業といったインフラ型、鉄鋼・石油化学等の素材型、半導体に代表されるキーデバイス型、AVや自動車のようなアセンブル型と続く。日本を代表するイノベーター企業がようやくにして、研究開発費が設備投資額を超えるようになった状態だ。
 一方、こうしたパターンと大きく異なるのが、診断薬・医療用具のメーカーだ。もともと、生産設備の巨大化、省エネルギー化、低コスト高品質な製品製造プロセスを実現する意味は薄い。高収益の鍵は、新しい商品コンセプトや新機能の実現である。これこそ、日本企業がこれから習得していくべき研究開発モデルの1つといえよう。

 こうした産業の特徴を見てみよう。---
 メスや縫合糸といえば、医療現場における基礎的用具で安定的に利用されると思われがちだ。しかし、傷が小さく早期退院が可能な腹腔鏡手術が広く普及したり、ロボットやコンピュータ化された手術が始まると、こうした手術システムに合わない医療用具は存立基盤を失う。システム化が急激に進めば、市場から閉め出される商品がでて来てもおかしくない。
 診断薬の場合も同様だ。すでに、多くのメーカーは計測機器事業も兼ねている。例えば、酵素免疫測定法診断薬市場での売上シェアは各企業の測定装置設置台数に大きく左右されている。従って、測定機器の変化に乗じて、当該機器に最適なキットを先に作れば独占的な地位を占められる可能性がある訳だ。
 下図に業界構造を示すが、業界の大きな枠組は機器・システム側が握る。しかし、収益は概ね診断薬というコンシューマブル側で上げるという構造である。システムが完成しているのであるから、スイッチイング・コストがかかる現況の枠組みが変わるのは、次世代測定装置や新システムが導入される時に限られよう。このことは、次世代への大きな飛躍を狙う研究と、現システムを使う新製品研究の2つを上手にミックスするマネジメントが重要な産業ということになる。

 この業界では、プロダクトアウト型研究開発は成功しにくい。---
 下図はバイオマテリアルの用途開発の流れである。生体適合に優れた素材があるから、研究すれば素晴らしい製品ができるという訳にはいかない。専門家のデマンドがどのようなものかを明確化できなければ、具体的な研究開発目標の設定ができないからだ。現在入手可能な技術を寄せ集めるとどのレベルであり、それはどこに問題があり、ギャップはどの位あり、当該材料だけでギャップが埋まるものかを検討しない限り、意味有る研究か無駄なのかは分からない。目標設定できる力が極めて重要なのである。このことは、具体的な利用シーンを創出し、その特定された応用部面は全体市場のどこに位置するかを明瞭にする作業が研究開発の出発点となる。

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