欧米型の研究評価システム導入の前に考えるべきこと…


 日本の研究機関には研究評価システム(リサーチ・アセスメント)の概念が欠落していると言われ続けてきた。権威者と周辺の研究者との「和」を優先してきたからだろう。しかし、発展のためには創造性や独創性が不可欠だ。研究の質の向上のためには、明確な研究評価システムの導入が必要という声が、そこここであがり始めた。

  こうした動きでは、日本よりアジアの国々が圧倒的に先行している。

 研究評価のための外部専門家評価委員会や、発表論文による業績評価手法はとっくに導入済みだ。シンガポールでは、海外の専門家を招聘した研究評価まで行っている。90年代に、政府の研究開発予算を急増させると同時に、こうした施策を徹底的に進めたのである。当然ながら、昇進や褒賞といった直接的なインセンティブも用いた。特許や論文数が増加したのも、この施策の成果のひとつといえよう。

 これらの国がいち早く対応できたのは、欧米の研究評価システムを良く知る科学者が沢山いたからと思われる。10年間程度、欧米で活躍していた人達を呼び寄せたからだ。といっても、評価に不満を感じれば、すぐに欧米に舞い戻る気概を持つ人が多いと言われ、完全な帰国者ではない。適切な評価がなされなければ、研究者は認めてくれる機関にすぐに移動してしまう。間違い無く海外に戻る。評価システムは良質な研究者を引き止めるための生命線である。
 特に、シンガポールは人口も少ない。世界から研究者を呼び寄せる魅力を失えば、技術立国など成り立ちようがない。評価の仕組みつくりに必死になるのは当然だ。
 一方、日本は人口も多いし、研究者の数も多い。移動するといっても、ほとんど国内だ。そもそも、真剣さが違うといえよう。

 とはいうものの、日本でも、研究評価システム導入のムードだけは高まっている。その結果、「欧米をよく知る」研究者からの意見聴取の動きが起きている。一見すると、当然に見えるが、対象となる研究者は、帰国を前提して渡欧米した滞在型経験者が多い。シビアな評価の下で生きぬいている半永住型の研究者の意見を聞こうという動きは弱い。住みついている研究者の意見は余り役に立たないと考えるのだろう。モビリティある研究者の考え方には興味がないともいえよう。

 90年代にはっきりしたように、科学技術の研究は『センター・オブ・エクセレンス』が潮流を作る。有能な研究者を惹きつける拠点創出がイノベーション創出の鍵を握る。この核をになうのが、評価システムといえる。日本の評価システム導入は、この発想とは違うようだ。有能な研究者招聘の仕組みを作ろうとしないからだ。現存の研究者や研究テーマに優劣をつけて、資源配分の効率化を図ることが最重要なのだろう。
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