死体からの誕生話 死体から食物が生まれるとの神話は日本以外にもあることはよく知られている。そのため、その一点だけとって、さも、そのような神話がある地域と深い関係があるとの説明を見かけることがある。 しかし、そうかも知れないが、そうでないかも知れないということ以上はなんとも言えまい。 この手の神話解説には、たいていは「地母神」信仰と関係しているとのコメントがつく。 だが、伊邪那美命がその役割を果たしているとは言い難い。食糧を生み出す女神にしても、伊邪那岐命との間にもうけた子だし、作物を生み出すきっかけも、女神側と考える訳にもいくまい。 とはいえ、理屈はわからないでもない。 実った食糧を刈り取るのは、いわば命を断つ行為だが、その結果、新たな命が生まれ、再度の収穫に繋がる。従って、こうした信仰が生まれるのは自然だと言われれば、そうかも知れぬとなる。 しかし、穀物主食の地域には、必ず、そういう神話があるのだろうかが明確にされていない。小生は、異なる信仰もあると思うが、それにはどんなものがあるのか位は指摘してもらわねば、説得力不足。 それに、素人からしてみれば、芋食の場合どう考えるべきかも知りたい点。死体から食物が生まれる神話が多いとされる、熱帯/亜熱帯の辺りの主食が芋であることが多いからだ。なにせ、芋は栄養繁殖。しかも、親芋をそのまま残して子芋だけ収穫する栽培方法も珍しくない。そんな地域では、収穫と「死」を結びつける論理は成り立つまい。 養蚕も同じようなことが言える。 蛹は茹でてしまうから、命が復活することはありえまい。餌にしても、桑の葉であり、単に刈り取るだけで樹木の命とは関係しない。熟した実も果実として食べてしまうだけ。再生感覚を与えるシーンは全く思いつかない。蚕だけは無視すべしと考えるなら、その理由はなんなのか。 と言うことで、古事記における、死体発祥の神々を眺め、どう考えるべきか、頭をひねってみようというのが今回の企画。 ─・─・─・─・─・─ 伊邪那岐命(いざなき)の行動の結果と、伊邪那美命(いざなみ)の遺骸から、以下のような神々が生まれている。 先ずは、地母神的な「豊穣」を意味しそうなシーンから・・・ ───「<子>大宜都比売(オオゲツ)」 の遺骸からの発祥物─── [頭] - 蚕 [目] - 稲 [耳] - 粟 [鼻] - 小豆 [陰部] - 麦 [尻] - 大豆 それぞれの神が存在してもおかしくないような重要な穀類だが、そうはならない。ここでは、稲魂のような概念は持ち込まれていないように思える。 それと、このヒメがどのような神なのかも、気になる点。御膳(みけ)を生むのだから食べ物の神のようだが、蚕は食料と見なしていないだろうから、植物栽培の神のようにも見えるし、両者が渾然一体としているのかも知れない。しかも種子を育てるのが、神産巣日神であり、日本列島で改良した栽培種を大元の民族に戻したと考えられないこともない。 それに、阿波国こと、「粟国」の象徴でもある。ちなみに、伊予之二名島(四国)の他の3国は以下のようになっている。 [伊予国] - 愛比売 [讃岐国] - 飯依比古 [土佐国] - 建依別 かなり錯綜しているのは間違いなさそう。ただ、この感覚は頷けるものがある。 音声的にも、概念的にも、はたして同一なのかは定かではないが、以下のような単語に連関性がありそうだからだ。このことは、ヒトとは青人草との感覚は一般的なものだったと見てもよさそう。それなら、死体から新たな命が生まれるとの発想はごく自然なものだと思われる。 [人] - [草] [目] - 芽 [鼻] - 花 [歯] - 葉 [頬] - 苞 [身] - 実 [髪] - (神) 出産した子の「火」にイザナミは焼かれてしまう。それを怒ったイザナキが子を殺すシーンから・・・ ───「<子>火之夜藝速男神(ひのやぎはやを)」 の遺骸からの発祥神─── 十拳剣こと天之尾羽張で伊邪那岐により斬首される。 その亡骸から、8という聖数の「山津見神(やまつみ)」が生まれる。・・・ [頭] - 正鹿山津見神(まさか) [胸] - 淤縢山津見神(おど) [腹] - 奥山津見神(おく) [性器] - 闇山津見神(くら) [左手] - 志藝山津見神(しぎ) [右手] - 羽山津見神(は) [左足] - 原山津見神(はら) [右足] - 戸山津見神(と) そして、 剣の"先端"から岩石に落ちた・・・ [血] - 石折神(いはさく) [血] - 根折神(ねさく) [血] - 石筒之男神(いはつつ) 剣の"刀身の根本(鍔側)"から岩石に落ちた・・・ [血] - 甕速日神(みかはやひ) [血] - 樋速日神(ひはやひ) [血] - 建御雷之男神(たけみかづち) 剣の"柄(指側)"から岩石に落ちた・・・ [血] - 闇淤加美神(くらおかみ) [血] - 闇御津羽神(くらみつは) 8柱の山"津見"(住み)神は、感覚的には、それぞれ、真坂の地、尾に当たる所、奥深い辺り、暗い谷間、樹木繁茂地、端に当たる処、平な場所、入り口に当たる所、といったような意味付けだろうか。剣で生まれた神々だから、鋭利な剣を造る刀鍛冶が様々な山で行われていることを示しているということか。 それを考えると、次の3柱の神は、剣作成に用いる3種類の石と見ることもできそう。 その結果、生まれる剣の魂にあたるのが次の3柱の神々だろうか。"速日"とは、火のようにスパッと切れるという感じがする。その、最高傑作が"建御雷"なのだろう。言うまでもなく、鹿島神宮に祀られている武神だが、その象徴は霊剣「布都御魂剣」である。 最後の2柱は、暗い渓谷で剣を鍛えるということかな。 よくわからんが、火の神を斬首することができるほどの、驚異的な威力を持つ剣を生み出すことができる神々が揃ったことを示しているのだろう。 ついで、死んでしまったイザナミから、・・・ ───「伊邪那美命」 の遺骸からの発祥神─── 亡骸から漏れ出したモノとして、 [尿] - 弥都波能売神(みずは) [尿] - 和久産巣日神(わくむすひ) →<子>豊宇気毘売神(トヨウケ) @元伊勢豊受大神社/伊勢神宮外宮 さらに、 [糞] - 波邇夜須毘古神(はにやす) [糞] - 波邇夜須毘売神(はにやす) 口からも、 [嘔吐物] - 金山毘古神(かなやま) [嘔吐物] - 金山毘売神(かなやま) 直接の亡骸からは、8という聖数の「雷(いかづち)」が生まれる。・・・ [頭] - 大雷(おほ) [胸] - 火雷(ほ) [腹] - 黒雷(くろ) [性器] - 析雷(さく) [左手] - 若雷(わか) [右手] - 土雷(つち) [左足] - 鳴雷(なる) [右足] - 伏雷(ふす) 尿が水走る感じということで、"みずは"は感覚的にわかるが、何を意味しているのか定かでない。ペアとなっている神は食事を司る神を産む訳で、どうつながるのかさっぱりわからぬ。大宜都比売は食材で、こちらは料理品ということなのだろうか。さすれば、水とは汁物を指すことになるか。 糞からは、男女神のペアが生まれるが、"埴"を意味するのだろう。流れが続いているとすると、調理の土器を造るということか。 そうなると、"金属"を意味する2柱のペア神も同様な位置付けとしたいところだが、"山"であるから、金属鉱山なのだろう。まあ、嘔吐物は選鉱物と似ている感じもするから、それだけの単純な話かも。糞も粘土似だし。 和久産巣日神だけが、他とは違う概念ということになるが、感覚がわからないので推定のしようがない。 雷は、黄泉の国の恐ろしきものということで、全身から発生する訳だ。 古事記を読んで−INDEX >>> HOME>>> (C) 2013 RandDManagement.com |