[→本シリーズ−INDEX]

■■■ 古代の都 [2018.12.10] ■■■
[番外-10] 墓制と「古事記」
(5:石信仰)

「古事記」は神権政治の叙事詩だが、これを神道を基盤として書かれた歴史書と勘違いすると、おそらくナニガナニヤラ的な箇所だらけになってしまう。
その最大の難所は、古代神道の磐座[いわくら]=依り代 or 降臨地の扱い。それを示唆する記述は、天邇岐志国邇岐志 天津日高日子番能邇邇芸命が天石位を離れて高千穂に降臨という一ヶ所しかないからだ。(あくまでも出発に際して立ち上がった地という意味でしかなく、到着して峯側に磐座が存在したと示唆した記述になっている訳ではない。)
岩/石はもっぱら境界[=結界の戸/扉]として登場するのみ。せいぜいのところ、磐長姫命が永遠の生命を約束する霊の象徴である位。降臨地と結界では概念がかけ離れているが、どうしてそんなことが発生しているのかについての解説はさっぱり見かけない。
・・・と、感じる人は異端とされる社会ということか。

要するに、岩、石、玉について、概念的に同じ括りとして"鉱物"に入るのかもはっきりしている訳ではないのだ。これらの用語としての区別にしても、加工と自然体の違いなのか、大きさなのかといった、視点さえもわかっているとは言いかねるのが実情。古代の文献は限られているからどうにもならないのである。
そもそも"人類発祥の由縁"は直立歩行だが、骨格もさることながら、両手で石を道具として使用した証拠が残っていたからこその理屈。その石器が岩から生まれたと考えるなら、岩信仰はとてつもなく古い筈。それに、墓や性的祭祀に使われていた自然岩や加工石器も数々出土しており、この領域は錯綜していているのである。

その辺りについての「古事記」の取り扱いは秀逸。
国生みに続いて、最初の意味ある神が成るのだが、イの一番に、そこらを示しているからだ。
 《非加工石器》自然石…旧人〜新人時代
 《粗製石核器》礫石器
 《打製石核器》握斧…旧石器時代
 《打製剥片石器》剥片石刃
 《打製細石器》石鏃…主に縄文時代
 《磨製石核器》擦切石斧…大陸東端の島国日本固有の可能性大

この冒頭の石神2柱を含め、最初のグループは10柱の神々。ここには、俗に言うところの"家宅六神"が含まれている。
しかしながら、「古事記」を神権政治の叙事詩と考えるなら、石土と石砂の両神生みに続いて家屋の要素となる神々が次々と生まれる展開はいかにも唐突。国土ができる話から、一挙に、壁や屋根の神が生まれる話ではレベルが違い過ぎる。しかも、その後に海神が登場してくるのだ。そもそも、古代は洞窟生活でもよかった訳であり、木材に関係する神もなく石壁や屋根葺きが重視される論旨が成り立つとは思えない。
従って、ここはそのような解釈を棄て、ストーリーを変える必要があろう。

ともあれ、はっきり読めるのは、先ずは岩ありき。それは、陸側と海側。前者は土、後者は砂と一心同体的な霊的存在ということになる。つまり、原始信仰では、岩そのものがご神体ということになろう。降臨とか神籬という概念は、上位に位置付けられた神霊との習合のために生まれたと考えるのが自然だ。と言っても、とてつもない古代のこと。蛇神と水神の関係のような展開が色々あったと理解すればよいのでは。

その上で、石は"結界"の神でもあることが示される。両者は違う概念ということになる。墓制と岩/石が切り離せないのは、人類の古層の"結界"信仰があったからということ。

意味不明な3神をとばすと、最後の2神は、海~と"みなと"神で、自明だる。いかにも黒潮海人らしさを与えるが、石神から始まる10神グループとして考えると、自然神というよりは、人々の交流の場を支える神とも言えよう。

そう考えると、その前の3神とは石を用いた重要な活動に関係する神の可能性が考えられる。天之吹上男~、大屋毘古~は解釈が難しいが、家の屋根関係ではないだろう。前者は黒曜石等の特別な岩の地域を造り出した神の可能性もあろうし、後者は石器の鏃を意味しているような気もする。風木津別之忍男~は、風神は別途後ろのグループで生まれるから風とは関係ないかも。それに、木は訓で読むようにとの指示があるので、どう考えるか苦慮せざるを得ないが、このグループに属しているのだから、船に関係していると見なす、落ち着くのだが。

 既生國竟 更生~…神生み開始
 故生 ~名 大事忍男~…♂大きなコト 始め
 次生 石土毘古~ 次生 石巣比賣~…♂&♀石(土+洲/砂)
 次生 大戸日別~…石の境界
 次生 天之吹上男~…♂噴火(一般的には屋根を葺くとされている。)
 次生 大屋毘古~…♂矢(一般的には家屋の神格化とされている。)
     後出する大穴牟遲~が訪れる木國之大屋毘古~と同一か。
 次生 風木津別之忍男~…♂"かざ[加邪]+も"の別 始め
     風神はこの後のブループで登場する志那都比古~
 次生 海~名 大綿津見~…海洋
 次生 水戸~名 速秋津日子~
   次 妹 速秋津比賣~
…"みなと"(♂&♀開いた[河口]津[船着場])

   表紙>
 (C) 2018 RandDManagement.com