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■■■ 古代の都 [2018.12.29] ■■■
[番外-29] 墓制と「古事記」
(24:紐小刀)

副葬品として小刀も出土するが、その解釈は難しそう。ナイフであるのは間違いないが、長柄に縛って取り付ければそれは槍以外のなにものでもないからだ。
流石に、紐穴があれば下げる短刀と言えるが、刃側ではなく腐食消滅する鞘側だと紐ともども消失している可能性があるから、どうとでも言えることになる。

「古事記」では、紐小刀として登場する。
山彦の紐小刀
 即載其和邇之頸送出 故如期一日之内送奉也
 其和邇將返之時 解所佩之紐小刀著其頸而返
 故其一尋和邇者於今謂佐比持~也

南海の異郷に馴染んでしまった山彦は、そのトーテムの鰐(姫の出産シーンから見て、揚子江鰐であろう。)に送ってもらい帰郷。小刀に付けられた紐(佩緒:鹿革製か?)を頸に掛けて返したのである。おそらく、渦巻か波模様の美しい柄のついた大事な宝刀。山彦だから、鞘は木製ではなく、鹿袋かも。正倉院御物ほど立派ではなかったろうが。
"佐比"は聞き慣れない用語だが、フツが大刀の擬音なら、サヒは小刀の擬音と考えるのが理屈だ。しかし、語感に余りにも納得感が薄すぎる。濁音化させるのは無理筋だが、小生はサビ(錆)の類縁語のように思える。それよりは、動き回るステップの民が身に佩びる紐で垂らす刀を指す語彙の語幹から来ていると考える方がしっくりくるが、コレもあてずっぽうの推理でしかない。ユーラシア西端辺りはサーベルで、東端がツングース由来のサヒとなれば面白かろう。

要するに、以後、鉄の交易に携わるようにとの呼びかけと読むだけのこと。

紐小刀が交易上のID証明品とすれば、遺骸と共に埋葬するのが筋。持たずに死んでしまったら、異界で通用するように新品を遺骸に添えてあげたであろう。

ただ、IDだったとしても、違った役割の場合も。
八鹽折之紐小刀
 沙本毘古王謀曰
  汝寔思愛我者將吾與汝治天下
  而 即作八鹽折之紐小刀 授其妹曰
   以此小刀刺殺天皇之寢
 故天皇不知其之謀而 枕其后之御膝爲御寢坐也
 爾 其后以紐小刀爲刺其天皇之御頸 三度擧
 而 不忍哀情不能刺頸而 泣涙落溢於御面・・・

八鹽折と表現しているが、何度も繰り返して鍛錬した鋭利な刃がついていることを示しているようだ。(鮭造りの八塩折仕込からの類推であるが。)
細紐を付けて下げるようにした一種の匕首だが、この場合は懐中に納めた秘刀の意味が籠められていそう。天皇暗殺をそそのかしたのだから。

但し、紐小刀は特別製ばかりとは限らない。神と呼ばれるクラスなら、普段遣いの道具でもあったろう。大刀と違い、必需品として佩びることもある。当然ながら、男女の区別もなかった筈。
従って、古墳だけでなく、住居跡からも出土する。
「古事記」では、猿女君となった天宇受売命の海鼠話に登場してくるのがソレ。
マ、叙事詩に入れ込んだ、一種の気分転換の面白話だと思うが、伊勢国が海産物奉納代表となったことを表しているようだ。宗像、安曇、住吉の日本海瀬戸内勢力だけでなく、太平洋側の伊勢松坂も存在感を示した訳である。
天字受賣命の紐小刀
 天字受賣命謂海鼠云
  此口乎不答之口
 而 以紐小刀拆其口
 故 於今 海鼠口拆也
 是以御世嶋之速贄獻之時 給女君等也


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