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■■■ 「古事記」解釈 [2021.5.11] ■■■
[130] 日本海側鳥信仰はかなりの古層
「古事記」の出雲神話は文芸的に素晴らしいと語る研究者は少なくないらしい。

もともと比較対象になる作品が無いのだから、「万葉集」と同じで、評価のしようがないと思うが。

序文にはっきり書かれているように、もともと、皇統とそれに連なる臣の系譜を整理し、正統な記載書を作るように命じられて作成した書である。
従って、それを目指して編纂されているとの印象を強く与えるように工夫して作られている筈だ。しかるに、現実には、その意義に無縁と思われる話の方に矢鱈に注力している。口誦倭語ができる限りわかるように、叙事詩的伝承を文書化したのだから、魅力的に映ってしかるべきと言えよう。

特に、男女の仲については、出雲神話は特筆モノ。
<伊邪那岐+伊邪那美>は、いかにも生物学的な交接としての情景であり、儒教道徳からすれば満点かも知れぬが、歌垣の世界の人々からすれば納得のいく話ではなかろう。
これに対して、<八千矛神+沼河比賣>は実に艶めかしい歌謡。しかも、求婚されたら女性は一応拒絶をするものの、それも愛の表現という、なかなかに奥深いものがある。これを政治的に読めば、それなりの面子を保ったことになる訳だが。

そこでのもう一つの面白さは、姫も彦も神であるにもかかわらず、自ら鳥として扱っていること。

その辺りについて、見ておこう。・・・

<建速須佐之男命 出雲降臨>
【所避追而 降出雲國之肥河上 名鳥髮地】
鳥髮とは、時により隠岐島遠望も可能な出雲地区を一望する高山名。船通山1142mの古名である。八岐大蛇退治譚の舞台である斐伊川[肥河]の源流域に当たる。
越冬の為に出雲に飛来する水鳥は、現在でも数万羽だから、古代はとてつもない数の大群だった見てよいだろう。宍道湖を寝床として、斐伊川河口の餌場との間を日々往復飛翔するのが現在の習慣だったが、もともとはそこらじゅうに飛来していたに違いない。
それに、ここらは、白鳥等の大型にとっては、豊かな水辺がある地としてはほぼ南限でもあり、日本海づたいに鳥が大挙して飛来していたことだろう。
越との繋がりは、神も、鳥も、人も、大蛇信仰も、ということだろう。
  高志之八俣遠呂智毎年來喫

<大穴牟遲~>
鳥の話を欠く。

<八千矛神+沼河比賣>
【八千矛~ 將婚高志國之沼河比賣 幸行】
  八千矛の 神の命は 八洲国 妻求ぎかねて
  遠遠し 高志の国に 賢し女を 有りと聞かして
  美し女を 有りと聞こして さ婚ひに あり立たし
  婚ひに ありか呼ばせ 太刀が緒も 未だ解かずて
  襲をも 未だ解かねば 乙女の寝すや 板戸を
  押そぶらひ 吾が立たせれば 引こづらひ 吾が立たせれば
  青山に
[奴延ぬえ=トラツグミ]は鳴きぬ
  狭野つ
雉子[岐藝斯きぎし]は響む
  庭つ
[迦祁かけ]は鳴く
  うれたくも 鳴くなる

  この
も 打ち止めこせね いしたふや 天馳せ遣ひ
  事の語り 外面此をば

鳥としては、3種ありということのようだ。単に、夜が明けるまでの時間的経過を鳴き声で示しているに過ぎないとも言えなくもないが。
 (青)山の鳥…鵺
 (狭)野の鳥…雉子
 庭の鳥…鶏

沼河比賣は、自らも鳥であるが、汝も鳥と、応える。
 沼河比賣…浦洲の鳥
 今の心境…吾鳥
 八千矛神…汝鳥
  八千矛の 神の命 萎草の 女にしあれば
  吾が心 浦洲
[宇良須][登理]
  今こそば 吾
[杼理]にあらめ
  後は 汝
[杼理]にあらむを
  命は な殺せ給ひそ
  いしたふや 天馳せ使ひ 事の語り言も 此をば
  青山に 日が隠らば 射干玉の 夜は出でなむ
  朝日の 笑み栄え来て 栲綱の 白き腕
  沫雪の 若やる胸を 素手抱き 手抱きまながり
  真玉手玉手 差し枕き 股長に 寝は寝さむを
  奇に 汝恋ひしきし 八千矛の 神の命
  事の語り言も 此をば


<大國主~>
【嫡后 須勢理毘賣命 甚爲嫉妬故 日子遲~・・・】
  射干玉の 黒き御衣を 真具さに 取り装ひ
  
沖つ鳥 胸見る時 はたたぎも 此れは相応はず
  辺つ波磯に 脱ぎ棄て
  
鴗鳥[蘇邇杼理そにどり]の 青き御衣を
  真具さに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時
  はたたぎも 此も相応はず
  辺つ波磯に 脱ぎ棄て
  山県に蒔きし あたね突き 染め木が汁に 染め衣を
  真具さに 取り装ひ
沖つ鳥 胸見る時
  はたたぎも 此し宜し 愛子やの 妹の命
  
群鳥の 吾が群往なば 引け鳥の 吾が引け往なば
  泣かじとは 汝は言ふとも 倭の 一本薄
  頂傾し 汝が泣かさまく 朝雨野霧に立たむぞ
  若草の 妻の命 言の語り事も 此をば


わかりにくい歌だが、登場していないものの、鵜を示唆しているのではないか。海鵜は仲間の関係だったのだろう。
 黒い衣…(鵜)
  ↓磯で衣替え
 青き御衣…鴗鳥

出雲系譜の神名にも鳥が登場する。
【娶 坐胸形奧津宮~ 多紀理毘賣命】
  生子阿遲鉏高日子根~・・・
  今謂
迦毛大御~者也
【娶 八嶋牟遲能~之女 鳥耳~ 生子 鳥鳴[那留]海~
  ・・・・・此~娶敷山主~之女 青沼馬沼押比賣
   生子
布忍富鳥鳴海~

南方渡来と思われる神の衣も鳥である。
【大國主~ 坐出雲之御大之御前時】
  自波穗 乘天之羅摩船而 内剥皮剥 爲衣服 有歸來~

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