→INDEX ■■■ 「古事記」解釈 [2021.5.30] ■■■ [149] 神世七代の神名の全体観 <神世七代> (獨神二神) 初代 ニ代 此2柱神 亦 獨神成坐 而 隱身也 上2柱 獨神 各云 1代 (対偶十神) (対偶「古」神) 三代【1】 四代【3】 五代【5】 六代【7】 (「元祖」対偶神) 七代【9】 次 雙10神 各合2神云1代 ◆上件[自國之常立神以下伊邪那美神以前] 并稱 神世7代◆ 第一義的には、正統系譜書作成の勅命に応えたということだろうが、聖典的位置付けもあったのではないかと思う。 大秦教/景教(古代キリスト教ネストリウス派)が北魏の洛陽に入ったのは6世紀初頭であり、太安万侶の耳に、聖書についての情報が入って来ていてもおかしくなかろう。ご存じ、「創世記」第5章には、名付けと呼ばれる箇所があり、由来や意味が不詳なまま名前が並んでいるが、それこそが正統性を示していると考えられているようだから、神世12柱の記載はそのセンスで書かれたのと違うか。 ただ、どうあれ、一般的にはこう解釈されることが多い。 (1代) 「原」があり、そこが神がお成りになれる場に。 (2-3代) 「霊力」(日:ヒ)「生成」(産巣:ムス)状況に。 ・・・2つのタイプ(「高」と「神」)が存在。 (4代) 「葦」の芽が育つような活発な動きに。 (5代) それが永久的(常)な「場」に。 この別天神の流れに則って、~世七代は連想型解釈がされがち。例えば、こんな風に。📖古事記「初の天降」の史的意味 (1代) 「國」創生の霊的動きの「場」が恒常化。 (2代) 「雲野」:野に豊かに生気が漲ってくる。 <男女神による産み出す力が徐々に高まる。> (3代) 「泥/砂泥(比地/須比智)」・・・7代目の原型 (4代) 「杭(杙)」・・・原型の兆し (5代) 「と(斗)」・・・性器 (6代) 「─」・・・揃ったことを称賛 (7代) 「誘(伊邪)」 ここはあくまでも高天原に神々が出現する話と違うか。 伊邪那岐命と伊邪那美命は「修理固成 是多陀用幣流之國」との命を受け、早速、天浮橋に立って、賜わった天沼矛を用いて成嶋した後に、出来上がった淤能碁呂嶋に天降するのだから。大八嶋国もまだ存在していないのである。 しかし、本居信長は、前の段の最後にすべて天神としてあるからここは天神では無いと。確かに、天之常立神と対になって国之常立神から始まっていて、天ではないという見方になってもおかしくないが、"別"としてあるのだから、その理屈は強引過ぎよう。なんらかの確固たる信仰に基づく観念があり、その眼鏡で世界を眺めているとしか思えない。 本居教の教義が見えてこない限り、その理屈はよくわからない。 ともあれ、國學院大學の「古事記」注記のご注意事項は心すべきと思う。 "結局のところ 神世七代の神名を 全体としてどう捉えるかということに関わる"訳で、 "『日本書紀』の表記をそのまま神名の原義と見ることには問題がある。" とは言え、"はてそれで"。 "結局のところ"、国之常立神から始まり、伊耶那岐神+伊耶那美神が生まれる迄、12柱の神名で一つのプロセスを表現していると考えるしかないようだ。 主要な説は3つ。・・・ (1)国土の形成 (2)地上の始まりを担う男女の神の身体(神体)の完成 (3)地上に於ける人類の生活の始原 他に思いつかなければ、ここから 選ぶしかないが、小生なら(1)。納得して決定している訳ではなく他よりは多少はましに映るからに過ぎない。 ❶国之常立神 別天神の⓿天之常立神の対偶的名称。 そもそも、高天原あっての別天神であり、天之常立神はその地で最後に登場するのだから、改めて神々の居場所を確立する必要性があるとも思えず、それなら高天原の神々コミュニティを立ち上げる役割のようにも思えたりもするが、それなら国之常立神に任せれば済む話で、位置付けがわかりにくい神である。 ともあれ、国之常立神という神名の核となっている表現は"常"ということで、議論はそこに収斂しているようだ。その"常"だが、床/とこ(現代的には土台の意味)の代替文字との説があるそうだ。(素人からすると、意味が床ならママその文字を使用しそうなものと思ってしまうが。) "常"は文法的に訓読みと見なせないので、音表示文字ということになり、元の意味は"床"とされた模様。("常し"[形容詞]"立"[名詞」はあるが、"常"[語幹]が動詞を修飾する用例が無いということらしい。)恒久的状況実現のニュアンスを加えたとの主張と言うことになろう。 しかしながら、床は古代は寝床を指すのが普通らしく、神世七代は生殖に向けた流れということで、床でよかろうとなっているようだ。 ただ、生殖という見方を天之常立神にも当て嵌めるには少々無理が過ぎよう。普通に考えれば、高天原がソコ存在しているといっても、あくまでも混沌とした宇宙から顕れたに過ぎず、その存在は恒久的であることを明確にする神という解釈となるからだ。だからと言って、それが当たっているとの保証は全く無いが。 重要なのは、天之御中主神同様の極めて形而上学的存在であること。そのため、抽象化された別天神がダブっているような印象は否めない。このため、しっくりこないのである。 その上、別天神でないにもかかわらず、対偶神的な神名の国之常立神が、"神世七代"の筆頭として続いて登場してくるから、ナニガナニヤラ感を助長する。両神の性情はほとんど変わらないから、互いにどのような関係になっているのかさっぱりわからないからだ。 しかし、これをスッキリと整理する方法が無いとも言えない。 両神は類似の役割のため神名が似ているに過ぎないとし、それぞれの領域での守護神役を務めていると考えれば問題は解消する。 別天神の場合、4神が出揃ってから、全体を守護する役として最後に登場することになるが、これから神々が生まれる世界を形成することになると言うことでなら、最初にその場を守護するために登場するのは理に適っているからだ。 それに、守護神コンセプトは、寺院建立の際に見られる鎮護役として極めて一般的だし。もともと、半恒久的な聖なる祭祀の場を設定することになると、場の神が別途存在しておかしくないから、このような見方をしてもかまわないのでは。 そのような神であれば、単独でお祀りされることは滅多にあるまい。例外的に、総社で、神々を集合した祭礼を行う場合に加えられることはありそうな気はするが。 要するに、構造的にはこんな具合。・・・ ┌───────────────┐ │┌─────────────┐<別天津神> ││┌───────────┐││ │││┌─────────┐│││ ││││┼┼造化三神┼┼┼││││ │││└─────────┘│││ │││宇摩志阿斯訶備比古遅神│││ ││└───────────┘││ ││┼┼┼┼┼┼┼┼天之常立神│←守護神 │└─────────────┘│ │┌─────────────┐<天津神> ││┼┼┼┼┼┼┼┼国之常立神│←守護神 ││┼┼┼┼豊雲野神┼┼┼┼┼││ ││┼┼┼┼対偶神五代┼┼┼┼││ │└─────────────┘@高天原 └─────────────↓─┘ ┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼天降し<国津神>生成 以下、それぞれの神名がどのように見られているのか、ザックリと眺めておこう。・・・ ❷豊雲野神 本居信長の解釈の特異性は際立つ。 雲≒物の集り凝る+初芽す 野≒沼 ここは、雲野を"雲の野"としたらどうか。天の原⇒雲の野ということで、姿は見えず、顕在していないものの。そこに存在している気配がするという意味で。 ❸宇比地邇神 ❸須比智邇神 ほとんど意味が想定できそうにない文字がならんでいるので、意味鮮明な「紀」の解釈を踏襲することが多いようだ。小生はなら避けるが、他にそれより良さそうなアイデアが浮かばなければ致し方無しか。 宇≒埿@「紀」=泥/うき 須≒沙@「紀」=砂/す 比地≒土@「紀」 比智≒土@「紀」 邇↑≒煮[根@別名]@「紀」=接尾語(親愛男性形) 邇↓≒煮[根@別名]@「紀」=接尾語(親愛女性形) 流れの解釈はほとんど同じでも、意味が重複するのを避けたいとなると諸省蛙ことも。・・・ 宇比≒初/うい ただ、高天原での土砂による国土形成譚に違和感を覚えるとなれば、白川静的な呪術祭祀観で神名を解釈する手が残されている。・・・ 宇[宀+于[四方上下]]≒軒先 須≒鬚 比/夶[右向]⇔从[左向] 地≒(降臨)處 智[矢+口+日]≒誓約 邇[辶+爾[巫女]]≒産土神的 小生は、このイメージは好みだが、神世7代を、生殖の流れとして解釈しようとすると適合性が悪すぎる。 ❹角杙神 ❹活杙神 "杙"が神格化していると考えるしかなさそうだ。 土砂で地盤が出来るというところから出発していると、次ぎは杙の打ち込みで大地を固定することになるとの筋になる訳だ。おそらく、賛同者は多いと思われるが、かなり恣意的な主張と言えないでもない。 一方、生殖へと進むプロセス表現の一環と考えると、"杙"は性器的な表象と解釈することになるのだろう。角よか活という装飾があるので、イメージ的には合う。 性的行為を表沙汰にすることを毛嫌いする儒教精神とは相容れないことをことごとに示す「古事記」らしさ芬々ということでもあり。 杙[木+弋[紐付矢]]≒境界に打ち込む杭/柵 …もともとは實如梨樹木名(劉杙)@ベトナム 角=獣角(堅く突起) 葦牙的(芽立ち) 本居信長の強引な解釈:凝集してモノが初めて生成 活[氵+口[祝禱収納呪器]+千[曲刀]]=活動(生命力) ❺意富斗能地神 ❺大斗乃辨神 斗を處と見なすと、様々な解釈が生まれることになる。 【居所】 居所を完成させる。 【大地】 「地に成るべき物」が凝り集まって、初めて国土が形成された。 【門を守る依り代】 具象的な神像の可能性も 【性器】 人体の門 意富≒[美称] 大=[美称] 斗≒處 能=の[格助詞] 乃=の[格助詞] 地≒(ヒコ)ヂ遅[尊称@男]⇔ハ[@女] 辨≒(ヒ)メ[尊称@女]⇔ヲ or (ヒ)コ[@男] 漢字としては、斗はハカリの意味もあるが。 ❻淤母陀琉神 ❻阿夜訶志古泥神 流れに合わせた4つの説があるそうだ。 人体の完成を表わす神 整った容貌に対する畏怖 神の言葉の神格化 防塞守護の神 淤母陀琉⇒面足…不足なく備わり整っている。 淤母≒面@「紀」 陀琉≒足@「紀」 阿夜=アナ[感嘆詞]…無い@「紀」 訶志古≒惶@「紀」=畏し/畏可…おそれる 泥≒根@「紀」=接尾語(親愛両性形) ❼伊邪那岐神 ❼伊邪那美神 細かな各論を詰めたところで、たいした意味はなかろうから、この辺りで打ち止めとするが、オマケとして、小生の意見を付けておこう。 先ず、国土形成の流れとか、生殖による生成へのプロセスという見方には乗りたくない点を挙げておこう。好みの問題ではなく、これはいかにも史書的な整理であり、「記紀」として読んでいるようなもの。別天神を無視し、「紀」の7代を始原と見なすのとなんらかわらないように見えるからだ。 上記で書いたように、小生は、常立神を場の守護役として解釈することにした。 そうすると、神世七代は全く異なる様相を示していることになる。ここは倭に於ける神祭祀の基本的行儀が逐一示されている様に見えてくるということ。 神は祭祀の場たる野に雲と共にやって来るのである。そして、座す場が設定されることになる。その土や砂には特別な意味があり、清浄さは不可欠であるのは言うまでもない。そして、そこには依り代が櫃等となる。そして、結界が形作られる。そこが聖なる地として異界と見なされ、寿ぐことができるようになると大神が座すことになる。(結界は僧伽が設定した空間を指す密教用語。しかし、仏像や仏舎利安置の場を清浄な領域とし、生活領域と区切ったに違いなく、それが神祇の祭祀様式の原点を考える切欠になったのではあるまいか。) それだけのことだが、ここは極めて重要なパートでもある。 記載されている行儀とは、神の行為と何ら変わるものではなく、その祭祀行儀の精神と神への信仰心とは不可分。 (C) 2021 RandDManagement.com →HOME |