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■■■ 「古事記」解釈 [2021.6.23] ■■■
[173] ユング・フロイト論の最良テキスト
「古事記」は、対象読者として、皇族とその親しき人々を第一義的に設定していそう。
読者の大半は漢籍を気軽に読める能力を身に着けているだけでなく、知的水準が極めて高いと見て間違いなかろう。

そう思うのは、現代の視点で、人間性を考える上での、素晴らしいテキストとして通用する内容に仕上がっているから。
だからこそ、佚書にならないで済んだのではなかろうか。そうでなければ、正統皇統譜記載書だから、政争で抹消させられていたのでは。公的な史書でさえ、系譜の巻だけは残らずなのだから。

「古事記」を用いれば、わざわざ題材として、バラバラに解体され尽くした西洋神話など持ち出さなくともよいのである。未だに生き続けている、一通りの良質な題材が手元に揃っている訳だ。

しかも、そのなかには、禊という滅多になさそうな話まで収録されている。穢れ感は万国共通に存在し、それこそが文化でもあるから、漱ぐ行為は誰でもが納得できる作法だろうが、その穢れから崇拝対象となる高貴な神々が生まれるという発想は極めてユニークで貴重と言えよう。
と言うか、神話を信仰から排除した社会の人々には、理解不能な筈。

ただ、神典と見なす人達も存在するだろうし、学童に聞かせるべき話ではないとPTAが主張しそうな気もするから、公然と議論してよいかはなんとも言えないが。

と言うことで、アンチ道徳・残酷な凶暴性を描いているとも言えそうな例を並べてみよう。・・・

最初だけは、道徳観念を露ほども感じられないが、そのことで導入譚の役割をはたしていると言えよう。
《セクシュアリティ》
性行動はその社会の文化におけるノルムに規定されていると考えられている。ところが、それを突き抜けた話なのだ。男女の身体の違いを互いに確認してから合意のもとに性交が行われることになる。但し、全くの情感無しの行為である。このような婚姻は珍しいが、愉快な問答であるのは間違いない。・・・
 於是問其妹伊邪那美命曰:
 「汝身者如何成?」
 答曰:
 「身者成成不成合處一處在」
 爾 伊邪那岐命詔:
 「我身者成成而成餘處一處在
  故以此 吾身成餘處刺塞汝身不成合處
  而 以爲生成國土生奈何」
 伊邪那美命答曰:
 「然善爾」


《準ネクロフィリア/屍体愛好
伊邪那岐命は亡妻を忘れられず、死者たる妻を訪れる。[欲相見其妹伊邪那美命 追往黄泉國].屍体性愛とは言い難いが、わざわざ恋しい人の遺骸を見たがる。

《マザー・コンプレックス》
速須佐之男命は全く知らない(言わば見捨てられた)母に会いたいと駄々っ子的に、無理な要望を強請り大騒ぎ。[僕者 欲罷妣國根之堅洲國 故哭]幼児的母子一体関係の裏返し表現と言えなくもない。

《エディプス・コンプレックス》
速須佐之男命は父の命には従いたくないし、父性一切無視である。道徳的父親に敵意を抱き、父親と異性関係を結んでいる母親に対して愛情を求めているともいえよう。[伊邪那岐大御~大忿怒]

《パラフィリア/性的倒錯
速須佐之男命は、馬の皮を逆に剥いで[逆剥天斑馬剥]、~御衣が織られている舎[忌服屋]に、頂きから墮入し驚かせたので、機織り巫女[天服織女]は用具[梭]を女性器に突き刺して[衝陰上]死んでしまう。

《準スカトロジー》
速須佐之男命は、屎の如く酔った下呂吐きまき散らし[如屎 醉而吐散]、田の畔を壊して溝を埋め、新年会(大嘗祭)も汚す。

[和製英語]シスター・コンプレックス》
速須佐之男命は、唯一の母性的存在である姉に、恋愛感情の裏返し的悪行を働く。

《ミソジニー/女性嫌悪》+《逆スカトロジー》
速須佐之男命が、大氣津比賣~に食物を乞うと、出してくれたものの[自鼻口及尻種種味物取出 而 種種作具 而 進]、穢く汚れているので殺してしまった。
…"食⇒糞尿"の論理は多分教わらなくともわかるが、そこから、"糞尿⇒食"の論理を導くのはたいしたもの。ここには 地母神に対する処遇感は無いから、女系の豊穣神的信仰を否定する風合いが濃い。
この話が出雲での話に進む結節点になっており、土偶的地母神の死体から穀類が生まれる話に重点があるのではなく、女系⇒男系の転回点の方にウエイトがかかった話ではないか。一妻多夫型で血筋は明確とならない場合が多い女系では部族国家止まりであり、部族統合の王権樹立のためには男系の方が好都合な筈。(ところが、倭では卑弥呼的統治の連合王国が安定していたりするのだが。)

《エキシビショニズム/露出性愛
天宇受賣命は、集合している神々の面前で、自ら、自分の裸体と性器を公然と晒して[掛出胸乳 裳飼E垂於番登]、共に咲った。[高天原動而 八百萬~共咲]…現代で言えばストリップに他ならない。

《ほぼサディズム》
小碓命(倭建御子)は、兄が朝 廁に入るのを待ちかまえていて、捕えて押さえつけ、殴り、 手足をもぎ薦に包んで投げ棄てた[朝署入廁之時 待捕 搤批 而 引闕其枝裹薦投棄]
さらに、熊曾建兄弟成敗では、尻から剣を突き刺して殺害[本取其背皮劒自尻刺通]

《準ロリータ・コンプレックス》
大長谷若建命/雄略天皇は好色であるが、遊行で美しい童女を見初め呼ぶことに。[河邊有洗衣童女其容姿其麗]しかし、80になるまで、忘れていたのであり、気にいったらすぐ手を出していたように映る。童女には目がなさそうにも思えてくる。

《好色》
大雀命/仁徳天皇は八田若郎女と結婚し、昼も夜も戯れ遊んだ。[婚八田若郎女而晝夜戲遊]

《近親相姦》
弟 男浅津間若子宿祢命/允恭天皇の皇位継承者だった木梨之輕太子は同母の妹軽大郎女と結ばれてしまった。養育する家が異なる兄妹・姉弟婚姻は大いに推奨されたが、同腹の場合は一緒に養育されることが多いので禁忌だったようだ。単に、社会的なルールを破っただけで、皇位継承争いで罪を負うことになったようにも映る。悲恋譚として"美しく"仕上がっているからだが。

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