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■■■ 「古事記」解釈 [2021.8.8] ■■■
[219] 小小坊登場には仰天
鳥草樹/さしぶという植物が登場してくるが、それはシャシャンボ/小小坊/南燭を指すとされている。
"ふ〜ん。それで。"という気分だったが、折角なので、チョット調べてみて仰天。

面倒臭がらず、出来る限り網羅的に検討する姿勢は重要というか、必須であることを思い知らされた。

    《皇后嫉妬の八田若郎女譚@[16]仁徳
  其太后石之日賣命甚多嫉妬・・・
   (K日賣譚)・・・

  自此後時 太后爲將豐樂 而
  於採御綱柏 幸行木國之間
  天皇婚八田若郎女・・・
  於是 太后大恨怒
  載其御船之御綱柏者 悉投棄於海・・・
  即 不入坐宮 而 引避其御船
  泝於堀江 隨河 而 上幸山代
  此時歌曰:
   つぎねふや 山代川を 川上り
   吾が上れば 川の辺に 生ひ立てる
   烏草樹[佐斯夫]烏草樹の木
   其が下に 生ひ立てる 葉広斎つ真椿・・・

祭祀に用いる御綱柏や、常盤木としての椿が登場するのはわかるが、得体の知れぬ名前の烏草樹の木が突如出てこられたのでは、浅学の身にはさっぱりわからない。
しかも、その植物はシャシャンボと呼ばれ、小さな実が成るだけというのだから。まるで子供だまし的な感じの話だ。

しかし、漢名があるので検索してみると、南(天)燭=烏飯原と。烏草樹とは、飯に用いる特別な植物だったのである。
シャシャンボは青精飯の主要原料ということ。葉を砕いた汁に米を浸漬したのが烏飯ということになる。
なんのことはない、道教の養生術。
もちろん、実も効能ありとされる。

結構有名な術らしい。
なんと、"草木之王"なのである。これには流石に仰天。
 杜甫:「贈李白」
  ・・・蔬食常不抱
  豈無
青精飯 使我顏色好・・・

  霍山中有學道者ケ伯元、王玄甫,受服青精石飯
  吞日丹景之法,
[陶弘景:「真誥」卷十四稽神樞四]

  "太極真人青精乾石䭀飯上仙靈方”・・・
  
南燭草木葉五斤,燥者用三斤或都用三斤,
  亦可雜用莖及皮益佳,多取令淹潚一斛二斗米耳,
  不待斤兩之制度也,以意消息之。其樹是木,而葉似草,
  故號
南燭草木也,
  一名猴藥,一名男續,一名後卓,一名惟那木,一名
草木之王。・・・
  《上元寶經》曰:
    「子食草木之王,氣與神通;子食青燭之津,命不復殞。」

     [張君房:「雲笈七籤」卷七四方藥部一]

道教の養生術は、朝廷を実質的に差配している太后に入り込んでいたのである。
太安万侶の序文は、こうした状況を踏まえたものだったのか。

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